1‐1 二人の友情パワー

 すっかり太陽さんは真上を超えていき午後二時半くらいになった。


 俺と七瀬さんは未だに舞香の部屋におりお昼寝タイムとなっていた。そんな俺は寝付けが悪く壁に掛けられた時計ばかり気にしていた。


 思わず足を組んだまま起き上がりまた辺りを見始めた。


 七瀬さんも舞香もテーブルの上で突ッ伏して寝ており起こしたらいけないと感じた。ここは寝付けが悪くとも再び横になるべきか。


 二人を起こさぬようによそよそしく横になろうとしたそんな時――。


 あの時とは違い今度は俺が七瀬さんを起こしてしまった。すっかり起きたのか七瀬さんは姿勢を正し上瞼うわまぶたを右手の人差し指でこすりながらなにかを言い始めた。まだ寝惚けているのかやや無言が長かったように感じた。


「うーん。……どうかしましたか? 佐崎さん?」


 確かに俺からお昼寝タイムを提案しておきながらこの体たらくぶりでは不思議がられても可笑しくはない。


 舞香まで起こす訳にはいかないと俺は小さな声で言い始めた。


「ごめん、俺から言ったのに寝付けなくて」


 あれから二時間半以上が経つのに俺は一回も寝れなかった。横になっていた時は両瞼をしっかりと閉じていた。でも眠りに付くことはできなかった。


 ようやく寝惚けから脱した七瀬さんは上瞼を擦るのをやめ俺を見始めた。でもやはりほんのちょっと残っているのか七瀬さんの口調は呂律ろれつが回っていなかった。なんか可愛いと感じた俺は不謹慎ふきんしんなのだろうか。


「わたひたちの為にぃ――」


 これは俺が感じた以上に七瀬さんの眠気が強いな。どうやら俺の見立ては間違いだったみたいだ。今の七瀬さんはまるで酔っぱらっているようだった。


 でもそれ以上に酔っぱらい特有の言動はなく俺は微笑んでいた。なんせこんなにも素晴らしい日々に変えてくれたのはなにを隠そうこの二人なのだから。


 俺が最後まで七瀬さんの言葉を聴き入れようとしていたらいつのまにか舞香が目覚め体勢を正していた。どうやら俺の気遣いは失敗したようだった。


「大智ぃ、変なことぉ考えてぇないよぉねぇ?」


 俺が変なことを考えるはずがない。舞香がどうしてそんなことを言ったのか俺には理解――。


「だってぇ顔に出てるからぁ。もう! 大智ぃのエッチィ!」


 断じて違う! 俺の今をそう捉えられて凄く残念だ。ここは訂正して言わないと話が膨らんでしまう、急がないと。


「違う! 舞香は誤解している! 俺はただ七瀬さんの寝惚けた言葉が――。っ!?」


「そんな~佐崎さんがぁそんな眼でわたひたちを――」


 わたひたちを? っ!? 私達をか! って七瀬さんまで!? しかもたちが付いている!?


「と言うか見ている訳ないだろ! あの時にした約束は必ず守り通す! 俺は!」


 駄目だ。この感じからして過剰に言えば言うほどに信用されなくなりそうだ。だったらここはどうすれば良いんだ。誰か教えてくれ~。


「大智ぃにぃ気をぉ付けぇよぉうね、七瀬さぁん」


「はい~。わたひたちはぁもう友情がぁありますからぁ」


 なんで俺がハブかれているんだ? 俺との間には友情は成立しないのか? なんだか微笑ましいんだか悔しいんだか分からないけど二人が無事ならそれも良しだな。それに今の俺ができることはやはり舞香や七瀬さんにしたあの約束を一貫して守り通すことだ。断じて俺はエッチなことは考えないときもに銘じた。


 幸いな点は二人が寝惚けているところか。良くも悪くも助けられていた。多分だけどこれは覚えていないパターンになるのではないだろうか。ならここは黙って見ておけば良いだけなのかも知れなかった。


 俺の気遣いを見事にまで吹き飛ばした二人の友情パワーはなんとも言い難いくらいに凄いものを感じた。これが女同士の友情なのかと心の底から敬意を表した。


 そうこうしているうちに七瀬さんも舞香も再び眠りに付いていた。ようやく過ぎ去った危機に俺は安堵しここは大人しく寝ようと足を組んだまま横になり始めた。


 このまま平和な時が続けばと感じながら俺は眠りに付こうと静かに両瞼を閉じるのだった。

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俺の実家で居候中の彼女が許嫁になった件 結城辰也 @kumagorou1gou

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