※ 第二章 ※
関景と允陶、千松園で密談する
第21話 関景と允陶、連れだって千松園を訪れる
青陵国の南の都と呼ばれる慶央の城郭外の南を、西から東へと悠々と流れる江長川。その江長川のほとりに商港・研水に、その名を千松園という客桟がある。荘本家の傘下として、
静かなことと、部屋から眺める江長川を背景にした展望が素晴らしいこと。そして亭主とその家族の人柄がよいことを除けば、取り立てて目立つところのない、部屋数も少ない小さな客桟だ。
だが、徐正の長男の徐高が料理人として調理場に立つようになると、江長川で獲れる川魚料理が評判を呼ぶようになった。
今では、徐高の作る料理を楽しみにした旅人の定宿となっている。飛び込みの客が泊まれるのは運がいいと思ったほうがよいだろう。
また、泊まることはなくとも、料理だけを食べにくる客もいる。
今日の客人、荘本家参謀の
老いてよりいっそう食べることに執着するようになった彼は、徐高の作る料理をひいきにしている客の一人だった。手下の誰彼を誘っては、しょっちゅう食しに来ていたのだ。
年の瀬も迫った小雪が散らつきそうな、朝からどんよりと曇った日。
昼少し過ぎて、荘本家の関景・
すでに連絡を受けていた千松園のものたちが総出で門の内に並び、彼らを出迎える。
「関さま、よくぞお越しくださいました」
「おお、この日が、わしは待ちきれんかったぞ」
「寒くなってきましたので、部屋はすでに暖かくしております」
「それはありがたい。雪が舞いそうではないか。老体に寒さは堪える」
そして、千松園の亭主は関景の後ろに立つ荘本家の家令にむかって頭を下げた。
「允さまもよくぞお越しくださいました」
関景と允陶が連れ立って来るのは珍しい。荘本家の外を守る関景と内を固める允陶では、意見の相違はよくあること。犬猿の仲というのでもないが、関景の辛辣な言葉にひるむことなく言い返している允陶の声を、皆はよく聞いている。
「少々込み入った話をする。亭主、料理を運んだあとは、誰も部屋には近づけるな」
「允さま、そのことは、重々、承知いたしております」
関景が小柄ではあるが老いても
そして二人の後ろには頭一つ分背の高い魁堂鉄が、鋭い眼差しで左右を探りながら続く。
彼は、関景の懐刀となって五年。
青陵国の西隣、越山国の生まれだということしか明らかにしていない。すべてを捨てて慶央に流れてきた経緯を知るのは、
背も高いが横幅もあり肌の色も浅黒く、まるで黒牛だ。彼の頭突きをまともに食らって立っていられる男は、中華大陸広しといえど、どこを探してもいないに違いない。「大男、総身に知恵が廻り兼ねる」とは世間でよく言われていることだが、彼にもそういうところはある。愚鈍ではないが、相反する二つのことを同時に考えるのは苦手だ。それゆえに小賢しいところがなく義理堅い。
その後ろには、魁堂鉄に優るとも劣らぬ猛者たちが続く。
そして一番後ろに、神妙に畏まっている若い少年がいた。
徐正とその妻がはっと息を飲む。
荘本家の配下の見習いとなって数か月。日々の鍛錬に励んでいるとは噂で聞いていたが、徐平の元気な姿を見るのは久しぶりだ。
関景がその足を止め、振り返って言った。
「徐正、息子の顔を見るのは久しぶりだろう。やつに台所で飯を食わしてやれ。その合間に、親子で積もる話をすればよい」
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