第7話 大団円
彼女が、高所恐怖症になったのには、どんな過去があったのかまでは分からないが、それによって今、特殊な能力を持つようになったということであった。
それは、先生にしか知らないことであり、その彼女もそれは分かっているはずだったのい、彼女が、友達である、いちかに対して、自分が高所恐怖症であり、その特殊な力に対して話した。
病院側も、別に高所恐怖症の話をするくらいは、何でもないと思っていた。
しかし、その影響で、他の力が備わっていることをいうのは、タブーだと思っていたので、この病院にある研究所の所長で、心理学や精神科の博士号をもっている先生にそのことを告げて、その様子をカメラで見ていたが、
「やめさせましょう」
と言った助手をいさめて、
「いや、このままにしておこう」
といって、その様子をじっと見ていたが、どうやら、助手には、
「博士が興奮している」
という風に見えて仕方がなかったのだ。
助手には、
「博士はどうしてしまったのだろう?」
と思えたのだ。
「博士たる人に限って、おかしな考えをもつわけはない」
というほどに、助手は博士を崇拝していた。
「この気持ちは俺だけではなく、他の人も同じ感覚になっていることだろう」
と思う程の、
「唯一無二の博士だ」
と思っていたのだ。
そんな状態において、博士が、
「もう少し様子を見る」
と言ったのだから、この中に何かの秘密が隠されていると、助手は考えた。
それは、唯が、人と一緒に話すことで、
「それまでになかった何かの覚醒が得られる」
ということか、それとも、
「相手の女の子に何か秘密があるのか?」
などということであった。
「彼女阿?」
と博士が友達のことを聞くと、
「どうやら、最近知り合ったお友達だということでした」
と助手じゃ答えた。
博士はそれを聞いて、黙って見ているだけだった。
中では、唯がいちかに話をしている。
「私の高所恐怖症って、心理学でいう、サッチャー錯視に関係があるんですって」
という。
これは、本来なら、口にさせる言葉ではないはずだった。
しかし、今回は、
「博士の許可がある」
ということで話をさせているのだが、どうやら、いちかは、
「サッチャー錯視」
という言葉を知ってはいないようだった。
しかし、
「上下逆さまに見ると、まったく違って見える錯覚のこと」
というと、何かを感じたのか、いちかは考え事をしているようだった。
そして、いちかもおもむろに話始めたのだ。
「私は何か、自分の中で分からないと思っていたことがあって、それが、どうやら、暗所恐怖症じゃないかと思うの。私も、高所、暗所、閉所の三大恐怖症というのは聴いたことがあるし、どれも、病気というほどでないくらいに感じている人がほとんどだって思うの。だけど、それが、自分でも理解できないほどのことであったとすれば、そこに何かの力が備わっているんじゃないかって思うんだけど、唯さんのサッチャー錯視と、高所恐怖症というのは、分かる気がするわ、だって、高いところから見下ろすのと、下から見上げるのでは、同じ場所にいてもまったく違っているでしょう。それは、股の間から覗く、天橋立のようなものじゃないかって思ったりしたんだけど、そこに連想されるんじゃないかしら?」
という。
それを聞いて、助手は興奮してしまった。
「こんな中学生くらいの女の子が、こんなことまで分かるなんて」
ということであった。
これに関しては助手だけではなく、博士も感じていることだった。
「なるほど、博士が話を遮らない」
というのは、これが分かっていたからなのかも知れないな。
と助手が感じ、あらためて、博士のすごさが分かったのだった。
博士は、その後、彼女を研究室に呼んだ。いちかは、怯えていたが、何かを覚悟したかのように、分かりました」
といって、帰りに寄ることを快諾したのだ。
そして、保守に耳打ちをするように、
「桜田えいり君も、呼んでおいてくれたまえ」
というのだった。
えいりという女性は、同じ恐怖症の中でも、
「閉所恐怖症」
というものを患っていたのだ。
つまりは、ここで、三代恐怖症の人間が、ちょうど集まったというわけで、このことに対しての博士の異常なまでの興奮は、助手にも分かったが、
「本当の意味での興奮を、他人が分かるはずなどない」
と博士は感じたのだった。
もちろん、別室には、唯も呼ばれ、いちかと、さらに、閉所恐怖症であるえいりの参院が集められた。
「すみませんね。皆さんに集まっていただいて」
と博士は言った。
一人だけ、えいりだけが、怯えていたのだが、あとの二人、いちかと唯は、それほど怯えてはいなかtった。
むしろ、
「これから何が始まるのか?」
ということに興味津々だったのだ。
唯はここの入院患者なので、博士も助手のこともよくわかっていた。だから、それほど違和感はないのだが、いちかは、初対面のはずなのに、まったく動じることもない。
それを博士は、
「まるでここに来ることを予知していたかのようだ」
ということで、調べていく中で、
「いちかという女の子には、そんな予知能力はないようだ」
ということであり、ということは、彼女は、
「それだけ順応性があり」
さらに、
「頭の回転が速い」
ということになるのだろう。
それを思うと、
「私の目に狂いはなかった」
ということだ。
ここで博士が何を考えているのかというと、
「例のクーデター」
であった。
この、
「恐怖症」
をそれぞれ持った三人というのが、どんな力を秘めているというのか、その全貌に関しては、助手にも分かっていない。
「私が考える理論は、簡単に口にできるものではない」
といっていて、その中で、
「この三つの恐怖症」
というのは、
「三すくみが絡んでいる」
というのが、博士の自論だったのだ。
というのは、博士がいうには、
「どっちが、どっちに対しての優劣性があるということは言えないのだが、この三つが、三つ巴になっている状態が、今の社会じゃないかと思うんだよ。そして、見かけでは、世の中がつりあっているように見えるわけだろう。つまりは、この三すくみ、そして三つ巴の関係というのは、まるで、昔あった、核の抑止力と呼ばれるものと似ているだろう? つまりは、諸刃の剣ということさ。これらのどれかがバランスを崩すと、世の中がひっくり返ることになる。それがならないでバランスが取れているというのは、本当に奇跡だと思うんだ。人間には、誰にも見えない奇跡のようなものがあり、それは、実は錯覚であって、奇跡というものが本当にないものではないか?」
と博士はいうのだった。
「この三人が、三すくみということですか?」
と助手がいうと、いちかが、一言呟いた。
「私たちが、ステルスを作れるということ?」
というではないか。
博士は一瞬目を見張ったが、落ち着きをいち早く取り戻して、
「ああ、そうだよ。ステルスなんだよ。見えているようで見えない。これが、今の軍事兵器の主流になtっているものさ」
というと、いちかは、
「それが、サイバー攻撃と一緒になるのよね」
というではないか。
それを聞いていて、
「彼女には予知能力があるわけではなく、頭の回転が極端に早いんだ」
ということが分かった。
恐怖症を持っている人は、その反面天才的なものを持っているわけだが、いちかは、その予知能力に近い、頭の回転の速さだ」
と感じたのだ。
だから、逆に、
「天才は、どこかに精神的な疾患を持っている人が多いのではないか?」
という説もあるが、それに間違いないのではないだろうか?
博士は、ここでステルスの強力な武器を作り、それを使ってクーデターをもくろんでいる。
そして、それは今まで、
「日本が敗戦したということを、未来の人間に残したくないという政府の勝手すぎる理由で、世の中がおかしくなっていくのを、何とか食い止めようするつのが、このクーデターであった。
「7361部隊の残党が作ったこの施設で、それを行おうというのは、実に皮肉なものだといえるだろう」
と、博士は、助手に言ったのだ。
その計画は。もちろん、助手も乗っかっていた。
いや、むしろ積極的なのは、
「助手の方かも知れない」
と博士は考えていた。
いちかたちは、博士の考えを分かったようだ、あいりの方も、分かってみれば協力しようという気持ちになった。それによって、自分のマイナス部分が消え去るということを、博士が保証してくれたからだ。
この計画は見事に成功し、うまく、政府のくだらない野望を打ち砕き、その功績からか、博士が、次期首相ということに決定していた。
助手も、文部科学大臣として入閣が確定していたが、このクーデターが起こったことは、表には出ていない。
「いきなり出てきた博士がいきなり、首相に就任」
ということで、
「ヒトラーの再来」
と言った人がいたが、それが、元政府の人間であるから、説得力があるはずなどない。
それを思うと、いちかたちは、それぞれの将来を保証された。
いちかは、頭の回転のよさと、科学的なことが好きだということで、
「博士の後ろを追いかけることになった」
親もビックリのこの展開だが、さすがに、
「この日本をひっくり返した功労者」
であるということは、誰も知らない。
えいりは、自分から目立つことは嫌いだったので、小説を書くことで、その才能を生かす道を選び、ベストセラー作家にはなったが、
「その正体は、誰も知らない」
ということで有名だったのだ。
そして、いずれ唯は、助手と結婚して、幸せになることになるのだが、彼女は、助手が、
「実は、731部隊の残党だった人の子孫である」
ということを知らない。
それを知っているのは、首相になった、博士だけだったのだ……。
( 完 )
三つ巴の恐怖症 森本 晃次 @kakku
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