第6話 暗殺依頼を受けると襲われる

暗殺依頼を受けて、暗殺対象の調査を始めて数時間。実際に街に繰り出し、情報屋から情報を仕入れてから、僅か2時間の出来事である。


「おい、なんで家のボスを殺す必要があるんだ?ことと次第によっちゃあ、俺がてめぇの頭を打ちぬかねぇといけねぇんだが?ああ?」

「えっとーー……」


僕は何もしていないはずなのに、何故かギルドから数十メートル圏内の路地裏で拳銃を突き付けられていた。

いや、どこから情報が漏れたんだ?殺しの案件を受けたことは、まだイリスと情報屋にしか開示していない。開示した情報で、まだ僕自身が本人にたどり着いていないというのに、どうやって逆探知したっていうんだよ。


「おい、話聞いてんのか?」

「あはは」


どうしよう、この男を今スグ殺してもいいんだけど、そうなると面倒だ。多分、僕のようなソロプレイヤーではないと思う。そうなると、めんどくさい。殺さずに放置しても、どうせ無理で敵が増えるだけだし。力比べで無理やり服従させても、内部で何を言われるかわからないから、僕一人では何もできないだろう。

う~~ン、組織と敵対するのは面倒なんだよなぁ。昔、それで盛大にやらかしているから、できればここは穏便に済ませたい。


「あのさ、少し聞いてもいいかな?」

「ああ?なんで、俺が無駄に話をしないといけねぇんだよ。今は、お前が一方的に俺の質問に答えとけばいいんだよ、殺されたくなければな」

「ですよねぇ。でも、それは立場が逆転しても一緒ですか?」

「あ?っ!!」


ひとまず、馬乗りになっているおっさんの腕を引っ張って股下を潜り抜ける。そのまま、頭を踏み抜こうとしてとっさに向けられた拳銃を、左腕でガードする。

容赦なく発砲してくると思ったけど、銃弾が無駄になると思ったのだろうか。即座に右足の蹴り上げが飛んでくるので、上半身だけ反らして回避すると、僕は瞬間的に身体強化して、裏拳を放った。常人であれば、骨折してもおかしくない速度で放たれた一撃を、目の前のおっさんは見事にいなして見せた。


「は?」

「ち、重いな」


僕の間の抜けた声と、吐き捨てるような言葉。一瞬の隙というには、あまりにも大きすぎた。僕が意識を次の攻撃に向けるよりも前に、おっさんの左足による回し蹴りが、思い切り僕の下腹部を捉える。


「グフッ!!」

「らぁぁ!!」


蹴りぬかれた左足は、僕を容易に吹き飛ばす。瞬間的に後ろに飛んで衝撃を緩和したとはいえ、5m以上吹き飛ばされた。路地裏の壁にめり込むように衝突した。

何とか受け身をとってはみたが、痛いな。全身が軋む感じがするし、ダメージを殺しきる事はできていないようだ。想像以上に強敵なんだけど、どうしたらいいかな。


「あのさ、おとなしく全部吐き出してくれない?面倒だろ、殺しあうことは」

「なるほど、確かにそうですね。でも、僕と同じであなたも、殺し対象の話なんて聞いても、答える気がないでしょう?」

「ほう?」


ここにきて、初めて興味深そうに反応した。でも、それだけで悟るには十分だった。

はぁ、やっぱりそうだったかぁ。おかしいと思ったんだよね、仕事開始までの有用はあるけど、暗殺対象に関係する情報が少なかった。それに、今すぐに僕を殺しに来る理由がある人が、少ないからね。


「でも、どうしてあなたのような組織が僕を殺しに?」

「そういう依頼だから、仕方ねぇだろ?俺は、俺の敵であるお前を殺すように、上から言われてんだよ」

「なるほど」


言いながら、首元に刻まれた蛇の紋章を見せつける男。見せつけられても、僕は彼が何処のなんというグループの人間かは、知らないけどね。正直、よくわからない。

でも、何かしらの組織の人間であるという予想は当たった。よかったぁ、初手で殺さなくて。


「でもまぁ、てめぇを殺すことはできそうだな!俺でもよぉ?」

「そうなんですか?いえ、そうですね」

「ああ!これで、俺は再び幹部に返り咲ける!お前と殺しあって、勝てば幹部!負けたら、組織を出ていくだけだからなぁ?そして、今の攻防で理解したぜ?てめぇの身体能力じゃあ、俺の目を超えることはできねぇってな」

「なるほど」


え、なんだ。殺しても問題ないルートな気がしてきたよ?だって、君はここから生きて帰っても、どうせ殺されるじゃんか。「○○に勝てば~」というのは、邪魔者を処分するときに利用する、常套句だ。どうせ、この男も幹部時代には多くの人間相手に、同じセリフを吐いてきたはずなんだけどな。

まぁ、いいや。殺してもいい相手なら、楽だし。殺して、だれにもバレないように隠ぺいしておこう。その後は、依頼主とお話しをしないといけないしね。


「んじゃまぁ、俺の為に死んでくれや」

「う~ん、あまり現実的ではないですねぇ」


言葉とともに、フルオートで5発の銃弾が放たれる。そのすべてを、目視して認識してから、僕は最小限の動きで回避して進む。三歩しか踏み出せなかったけど、それでも十分だ。


「この程度はやってくれないとなぁ!」

「ですよねぇ」

「死ねやっ!」


すべての銃弾を潜り抜け、その先で男はナイフ片手に待ち構えていた。差し向けられたナイフに向け、僕は左腕を突き刺すように放った。指の先端が固いものに触れた瞬間、突き出されたナイフと同じ速度で腕を引き返しその金属物質を完全に捉える。


「っ!」

「はっ!」


男が息をのむと同時に、僕はナイフをへし折りながら左足を軸にして右足で回し蹴りを放った。勢いをつける関係で僅かに膨らんでしまったそれは、男の服をかすめるだけで有効打になることはなかった。そのまま、お返しとばかりに放たれた左のストレートを、顔を傾けることで回避する。

あっぶないなぁ、耳にかすった。もう少しそれてたら、ちょっと危なかったかも。


回避した拳は、そのまま頭の隣で停止すると思い切り、横方向に振りぬかれる。男が降りぬいた右腕を軸にするように、僕は回避した。そのまま、男の腕をがっしりと掴んで、引き寄せる。抵抗する男に対して、その顔を踏みつけて僕は男の1m後方に着地した。即座にしゃがみ込んで、その足元を掬いあげる。


「なっ!」


バランスを崩した男が、バランスをとるために踏み出した足の膝を蹴り抜く。バキッ!と何かが折れる音を聞きながら、僕は倒れこんでくる頭に思いきり膝を入れた。

かろうじて残っていたであろう意識で、バァン!バァン!と2発の銃撃をしてきたけど、それは無事に回避。今更、この近距離戦闘で銃撃戦をしたところで、何も怖いことはない。


「じゃあね」


言いながら、僕は男の首元を思いきり蹴った。嫌な音を立てつつも、男は思い切り吹き飛んでいく。僕のように受け身をとることも、蹴り飛ばされる直前に回避することも許さなかった。男は、そのまま一直線に大通りのある方向へ、吹き飛んでいった。


「あー、これは吹き飛ばす方向を間違えたなぁ。どうしよう」

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裏世界戦争記 ryuzu @ren_miura

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