第2話 勇者大勝利!絶望の王国崩壊へレディー・ゴー!!

 浮気と共に魔王を倒した後に俺を始末するつもりだったことを暴露され、魔王を倒すことも拒絶され、進退窮まるマルールを筆頭にした3人の女だったが最初に動いたのはヒルデだった。


「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!死ね勇者ァ!“疾風突き”!!」


 混乱か、錯乱か、この場でやけくそになったのかはわからないが俺に向かって剣を構えて突っ込んできたのでトールを後ろに下がらせて迎撃のために剣を向ける。こんな攻撃、うっかりトールにあたってしまったら死んでしまう!女神さま、どうしてトールはすぐ死んでしまうん?

 だがトールにとっては致命的でも、俺からしたらヒルデの攻撃は欠伸の出そうな程のろっちい動きでしかない。魔王との戦いのダメージと疲労が残る今なら、俺を倒せると踏んでの事だろうか?甘い、甘すぎる!!!

 少しだけ身体を動かし、最低限の動作だけで姫騎士自慢の斬撃を受け流した後に、間髪入れずに返す刃を振るった。


「―――ヒルデ、お前、まだ自分が殺されないと勘違いしてるんじゃないか?」


 俺の攻撃に反応して咄嗟に回避の動きを取り2歩、3歩と後退したヒルデが、遅れて自分の身体に起きた異変に気づいて絶望に顔を青くしながら悲鳴を上げた。


「ないよぉ?!腕ないよぉ?!?!」


 俺はまだ技ですらない斬撃しか放っていないがそれで充分だった。ヒルデの両腕は斬り飛ばされ、今は地面に転がっている。一応斬ると同時に炎属性を付与して切断面を焼いてやることも忘れていないので、出血を防ぎ失血死を防ぐだけでなく魔力で焼かれた切断面の治癒をする事が出来ない状態にしておく気配りも完璧だ。こういう所が気遣いの出来る男の違いなんだぞってトールに教えられたからな!

 剣技が自慢のヒルデだが今後剣技を振るう事はなくなった。なぁ今どんな気持ち?どんな気持ち??

 

 そう、これが『勇者』。世界最強の暴力、人類の頂点の力。同じように加護を与えられたお前達とは、絶対に越えられない壁があるんだよ。だから魔王を倒した後に俺を始末するというお前たちの目論見も最初から無駄だったんだけどな。


「ア、アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア?!イヤァアアアアアアアアア!!王子ィ、助けて王子ィ!!ネドリッグおうじぃィィィィ!!」


 狂ったように叫んでから、ぐるりと瞳が回転し白目になり意識を失ったヒルデがその場に倒れた。


「仲間になんてことを……エリオット、貴方って最低のクズね!!」


 慌ててヒルデを抱き留めたマルールが俺を親の仇でも見るような目で睨みながら毒づく。


「はぁ?最初にこっちを殺そうとしてきたのはその女だぞ?」


「五月蠅い黙れ!!あんたが魔王を倒してればこんな事にはならなかったんでしょうが!!そういう器のちっささが王子に男として負けたんだってわかりなさいよね!!」


 なんかキーキーとマルールが叫んでいるが、聞くに堪えない。滅茶苦茶な言い分だがその程度しか言い返せないんだろうな。そもそもお前たちが俺を裏切る算段なんてしなければこんな事にはなっていない訳なんだが、そこんところがすっぽぬけて魔王にとどめを刺さない俺だけが一方的に悪いとわめきたてている。こんなに馬鹿だったのかこいつ?


「そうかそうか、つまりお前はそう言う奴なんだな。まぁ、それなら後の事は王子が何とかするだろう。じゃあな!行こうぜトール」


 トールと共に戦いを放棄することを提案したら、セシリアが俺を引き止めるようとしてか四つん這いになり額を地面にこすりつけながら懇願してきた。


「待って、待ってくださいエリオット!!私たちだけでは魔王を倒すことはできません!!ここで魔王を倒さずに放置したら、王国は魔王の反撃で滅びることになります!!貴方を裏切っていたことは謝ります!お望みなら、貴方に抱かれます!だからどうかここは溜飲を下げて魔王にとどめだけは刺していただけないでしょうか?」


「そうか、それは大変だな必死に頑張るといい俺には関係ないね。

 ……この戦争がなんで起きたのか、旅の中で分かったしな。

 開戦のきっかけがお前達を抱いていたあの色ボケ王子が国境に近い村に住む魔族の娘達を攫っては凌辱して飽きたら他国に売り飛ばすっていうのを繰り返していたのが原因だったのも知った今、正直王国のために戦う気なんか微塵も起きんわ。

 自国民がそんな事されたら誰だってブチ切れる。王国の無辜の国民は巻き添えになるのは可哀想だと思うけど王子が撒いた火種なんだから王子が自分で火を消せばいいだろ?それとお前を抱きたいとも思わないから俺を動かす対価にはならんよ」


 取りつく島もない態度に顔をあげたセシリアが口をパクパクしている。瀕死の魚みたいでおもしれー女。

 そもそも俺が受けた女神からの天啓は“この戦いを終わらせること”で別に魔王を討てともいわれていなかったから別に魔王を討たなきゃいけないわけじゃないのだ。だから女神さまは魔王を討てといわなかったのかもしれない。そもそも思い違いをしていたから、女神はいっそ戦いを終わらせるために王子を討てって意図だったのかもしれないしな、今から思えば。知らんけど。


「――――ハッ?!魔王が!!」


 マルールの言葉に振り向くと、そこには魔王が立っていた。


「もうだめよぉ、おしまいよぉ!!逃げるんだよぉーッセシリアーッ!!!」


 ヒルデを抱えたマルールとセシリアが、脱兎のごとく駆け出して逃げていった。

 去って行った3人を見送り、疲れ切った俺は仰向けになり大の字に倒れながら改めて魔王に話しかけた。そこに立つ魔王には既に敵意がない事を感じ取っていたから。


「……女とはかくも難儀なものだな、勇者よ」


 どこか実体験と実感と疲れのこもった魔王の言葉に思わず苦笑してしまう。


「あぁ。だがあの3人の行為をうつした水晶は大量に複製して世界中にバラまいてきた。王国だけでなく国外にもな。勿論セシリアを派遣した教会の総本山にもだ。だからあの3人と王子の企みは世界中の知るところになる、まぁ、その後あいつらがどんな目にあうかは俺の知った事ではないがね」


「フッフッフ、そうか。それは良い報復をしたな」


 愉快そうに笑う魔王。そこには敵対の意志はなく親しみすら感じる程だった。


「―――勇者よ、我は“人類”との戦争をしているつもりはなく“王国”との戦争をしていたつもりだ。それ故に王国との戦線は侵攻しているが他国には侵攻しておらず防衛に努めていた」


「あぁ、やっぱりそんな所だろうと思ったよ。まぁこの後は色々と潮目も変わるんじゃないの?王国というか王子がカスで原因だったのが広まるように手筈は整えてきたから、なんだったら王国が他の国から攻められるかもしれないしね。俺は戦いを放棄したから関係ないけど」


 他国を扇動して人類対魔族って構図にしてたのは王国なんだろうなぁとはおもってたけどやっぱりか。もうこれ王子こそが邪悪そのものだと思う。王達がどこまで知ってるかは知らんけど、魔族に攻め入られる以前に人類サイドに王国の王族が粛清される可能性もある。


「勇者よ、戦いを放棄して、お前はどうするつもりだ?」


「この戦いの中で随分と無理も無茶もして身体の至る所がガタ来て悲鳴あげてる。俺の身体はボロボロだ!……てな。だから南に行こうと思う、良い湯治もあるって聞いたから湯船につかって傷を癒しながら後の余生はのんびり暮らすさ」


「そうか。……ぬぅぅぅぅん!!」


 俺の言葉に頷いた魔王が、俺の傍の床に拳で大穴をあける魔王。


「この一撃は女を寝取られた強敵(とも)への、寝取りに対して怒りを籠めた一撃!魔王と闘った勇者エリオットはここで果てた。ここにいるのは何物にも縛られず生きる一人の男―――身体をいとえよ、エリオット」


 にやり、と笑う魔王にこちらも笑顔で返す。言葉はいらない、そこには剣を交えた男同士の奇妙な友情があった。

 俺という最強戦力を喪った王国は、間違いなく魔王、もしくは他の国に滅ぼされるだろう。だが、それは俺に関係のない事だ。ここからは俺の人生を生きればいい。


「なぁ魔王、何故お前は俺との戦いを辞めたんだ?」


「フッ、我も魔王となる前は一人の魔族の男だった。だが幼馴染の恋人を先代魔王に寝取られ、復讐のために自らを鍛えて殺戮した結果が魔王の地位よ」


 成程、同じ幼馴染ネトラレの痛みを知るからこそか。幼馴染ってのはどうしてこう、寝取られるんだろうなぁ。教えてくれトール、女神は何も答えてはくれない。


「いつか戦いが終わったら、お前のざまぁ話も聞かせてくれよ兄弟」


 俺の言葉に、魔王が笑みとともに頷いている。話も終わったしさて移動しようかとしたら体がつかれてうごかない。


「あー、動こうとしても疲れ切って動けないわ。トールおぶってってくんない?」


「しゃーねーなー。でも重いから鎧は脱いでくれよな」


 ガチャガチャ、ジーッ……ボロンッ(?)。そんな音と共に鎧を脱ぎ捨てると随分と身軽になった。よっこらせくろすっ!という珍奇な掛け声とともにトールに担がれ、魔王に見送られながら俺達は魔王城を後にするのだった。

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