現地人

 隆一は、トーマスの話どおり、江崎博士の部屋を訪ねていた。

「進捗はどうですか?」

「ちょうど、一息入れようとしていた。マキくん、お茶を頼む」

「はい、先生。隆一もお茶でいいよね」

「できれば、コー……」

「お茶ね」

「はい、お茶でいいです」

江崎は笑いながら、二人のやり取りを見ていた。

「すでに尻に敷かれているようだな」

「先生からの指導のおかげです」

「責任転嫁はやめてくれよ」

「はい。それでどうでしたか?」

「前回の調査隊が訪れた時は、惑星には集落が発生していた段階みたいだ」

「それが、三百年で電波を使う段階まで来た?」

「調査隊が発展に関与したとしか考えられない」

マキが茶を淹れて戻って来た。

「文化の変化よりも、もっと大変なことがわかったのよ」

「まさか、地球人類と祖先が同じだったとか?」

江崎とマキは、驚いて顔を見合わせた。

「なぜ知ってるの?」

「へ?」今度は隆一が驚いた。

「まさか、本当に同じ祖先……」

「染色体が四十八本もある。全く別系統だ。しかしながら、生理学上ほとんど差異がない。詳しくはプロメテウスが調べているが、医学的な差異がほとんど見当たらない様子だ」

プロメテウスが補足説明する。

「現在わかっている違いは、声帯が未発達な点ぐらいです。声の出し方が、声帯より鼻の共鳴をよく使うためと考えられます。しかし、地球でも、鼻腔共鳴を使うので声帯が未発達な民族がいると言われれば納得できる範囲です」

隆一がプロメテウスの説明の感想を述べた。

「前回、調査隊はあまり苦労せずに、現地に溶け込めたみたいですね」

マキも補足する。

「苦労したかどうかは分からないけど、肉体的に似通っているなら親近感はあったはず。親近感があれば積極的に文化・文明発展に関与したはずよ」

江崎も追加した。

「これ以上は、プロメテウスの言語分析が進むのを待つしかないな。その後、彼らの思考過程を理解しないと詳しい判断できない」

プロメテウスが再び発言した。

「音声放送も、動画放送も受信できています。認識できる語彙も増えています。そのことで言えば、地球人類に似ていること以外でも、驚くべきことがあります。惑星全体で同じ言語を話している様です。なぜ統一言語になったのかは、文化レベルと同じくまだ詳細は分かりませんが、もう少し時間があればわかりそうです」

このプロメテウスの発言を受けて、江崎が話始めた。

「ここは、異星人文化を研究する者にとって、夢のような場所だ。調査隊が来た集落の段階では言語はバラバラだった。それが三百年で統一された。調査隊の影響であるのは間違いないだろう。どの様な手法でそれがなされたのか、そして言語統一によって、文化・文明にどのような影響がでたか興味が尽きない。プロメテウスの言語分析が終われば、どのようにして急速に文化発展がなされたのか推測できるようになるだろう。それまでに残された資料から集落状態でどのような文化が構成されていたか調べておく必要がある」

隆一は、このままこの部屋に留まっていると、江崎博士の手伝いをさせられそうになると感じ、退散することにした。

「わかりました。頑張って下さい」そう言い残して、急ぎ部屋を出た。


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