最高司祭
神主ゼータの頼みとは、エステが付けているバイオカムの視聴覚データを最高司祭との会合の動画像放送に使用できないかということだった。
エステ本人は、最高司祭との会合に参加できると喜んでおり、江崎副隊長もこの星の文化や技術の内容が分かると乗り気になっていた。このため、隆一も許可せざるを得なくなった。
技術担当の真司が現場に出向いて、機器の接続調整を行うことになった。
最高司祭との会合には、隊長の隆一、副隊長の江崎、心理サポートとしてマキの三名。現地星人側は、オメガと名付けられた最高司祭、イータと名付けられたもう一人の司祭、顔見知りになった神主のゼータの三名。それにレポータとしてエステと映像装置の調整として真司が参加する形になった。
絡艇が発着できる場所が設けられていたが、会合が行われる場所は、見学者のいないこざっぱりした部屋であった。
全員が所定の場所に着席すると、イータが話始めた。
「遠い所からようこそおいで下さいました。感謝します」
これを受けて江崎が答えた。
「どういたしまして、三百年間、放っておいた形になり、申し訳ありません」
「三百年の間、連絡が取れなかった理由は理解しています。また、前回の調査隊はベストを尽くしたと理解しています。申し訳ありませんが、率直に質問します。あなた方は、前回調査隊の後継者ですか?」
隆一が答えた。
「後継者か否か、私たちも断定できません。一年前、調査隊から連絡ポッドは地球に届き、そこにあなた方のことが書かれていたので、再調査にきたのです。ですから前回調査隊から直接連絡・指示を受けた訳ではありません。しかし、前回調査隊の意思を受けて調査に来たという意味では後継者です」
イータの質問は想定されたものであり、回答も母船で事前に検討したものであった。下手に後継者と強調するより、相手の判断に委ねるべきものとの結論から出たものであった。
「前回調査隊の意思の入った連絡ポッドが地球に届いたことが事実か否か、そしてあなた方が前回調査隊と同じ地球から来たが否か、私達には分かりません。」
イータの回答に対して、江崎が反論した。
「『局』でのゼータさんの祝詞に、日本語が入っていました。その言葉を私たちは理解できます。ですから、少なくとも地球の日本から来たことは間違いないと言えるのではないですか?」
「あなた方が地球外から来たとしても、日本語を学べるのではないでしょうか?」
「確かに、地球外でも日本語は学べます。しかし、日本語は地球においても、一部地域で使用される限定用語です。地球外で日本語を学んだとしても深くは学習できません。その場で理解することは、ほぼ不可能です。」
「しかし、あなた方は私たちの言葉をほぼ問題なく理解できている。同じことが日本語で言えるのでは?」
エステが恐る恐る発言した。「発言してもよろしいでしょうか?」
最高司祭のオメガがうなずいたので、エステは話始めた。
「私の体に埋め込まれている機械経由でプロメテウスが、話したがっています。彼は人で言えば数万人の能力を持っています。その能力を持っても、放送を聞いて私たちの言葉を理解するのに二週間程度かかっているそうです。それでも祝詞の最初と最後の言葉は訳せませんでした。
何が言いたいかというと、通訳者は、日ごろ使っている言葉同士でないと、簡単には訳せません。学んだだけでは、時間をかければ理解できるでしょうが、すぐに理解することは不可能です」
このエステとプロメテウスの言葉を受けて、神主のゼータが答えた。
「私たちは、祝詞の言葉を学んでいるし、理解していますが、それは祝詞の形式が定まっているからです。古い人たちが急に現れて話始めたとしたら、私はすぐに理解できるか自信ありません」
イータが反応した「神主として問題発言ですね」
「認めるべきは認める。それが相互理解の第一歩だ」最高司祭が日本語で発言した。
「そうですね」イータも日本語で同意した。
隆一は、多少打ち解けて来たと感じたので、提案を行った。
「では、これから日本語で話しましょうか」
最高司祭が笑いながら応じた。
「個人的には興味があるが、他の人たちも見ている。このままの方がよい」
隆一は、目の端で、イータとゼータが安堵するのを見て取った。
イータは続けて発言した。
「地球の日本から来たということは納得できました。しかしこれで、あなた方を調査隊の後継者であると確認した訳ではありません。調査隊と偽る悪魔の使いは二種類あると認識しています。一つは日本以外から調査隊と偽ってくる者たち。あなた方はこの者たちではないことは分かりました。もう一つが日本から来ているが、調査隊ではない人たち。まだこの者たちでないことを証明していません」
隆一が再び話始めた。
「初めに話しましたように、前回調査隊とはコンタクトしようがありません。行うことがあるとすれば、地球に戻って前回調査隊の連絡ポットを持って来るか、政府の親書を持って来るぐらいです」
再びイータとの話になった。
「連絡ポットや親書を持ってこられても、それが本物であるかどうか私たちには判断できません。それに、地球に戻ること自体、やめて頂きたい」
「なぜ、地球に戻ることがだめなのですか?」
「この惑星には、高エネルギー物質があることは判っています。だからこそこのような審問を行っている訳ですが。あなた方が地球に戻れば、この惑星に高エネルギー物質があることが他の星系にも知れ渡るでしょう。そうなると、調査隊を偽るなどせずに、直接奪いにくるものも出てくるでしょう。そうなると、悪魔の使いどころか悪魔そのものとの闘いになります」
マキが静かに聞いた「私達が無理やりに帰ったら?」
イータは悲しそうに答えた。
「私たちには、あなた方を止める力はありません。しかし、あなた方を悪魔の使いと断定します。そして……」
しばらく言いよどんで、答えた。
「高エネルギー物質を地中で爆発させます。高エネルギー物質を高速で衝突させれば爆発が起こることは知っています。そのための加速器も完成しています。一度爆発が起これば、この惑星に存在する高エネルギー物質は連鎖して爆発します。多分、この惑星のみならず、この星系そのものが破壊されるでしょう」
マキは言葉が出なかった。
江崎が聞いた。
「この会合は放送されていると聞いています。今の話、大丈夫なのですか?」
イータは静かに答えた。
「心配してくれてありがとう。しかし心配いりません。住民全員が知っていることです」
隆一が聞いた。
「エステほんとう?」
「はい。小さい頃から学んでいます。方法は知りませんでしたが」
マキが再び聞いた。「エステ死んでしまうのよ?」
「はい。訪ねてくる人たちが悪魔の使いなら死ぬかもしれないと学んでいます」
マキはエステの回答が理解できなかった。
「なぜなの? 死ぬのよ。なぜ納得できるの?」
「もちろん、死ぬのは嫌です。寿命なら仕方ないですが。事故などで急に死ぬのは嫌です。しかし、悪魔の使いや悪魔を道連れにして死ぬなら納得できます。死ぬことに価値が出てきます。この放送を聞いている人たちも同じ答のはずです。逆にあなた達が驚いていることが、理解できずに驚いていると思います」
神主のゼータは補足する。
「私たちは子供のころから、この死を含めて調査隊の教えを学びます。この前に来ていただいた局はそのための施設です。オメガもイータもそのための指導者です」
最高司祭のオメガが言葉を絞り出すように続けた。
「日本から来る人たちが、偽りの調査隊で悪魔の使いではないと、どの様に証明すれば良いか、私たちにも分かりません。あなた方がこの惑星に来ていることは、時間が経てば他の星系に知られるでしょうが、まだまだ時間はあるはずです。エスタを助けてくれたことから、あなた方を信じたい。私たちが納得できる答を見つけて下さい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます