現地調査

 前回の会議での渡辺真司の要求を受け、高密度アルミのサンプル入手を行うこととなった。

まずは惑星の内部構造調査として、二つの月のアルファとベータ、そして宇宙船の三点を使って、ニュートリノ3Dスキャンが行われた。

スキャンの結果、高密度アルミが惑星に普遍的に存在していた。

また、惑星には大きな海がない代わりに、地殻変動の結果できたと思われる破れ目のような深い湖が点在しており、湖の底に高密度アルミが存在している可能が高いこともわかった。


このため、連絡艇を改造して、湖に潜ることになった。

乗員は要求者である渡辺真司と、やはり最も暇な隊長の伊藤隆一になった。



 潜水が可能なように改造された連絡艇は目立たぬように夜半に湖に到着し、潜行を開始してから小一時間、真司は船艇の状態確認や湖底の確認で忙しくしているが、隆一は、やることがない。

「暇だ。恐竜か何か変わった生き物がいるかと思ったが、小魚しかいない」

真司は隆一の独り言に迷惑そうな顔をしていたが、黙っていた。

真司にとって隆一は、この調査隊では機関士のケン以外で初めて技術的思考を理解してくれる人物としてそれなりの敬意を払っていたが、正直、隆一の独り言はうるさかった。


隆一の呟きは続ていた。

「湖底まで一万メートル、千気圧、この船は大丈夫かな?」

さすがに自分が改造した船のことを言われたので、真司も無視できなくなった。

「重力シールドでカバーしてます」

「そうは言っても、この船は元々宇宙、真空用だろ。千気圧つまり1平方センチ当たり1トンの力が加わるわけでしょ。頭では分かっていても心配だよ」

「外壁の重力シールドは一万気圧まで耐えられます」

「わかってはいるが、恐竜の様な大きな生物が襲ってきたらやばいのでは」

「重力シールド以外に、重力フィールドがあります。外壁から十メートル以内に近づいたら、対象の運動エネルギーに応じて跳ね飛ばす様になってます」

「運動エネルギーで跳ね飛ばす?」

「質量と向かって来る速度に合わせて、逆向きの運動エネルギーを倍にして与えます。これによって、小さな魚など影響はほとんどありませんが、大きな質量や高速で向かってくる物体は、跳ね飛ばします」

「言っていることは、わかるけどな~」


真司は多少イラつきながら答えた。

「どれ程強力か、重力フィールドは難しいですが、重力シールドなら消せますよ。アッ、認識できる前に押し潰されるか。隊長の周りだけやってみましょうか?」

真司は珍しく冗談を言っているが、場合によってはやりかねない可能性があると、隆一は思い至った。

「いえ、遠慮します」

隆一は、静かにしていなければならないと理解したようであった。



 しばらくして、湖底に到着した。

岩が散乱している場所であった。そこに小さな甲殻類と思われる動物が点在していた。

「岩ばかりだ」隆一がつぶやいた。

「やはり地殻変動でできたみたいですね」

「プレートテクトニクス移動の地殻変動?」

「ここには、プレートつまり大陸はありません。しいて言えば一枚のプレートで構成されています。プレート同士がぶつかった変動ではなく、地殻が何らかの原因で拡張して割れたといった所でしょう」

「しかし、同じように地震でできた?」

「地表には大きな山脈もありませんし、地震の痕跡も湖以外、ほとんど見当たりません。地震は主に地殻下部で発生する様ですね」

「その地震が発生しやすい場所にいるのではないの?」


隆一の心配に、真司は気楽に答えた。

「地殻変動で発生した割れ目にいるのですから、そうでしょうね」

隆一が心配そうにつぶやいた。

「じゃ、はやく済まそう。アルミはあるのかな?」

「センサーで見る限り、いたるところにありますね」

「じゃ、すぐ終わるね」

「サンプルを入手しないと高密度アルミかどうか分かりません」

「重力シールドを切って、作業するの?」

真司が笑いながら答えた。

「シールドは切りませんよ。さすがに危ないです。シールドの外、重力フィールドの影響下で行います。サンプルの質量は小さいですし、動きも遅いですから、スムーズに作業できるでしょう」

「けれども、船内に入れられないでしょう」

「大丈夫です。船外に分析装置を置いてますので確認できます」



 小一時間ほどかけて、様々な高密度アルミのサンプルを入手して一休みしていると、母船のプロメテウスから緊急連絡が入った。

「付近で歪エネルギー増大。地殻変動が起こる可能性が高いです」

真司が大声を発した。

「作業終了。緊急浮上します」

連絡艇は、急上昇を始め、すくに時速百キロに達した。

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