息子

 一年前、江崎雅史は、銀河連合の地球代表理事である伊藤隆弘の自宅に呼ばれていた。

「伊藤さんお久しぶりです。まさか書類に私の名前があったので、なつかしさのあまり呼んだというのではないですよね」

「本当はそうしたいが、残念ながらだ」


「隆一くんのことですね」

「今回の事は、表面上は隆一への親バカで会うことにしている」

「どういうことです?」

「隆一をどう思っていた?」


隆一が大学の時、江崎は指導教官だった。

「前にも話しましたが、大学自体の彼は、可もなく不可もなく、普通といった所でしょうか。正直な所、伊藤さんの息子さんでなかったら、記憶に残るかどうかわからない生徒ですね」

「そうだろうな、実は彼には黙って知性調査を行った」

「それって、親子でも違法……」

「言ってくれるな。親バカと思ってくれても良いが、地球代表理の職務でもあった」

「それで結果は?」

「結果はA++だ。百万人に一人のレベルだ。お前も俺もあいつにだまされていた訳だ」

「A++って、私は彼の足元にも及ばないレベル? まさか。ずっとだましていた?  何故だましていたのでしょうか?」

「俺のせいだ。地球代表理事の息子で知性が高いとなれば、将来が決まってしまう。あいつはそれが嫌だったみたいだ」

「じゃ彼のあの軽さも演技?」

「調査では、最初は演技だったが、習い性になった可能性が高いらしい」



「それで、私にどうしろと?」

「ふむ、これからは親バカでなく、地球代表理の話になる。無論、エンデュラスの調査隊のことだ」

「わからないですね。若いが優秀な人間が調査に行く。それがなぜ問題になるのですか?」


「前回のエンデュラスの調査隊の宇宙船が回収されて調査が行われることになった訳だが、その理由は知っているか?」

「世間では、エンデュラスにいる知性体を発展させて銀河連合のAクラス入りを正式なものにするためと騒がれていますが、違うのですか?」

「無論それもある。しかし本当の目的はエネルギーだ。トップシークレットだが、調査隊がいた惑星には高エネルギー物質があるらしい。核分裂の様な汚いエネルギーではないし、大規模設備が必要な核融合でもないらしい」


「しかし、設備が必要とはいえ、核融合で大きな問題はないのでは?」

「地球上ではな。しかし宇宙では異なる。次元航法には莫大なエネルギーが必要だ。今はゲートでエネルギーを受けて次元航法を行っているが、出発点にゲートがないと次元航法が行えない。宇宙船内で簡単にエネルギーを取り出せるようになれば、単独で次元航法が行える。宇宙貿易が大きく変わるはずだ」


「それこそ、銀河連合で取り組めば良い話では?」

「銀河連合は善良な星系人だけでない。特に例のヴァルラス星人は、次元航法を多用している。戦いで地球が勝ったのも、彼らのエネルギーが尽きたためだ。二百年間彼らが何も仕掛けて来なかったのは、単独で次元航法のできる宇宙船、つまり小型の核融合炉を開発していたからだ。まだまだ実験レベルだが、この段階でエンデュラスの高エネルギー物質の話が知られれば、間違いなく戦いになる」


「それじゃ、実績豊富な指揮官の調査隊の方が良かったのでは?」

「ヴァルラスに漏れる可能性が高い。だから親バカとして隆一を隊長にした。使用する宇宙船も巡洋艦とは言え二百年前の廃棄寸前の物を使って、経費を抑えているように見せかけている」

「見せかけている?」

「確かに予備役保管モスボールだが、兵器はそのままだ。確かに乗員は定員にはできないが、実験と偽って自動化し、AIも最新鋭にする。無論、船長もあの船に慣れた人物だ」

「慣れた人物って、二百年前の船ですよ。二百歳の幽霊船長じゃないですよね」

「幽霊じゃないが、近いと言えば近い。それ以上は言わない方が良いだろう」

「別の秘密がある?」

「知ってしまうと、対応が変わるからだ。それに本人も望んでいない」


「そうですか、すぐに会うから構いませんが。もう一つ聞きたいのですが?」

「言うべきことは言ったと思ったが?」

「隆一くんの軽薄さは、あなたの指示ではないですよね。エンデュラスからの連絡ポットはもっと前に来ていて、今回の調査のために、隆一くんに芝居させていたということはないですよね?」

「連絡ポッドがもっと前に来ていれば、もっと適切な人物を隊長にしているよ」

「その場合、隆一くんは?」

「親としての本音を言えば、参加させたくない。あの軽薄さのまま、自分の決めた道を進ませたかった」

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