高エネルギー物質
隆一は、続いて技術担当の真司の部屋を訪ねた。
隆一はディスプレイの前で腕組みをしている真司に声を掛けた。
「どう?」
真司からの反応はなく、応援に来ているケンが答えた。
「相当悩んでいるみたいです」
「何で悩んでいるの?」
ケンは自笑気味に答えた「惑星の重質量は、どういった訳かアルミのせいだったのです。」
「アルミって、軽い金属のアルミ? それがどうして重くなるの?」
「考えられないくらい高密度のアルミです」
「アルミが高密度になる? そんなことがなぜ……」
「それ以上に問題なのは、その高密度のアルミは通常状態に戻るとき、莫大なエネルギーを放出することです」
「第四惑星は爆弾を抱えているということ?」
「はい。第四惑星そのものは爆弾といった方が正しいかもしれません」
「なぜ、そんなものがあの惑星に?」
「それで、真司があの状態なのです。もう二時間以上です」
「それは問題だな」
そう隆一は答えて、真司の後ろに回り、ディスプレイを見て言った。
「アルミのspdの各電子軌道?」
「はい。K、L殻の量子確率的軌道です」
ケンは、真司が隆一の問いに反応しているのに驚いていた。
真司も、隆一がディスプレイの画面で何を映しているか判断できたことに、そして自分が答えたことに自分自身が驚きながら、その感情を隠そうと言葉を続けた。
「電子がK殻に落ち込んだため、原子間距離が縮まったのだと思います」
「しかし、それでは答えにならない?」
真司はこの問いに笑うことで答えた。
それを確認して、隆一は発した。
「お二人は優秀な科学者ではあるが工学系だ。この問題は物理、多分量子力学の範疇でしょう。であるなら、不得意な物理でなく、工学で考えたらどうですか?」
真司とケンは顔を見合わせて、隆一に尋ねた。
「どういうことですか?」
「アルミがどういった理由や原因で高密度になったかわからないですが、すでに存在している。それも多分長期に渡って、そうであれば、一応は問題ないと考えられます。問題があるとすれば、エネルギー放出つまり爆発でしょう。そのエネルギー放出の条件を考えておけば良いのでは?」
まずケンが答えた。
「詳しくはわかりません。その情報は復元できませんでした。ただその後のベータムーンをプロープで調べた結果、地表にアルミ原子が残っていました。ベータでエネルギー放出の実験が行われたようです。前回調査隊はエネルギー放出の条件は分かっていたようです」
それを受けて真司が答えた。
「ベータでの爆発実験から、エネルギー放出は連鎖的に起こったと考えられます。しかも、エネルギー放出後もアルミの原子そのものは変わっていないので、核分裂や核融合の様な素粒子を仲介した核反応ではない。多分、放出されたエネルギーそのもので次のエネルギー放出が行われるのでしょう。しかも、相当の高エネルギーでないと簡単にはエネルギー放出が行われず、連鎖反応も起きないでしょう」
「それだけわかれば、調査隊としては充分ではないですか。後は地球の専門家に悩んでもらえばよいでしょう」
隆一が結論づけようとしていたところ、真司から提案が出された。
「分かりました。しかし、やはり可能なら、高密度のアルミの調査・分析は続けるべきと思います。エネルギー放出の安全範囲は把握しておくべきですし、少なくとも現物がないと地球の専門家も悩みようがないでしょう」
「そうですね。電波傍受での言語解析にも時間が必要な様ですし、可能な限り現物は必要ですね」
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