第10話 「おー広いなあ」


 2時間に及ぶバスの移動は暇とのことで、その間の退屈しのぎとして、ビンゴゲームが開催されることが先生の口から発表された。クラスメイトたちの歓声が一段と大きくなりバスの中は一層賑やかになる中、俺は睡魔に襲われる。


 俺はみどりの匂いの原因を見つけるべく色々と計画を立てていたので昨日はほぼ寝ていないんだよなあ。


「ビンゴ大会はじめまーす!」


 調子があまりふるわない中、担任の先生が生徒に向かって陽キャ女性特有のテンション高めで声を上げる。その声を受けて西田が楽しそうに俺に顔を向けた。


「景品なんだろーな」

「さあな、なんでもいい……。ていうかすまん、俺寝るわ」


 西田とは反対に睡魔に屈して睡眠をとる事を決意した俺は宣言する。


「おいおいみんながこれから盛り上がるであろうって時に寝るのかお前は……。ビンゴあるんだぞ」

「んーちょっときつい。昨日あんまり寝てないんだよ」

「そうなのか?まあどうせ大した商品ではなさそーだよな。じゃあお前の分も俺やってとくぞー」


 西田の声がだんだん遠のいていく。西田の声がだんだんと小さくなり、後半から何を言っているのか聞き取れなかった。やがて、俺は深い眠りに引き込まれていった。


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.

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「っつあー」


 寝相が悪かったのか、首に鈍い痛みを感じて目が覚めた。隣を見ると、西田は爆睡しており、その手にはビンゴゲームのカードが二枚握られていた。カードを手に取り見てみたが、どうやら景品は当たらなかったらしい。カードは少し皺が寄り、西田の無防備な寝顔とは対照的である。


 周りを見渡すと、バスの中の生徒たちはそれぞれ思い思いに過ごしていた。座席に深くもたれかかって軽く睡眠をとる者、楽しげに雑談を交わす者、それぞれがリラックスした時間を楽しんでいる。笑い声や囁き声が混ざり合い、穏やかな雰囲気がバス内に漂っていた。


 車窓の外には、夏の風景が流れていく。青い空に浮かぶ白い雲、ザ・田舎だ。そして遠くに見える山々が次々と現れては消えていく。陽射しが窓越しに差し込み、温かさが心地よい。


 田舎の夏っていいよな。青春って感じがする。俺みたいな陰の者はそういう青春イベントは嫌いと思っているだろうが、実際は違う。なぜなら夏の田舎が舞台の作品は名作率が異常だからだ。ほら、サマーポケットとか、Airとか。本物のオタクはクリスマスとかが嫌いなんだよな。分かるよ、俺には。


 久しぶりに最近発売のゲームでも調べようかなと携帯開くと、時間が9時50分と表示されていた。確か到着予定時刻は10時だったはずだ。


「そろそろ着くぞ。おい、起きろ」


 気が利く俺は西田を揺さぶると、西田は目をこすりながら体を起こす。若干よだれが垂れている。うわっ、臭そう過ぎる。


「お、おう。めっちゃ寝てたわ。快眠快眠」


 欠伸をしながら感謝する西田に「よだれ垂れてるぞ」と返し、何も考えずに窓の外を眺めた。


 窓からはやがてキャンプ場入口の看板と駐車場が見え、時が経つごとにそれらが近づいていく。


 駐車場にバスがゆっくりと停車した。景色を注視すると駐車場から坂を二分ぐらい歩く距離にコテージがあるのが見える。もっと歩かないといけないと思ってが、思いの外近くにあるんだな。


 停車を確認した先生の掛け声でクラスメイトは一斉に動き出し、前列からバスを降り始めた。


 俺もその流れに身を任せ、二度寝をかまそうとする西田を揺さぶり起こし、ゆっくりと立ち上がる。


 体を伸ばしながら外に足を踏み出すと、涼しい風が顔を撫でた。外の空気は清々しく、心地よい風が吹いていた。けど、やっぱり暑い。否、暑すぎる。引きこもりてえ。


 副担任の先生は先に会場に着いていて、駐車場のすぐ右にある小さな小屋のような管理棟からコテージの鍵を受け取っていた。そのおかげで、俺たちはキャンプ場に到着すると、すぐに坂を上り始めた。緩やかな坂だが、荷物を持っていると少し骨が折れるな。


 坂を上りきり、コテージ前に集合すると、担任から男子20名は10人部屋のコテージ2つにランダムで分けられた。2グループからそれぞれリーダーが指定されるが、もちろん俺は選ばれなかった。


「おー、一緒じゃん!」

「それな」


 幸運にも俺は西田と同じ部屋になったというわけだ。


 俺たちは荷物を置くため、指定されたコテージに入る。リーダーがドアを開けた瞬間、木の温かい香りが鼻をくすぐってきた。


「おー広いなあ」


 俺は自然に声が出た。内装は、温かみのある木材をふんだんに使用したクラシックな山小屋風のデザインだ。リビングのエリアには10人がゆったりと座れる大きな木製のダイニングテーブルがあり、その存在感が一際目を引く。大きな冷蔵庫、ガスコンロ、オーブン、そして広々としたカウンタートップが備わっているキッチンは、まるで家のような居心地の良さを感じさせる。寝室は2つあり、各部屋に5人ずつ収容できるシングルベッドが整然と配置されている。大きな窓からは手入れされた木々がところどころ見え、自然の美しさが窓越しに広がっていた。jkの生脚ぐらい綺麗だな。


 コテージ内で先生からキャンプ場のルールや安全指導の時間が設けられたが、俺の頭の中は計画の事でいっぱいだった。今の所午前中は適当に過ごし午後からはハイキングコースから外れ、祠に向かう予定だ。なんで祠かと言うと、なんか祠ってオカルトっぽくて関係してそうじゃん?というとても浅い理由である。


 俺が計画の事で頭を巡らせていると、ふと、肘でつつかれた。隣を見やるとまだ寝ぼけている西田がいた。彼の目は半分閉じており、頭がぼんやりしているのが見て取れる。


「そういえば雪弥、鉄平は何日でも泊まって良いって言ってたぜ」

「それ先週聞いただろ……まだ寝ぼけてんのか?」


 鉄平というのは山谷町の噂を西田に吹聴した西田の友達だ。先週、何日か泊まっていいかと西田に相談し見事オーケーをもらえた。鉄平とはラインも持っていないし話した事もない。


「あれ?そうだっけ。わり、寝ぼけてるわ」


 そう言い、西田は安全指導の説明を聴くため呆けた顔を前に向ける。ねぼけすぎだろこの男。


 呆れつつも俺は先生の奥にある大きな窓からキャンプ場の様子を見るが、特にこれといった異常は見当たらなかった。まあ、そんな簡単に見つかる訳ないよな。


 その後も粛々とチーム対抗ゲーム、昼食の時間が終わり、遂に調査ができるハイキングの時間となった。


◆◆◆


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香りから好意が分かる特異体質の俺、可愛い幼馴染みからカメムシの匂いがする。 佐藤新 @novepag

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