美しい水死体
碧海 汐音
第1話 モデルは妹さんらしいですよ
僕が彼女に出会ったのは二千十八年。今から六年前のことだった。
「こちらの絵画は千六〇〇年、ルネサンス時代にルーアによって描かれました「美しい水死体」です。この女性は池で浮かぶルーアの妹リリーをモデルとしているそうです。これは本当の水死体を描いたものではないですが、一部の方はこれを本物の水死体を描いたものというふうに解釈をされているそうですよ。本当に水死体だったら怖いですね。さあ続いての作品は……」
団体客の共感の声が聞こえないほどにその絵に心を奪われた。
画家の妹リリーをモデルとしたその女性の絵はとても美しかった。僕はその女性に心を奪われた。といっても存在するわけもなく、僕は次の作品に視線を落とす団体客の中に再度混ざり、三時間にも及ぶ美術館ツアーを終えた。美術館内の絵画の世界観を催した休憩スポットで売店でレモンソーダを頼んで一休みしていた。白い丸テーブルに透明なコップを置いて頬杖をつく。
どうしてもあの絵を忘れられないのだ。ここからは自由時間なのでもう一度あの絵を見にいくことにした。確か四階のはず。すぐそこのエレベーターに乗って四階へと向かった。エレベーターから降りて、少し歩くと、そこに絵画「美しい水死体」はあった。ライトのおかげではない。それは内から光り輝いていた。
僕はホテルの帰ってネットで絵を検索にかけた。オールドから現代までの絵画をそろえるオンラインショップに登録をし、「美しい水死体」を検索にかける。在庫ありの緑の文字がカートの横に表示されていた。すぐにカートに入れるボタンを押し、住所、カード登録をしてすぐに購入をした。この絵画は美しい水死体のコピーであることは非常に惜しいが、現物を落札するお金のことを考えれば、と妥協した。
旅行から帰ってきたその日のうちに絵画は届いた。なかのものを傷つけないように慎重にカッターを使って開ける。流石絵画取り扱い最大級オンラインショップと思う。運営が全てを手掛けているからか、コピーの品質が非常に良かった。額縁をそのまま持ち、壁にかけた。様々な方向に向いている睫毛の毛先は太陽の光を拾って輝いていた。デスクトップパソコンの電源を付け、インターネットを開く。
この絵画の作者「ルーア」について情報を集めることにした。ルーアは一六〇〇年代、現西フランス地方で生まれ、妹リリー、父母の四人家族。ルーアの父は医者をしており、母はその時代の流行を作るような仕事をしていた。その説明の下に、妹リリーについて。というリンクが添付されていた。この絵画のモデルとなったリリーに関するものということもあって、僕はそれを見つけるや否や瞬間的にそれを押した。
上をインターネットの回線が走り終えた後、一番上に表示された写真を見る。それは絵画のリリーではなく、リリー本人であろう写真であった。教科書に載る同年代の歴史上人物とは全く違う美貌の持ち主だと思った。ここまでの美貌をもっているのならば「美しすぎる歴史上の人物」として話題になっても良いくらいなのにと思った。美術館も有名でもちろんかの有名なあの絵画も展示されているくらいである。そこに展示されている絵画なのだ。さらに不思議に思った。
美しい水死体 碧海 汐音 @aomision
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