第5話 帰還したものの

 途端に眼前の風景が歪んだ。私自身も月面宙返りを決めたかのように上下左右にグルグルと回されるような感覚を味わった。


 気が付くとそこは深夜の砂漠だった。私と月城、全裸のザーラと全裸のベルタ、マルズバーンもいる。あちら側に取り残された者はいなかった事に安堵した。


「ここは?」

「元に戻ったんだ。お前が魅入られていた異界からな」


 月城は状況を上手く把握できていないようだった。


 上空を哨戒機が旋回しつつ、照明弾を幾つも投下している。マルズバーンが異界へと飲み込まれた事で位置情報を喪失したのだろう。焦って捜索隊を出したようだ。


「マスター。助けていただいてありがとうございます」


 素っ裸のザーラに抱き付かれ唇を奪われた。


「マスター……今すぐ抱いて」

「待て。基地に戻ってからだ」

「ね、戦車の中で」

「ダメだ。お前はベルタの救護をしろ」

「了解……しました」


 私の命令に渋々従うザーラ。彼女は戦車から毛布と救急キットを取り出し、ベルタの介抱をはじめた。ベルタは意識を失っているだけで怪我をしている様子はない。


 さて、基地に帰ってからどうするか?

 もちろん、事の次第はありのまま報告するつもりだが、ベルタと月城の関係まで報告する事には抵抗があった。しかし、月城がベルタを愛し、彼女から離れなければ今回のような事にはならなかったと思う。二人が破局を迎えるなら、それは当事者の問題であろう……私が考える意味はないか。当面の問題は、あの大蜘蛛の体液でべとべとになったこの体と戦闘服をどうするかだ。この悪臭をまとったまま戦車に乗るのは止めておこうと思う。

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鉄錆の魔境【後編】 暗黒星雲 @darknebula

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