第2話
あの幸せだった日々を思い返すたびにあなたに会いたくなる。
木漏れ日が溢れるガラスで囲まれた温室の中に椅子に座り、紅茶を飲みながら、一枚の古い写真を見ている一人の老婦がいる。
その写真には、若い綺麗な女性が白無垢を着て、男性は黒色の着物を着て二人で並んで写っている。
老婦は思った残り少ないこの人生を振り返ったとき、今はもうこの世にいないあなたにもう一度会いという気持ちが芽生えた。
風の噂で聞いた、ある写真館の話を老婦は思い出していた。
もしあなたが生きていたら、笑顔の絶えない、素敵な生活を送っていたのかしら?
そう考えると胸が締め付けられる思いにかられてしまう。
老婦が、棚に立て掛けられているカレンダーを見るとちょうど二日後は、満月の日である。
老婦はこの噂の話を聞いてからずっと悩んでいた。
これが本当の噂ならばこれが本当に最後の機会かもしれない。
何故ならば私もずいぶん歳を取ってしまったからである。
老婦は、心に従い椅子から立ち上がると机に置いてある本を手に取り開くとメモが挟まっている。
そのメモを持つと壁に掛けられた電話機に手を掛けるとメモに記されている電話番号にかけていく。
ボタンを打ち終わりメモ帳、そしてペンを持つと数秒、呼び出し音がした後、若い女性の声が聞こえた。
「お電話ありがとうございます。夜明写真館でございます。どのようなご用件でしょうか?」
老婦は驚いてしまった。
てっきり自分と同い年くらいの男性が出ると思ていたからである。
老婦は躊躇しつつも、その女性の声に答える。
「その友人から聞いたのですが…過去に戻れる写真館だとお聞きしたのですが、こちらの電話番号であっていますでしょうか」
数秒間、間を空けて女性が話し出す。
「はい。合っております。過去にお戻りになりたいのですね。では、最初に名前をお聞きしてもよろしいですか?」
老婦は、答える。
「朝日と申します」
「朝日様ですね。それでは今から当写真館のプランを御利用する際の約束をお伝えします」
女性は、写真館に来る前のプランを利用する際の持ち物などを教えてくれた。
来る前にやっておくこと
●会いたいと思っている人が写っている写真を持参すること
●その写真の裏に戻りたい日、日付を書くこと
(◯◯◯◯年◯月◯日)
注意事項
●前日の夜零時までに写真館に着いていること
急いでメモ帳に住所などを書いていく。
最後に女性から言われる。
「最も重要なことです。過去に戻ることができることは出来ますが、未来への選択肢を変えることは出来ません。それでも戻りたいとお考えでしたら今から伝える住所までお越しください。詳しい内容はお越しの際に説明させていただきます。では、失礼いたします」
「はい。ありがとうございます。失礼いたします」
電話が切れる。
老婦は、先ほど急いで書いた写真館の住所や持ち物を綺麗に書き直していく。
一呼吸してから再び椅子に座ると、もう一度古い写真を見る。
老婦はその後、思い出を振り返ったり、それが終わったら、あなたが好きだった詩の本を読んで、どこが素敵で、好きだったのか想像しながら読んでいった。
その間も静かに時間が過ぎていく。
夢中になっていたため気がつかなかったのだが、ふと外の方を見るといつの間にか外が暗くなり始めていた。
随分、あなたのことを思う時間を過ごすことが出来たと感じている。
老婦は、椅子から立ち上がると、カップなどをトレイにのせると、温室を後にする。
簡単に夕食を作り始める。
今日のメインは何にしようかしら?
考えながら手際よく食材を切っていく。
今日のメニューは、白米、豆腐の味噌汁、鮭の塩焼き、冷蔵庫に残っていたきんぴらごぼうである。
誰もいない部屋で一人夕食を済ませる。
食器洗いを済ませると、自分の部屋に戻るとクローゼットから旅行の時に使う鞄を出すと写真館に行くための準備を始める。
何が必要かしら、そんなことを考えながら荷物を詰めていく。
当日の日は何の服を着ていこう。
これも必要かしらと思いながら荷物を詰めていく。
老婦は、突然思い出すと一度自分の部屋を出るといつもは開かない押し入れから大きな箱を取り出し、それを開けるとあるものを取り出した。
それを取り出すと再び大きな箱の蓋を閉じると、押し入れに戻し、あるものを大切に自分の部屋まで持ってくる。
小さなテーブルにそれを置くと、大切にタオルで包んでいく。
その作業を続けていたのだが、ふと時計を見るいつの間にか時間が随分経っていた。
こんな気持ちになるのは久しぶりのことように感じる。
言葉にするには難しいけれど何だか懐かしい、ドキドキしたワクワクした待ちきれないようなそんな気持ちである。
そろそろ時間も遅いので明日続きをすることにした。
風呂に入り部屋に戻ると髪の毛乾かし終えると部屋の電気を消す。
ベッドの横にあるライトのみが部屋を照らしている。
老婦は、目を閉じると眠りについた。
◆◇◆
老婦は、目を覚ます。
外では鳥のさえずりが聞こえてくる。
朝食を簡単に済ませると、昨日の続きを始める。
残りの荷物をどんどん詰めていく。
身支度を整えると、鞄を持ち玄関に向かう。
約束の日まで残り一日あるが写真館がある町までのんびり行くことにしたのである。
いつもは履かない靴を取り出したがふと写真館の女性が電話で話してくれたことを思い出した。
写真館までの道のりは坂があるので歩きやすい楽な靴の方がいいと言っていたのである。
老婦はその靴を履くのをやめると楽な靴に履き替えると先ほど履かなかった靴は持っていくことすると、靴を袋にいれると、鞄に詰めていく。
「いってきます」
誰もいない家に挨拶をする老婦。
玄関の鍵を閉めると、老婦は駅まで歩いていくのであった。
夜明写真館 杠葉そら @yuzurinasora
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