第32話 高橋信也への事情聴取

高橋信也は、警察署の取調室に拘束されていた。彼の冷たい目は何も語らず、無言のまま座っていた。香織と涼介は、彼の背後に潜む真実を暴くため、事情聴取を始める準備を整えていた。


「高橋信也、君の計画についてすべて話してもらう。」涼介が静かに言った。


高橋は一瞬、冷笑を浮かべた。「君たちは本当に何も分かっていないな。」


「私たちは、あなたが何を企んでいたのか知りたいの。どうしてこんなことをしたのか、理由を話してもらうわ。」香織は毅然とした態度で続けた。


「理由だと?」高橋は嘲笑うように声を上げた。「私の理由は単純だ。私の研究は人類の未来を救うものだった。だが、それを理解できる者はいなかった。」


「あなたの研究が中断されたのは、倫理的な問題があったからです。あなたの方法は間違っていた。」涼介が指摘した。


「間違っていた?何が間違っていたのか?」高橋は怒りを露わにした。「私はただ、真実を追求し、正しいことをしようとしただけだ。だが、お前たち愚かな人間はそれを理解できなかった。」


香織は拳を握り締めた。「だからといって、無関係な人々を犠牲にすることが正しいと言えるの?」


「犠牲?それは必要な犠牲だ。大きな目標を達成するためには、小さな犠牲は避けられない。」高橋は冷酷な笑みを浮かべた。


「あなたが言う犠牲は、無辜の人々の命です。あなたの行為は許されない。」香織の声には怒りがこもっていた。


高橋は続けた。「私はただ、自分の研究を完成させたかっただけだ。門司港を混乱に陥れることで、私の研究の重要性を認識させようとした。それが唯一の方法だった。」


「それが唯一の方法だと言うの?」香織は激怒して声を荒げた。「あなたの歪んだ正義感のために、どれだけの人々が苦しんだか分かっているの?」


高橋は一瞬だけ目をそらし、再び冷たい目つきで香織を見た。「君たちは何も分かっていない。私は英雄だ。真実を追求し、人類を救おうとした。だが、お前たちは私を犯罪者と呼ぶ。」


「あなたは犯罪者です。そして、あなたの行為は絶対に許されない。」香織は断固とした口調で言った。


「君たちが何を言おうと関係ない。私は自分の道を進むだけだ。」高橋は冷たく言い放った。


「もういい、これ以上聞く必要はない。あなたの歪んだ理想には付き合いきれない。」香織は激怒し、取調室を出て行った。


涼介は高橋を見つめながら、静かに言った。「あなたが何を信じていようと、法の裁きを受けることになる。それが現実だ。」


高橋は無言のまま、涼介の言葉に反応しなかった。


香織は取調室を出た後、廊下で深呼吸をし、気持ちを落ち着かせようとしていた。涼介が後に続き、彼女の肩に手を置いた。


「香織、君の怒りは分かる。でも、彼を法の裁きに委ねるしかない。」涼介が優しく言った。


「分かっている。でも、彼の言葉を聞くとどうしても許せない。」香織は涙をこらえながら答えた。


「私たちができることは、彼を裁判にかけ、正義を実現することだ。それが私たちの使命だ。」涼介が力強く言った。


香織は涼介の言葉に頷き、気持ちを新たにした。「そうね。私たちの使命を果たしましょう。」


こうして、香織と涼介は高橋信也の歪んだ正義感と執念に直面しながらも、彼を法の裁きにかけるために全力を尽くす決意を固めた。彼らの戦いは続くが、その絆は一層強くなっていた。


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【完結】港町探偵 三田村幸一の事件簿 湊 マチ @minatomachi

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