エピソードXIII インディバル・デイ

勢力が果てたインディバル・パーシュート社はもうすでに負けが見えているといっても過言ではなかった。

しかし、まだ奥の手が残されていたのだ。もしこれに成功すれば大きな勝利となるが、多くの犠牲を被ることとなる。

この先の選択はあの五人の唯一の生き残り、グラビティ・タニティード・エース大佐が決める。

彼の選択はいかに…


デッキにかけて戻ると、そこにはもう何もないデッキがあった。

だが、敵もいないことから、おそらく相打ち勝負だったのだろう。

そこからさらに進むと、真っ暗な中に倒れた機体があった。おそらくブリッツだろう。そしてそこには肩を落としたアレクサンダー教官がいた。よく見ると包帯を全身に巻いている。よほどの戦闘だったのだろう。

私がさっき帰ったことは知っているだろう。それに、マーキュリーもいるはずだ。

話しかけようと近くへ行き、彼の横に座った。すると彼は口を開けた。

「エース。遅かったな。もうすでに終わったよ。ローマはどうした?ガローニも。」

言い難いことだが私は振り切って伝えた。

「残念だが、戦死した。だから何としてでもあいつらを根絶したいが、今私達にはその方法がわからない。いったいどうすればいい…」

しばらく沈黙が流れたのち、教官は口を再び開いた。

「そうだったか。こっちも悲しい知らせがある。君たちが言ってから三時間後に攻撃があった。それから何時間も続く激戦となり、死傷者は多数出た。数えただけで千人越えの死者だ。

それで、今動けるのはたったの十五人、稼働可能なブリッツも十五機。かなり厳しい…まあそれはいい。本題に入ろう。悲しい知らせというのは、お前の部隊のマーキュリー、フォーデン、サム、ホークモン。

そしてエリシアにセレヴェまでも戦死した。」

悲しみを超えてもはや生きる気力をもなくしそうだ。しかし彼は続けた。

「だがセイレンは生きている。右足複雑骨折、意識不明だが、一応処置ができた。それに運がいい。命に別状はない。それともう一つ。」

彼は制服のポケットからだいぶ古びたデータディスクを持ってきた。

「今、私達には二つの選択肢がある。このまま負けを認めて企業を捨て、また戦争が始まるであろう世界に戻るか、それともこいつを使うか。」

そのディスクで何ができるというんだ?

「それで何をしろと?」

「これはあの巨大衛星砲台のセキュリティーアクセスキーだ。こいつがあれば、その巨大衛星砲台を起動することができる。そして砲台で地球を撃つのではない。

落とすのだ。計算では人口の九割が焼失するだろう。」

何だと?そんな恐ろしい手段は許されるのか?下手したら私たちまでも…

「後、ギガンテスの壁と呼ばれる私たちの会社を囲む幻のバリア城壁を知ってるだろう。あれも幻ではなかった。このセキュリティー解除にも成功した。いつでも展開できる状態に今さっきなった。」

それなら私たちは無事かもしれない。だが、人口の九割は損失が大きすぎる。

「まさかそれをやるんですか?」

「その選択肢を握っているのは、君と君の機体だ。私達が直接衛星を動かす手段は実はない。現地で手動操作でやるしかない。」

驚きの言葉だ。たった一つ、今の選択で人類の九割が消滅するだと?

「もし君がこの選択をしなければ私たちはすぐに野垂れ死に、何もできずにホームレスになり、最悪な人生を送ることになるだろう。だが、もしこの選択で決めたのであれば、この先はきっと明るい未来が現れ始めるだろう。

君はこの選択においてどちらを取る?」

究極の選択だ。

人類を取るか、未来の希望にかけるか。

今までに死んできた仲間の思い出が脳裏をよぎる。

彩られた世界が灰色になっていく様子も鮮明に頭に映った。ここでやらなければ。

そして決めた決意もあった。

“いかなる手段をもってしても根絶する。”

決めたものは揺るいではいけない。

ならば、希望にかけるとしよう。

信じる者は力を与える。しかし、力は信じる者を与える。

いつかこの信じた道が力となって新しい未来が開かれることを願おう。

そして、長い沈黙を打ち破るように言った。

「私は、希望を取る。」

教官は少し驚いたようだが、元気が出たようだった。

「そうか。ならば、今すぐ始めるとしよう。」

教官は今いるメンバーを集め、全員で真改・ブリッツをブリッツに乗って担ぎ、二番工場に運んだ。

私も急いで設計図を描いた。そして禁断の技術とも言えていた技術もすべて盛り込み、有人機ではありえないであろうほどの火力を誇る設計にした。

そしてその設計図の間違いもないことも確認し、壊れたブリッツを分解し、純度百パーセントの分厚い装甲を鋳造する準備をした。

そして、今まで作ってきていた禁断の技術の中でも最も恐ろしいもの、ブラスト・マテリアル・コアを導入した。私も搭載を渋ったが、仕方ない。性能を引き出すには必要不可欠だ。

このコアは出力の限界が存在しない恐ろしいもので、一歩間違えればワームホールを作り、地球が壊滅する可能性があるほど危険なものだ。

この設備の電力はそれで賄っている。だからそれをそのまま載せる。大きさは今までのジェネレーターと変わらない程度だ。

調整もしっかりとかけて、性能を最大限引き出せるようにした。

さらに、自動攻撃機能を有する小型高出力自立サーベル、ファイアフォックスも搭載し、今まで培ってきた技術もすべて盛り込んだ鬼畜な設計にした。

あとは作るだけだ。

工場の機会をフル稼働し、一部品につき一機の割合で稼働させた。

もうここまで来たら戻ることはできない。さあ私は急いで統合管理システムから調整をして、さらにデータディスクをダウンロードしよう。

そしてそれをさらに独立した管理形式に変更。これで統合管理しつつ、それぞれのシステムが独立し、一部が壊れたら別部でカバーが容易にできるようにした。

「エース!!この刀をどうする?」

「付けてくれ!こいつには魂が眠ってる。」

「分かった!」

だんだん出来上がっていく機体を見て驚いた。

真改・ブリッツをそのまま元にしたせいか、全く変わっていないようにも見える、しかし、絶対に違うのはその機体の風格である。

頭のパーツは真っ黒になり、重厚感にあふれている、ボディーも真っ黒になり、完全一体型のフレームがよくわかる。

どんどん出来上がるその機体の様子はすごい。

真改・ブリッツではない。もはや別物だ。

「エースさん、一応ライフル載せておきますね。」

「使わないかもしれないけどな。ありがとう。」

作業班は攻撃があったことを忘れたかのようにひたすらに機体を仕上げる。ありがたいことだ。

「アレクサンダー教官、今日の作戦についてもう一度確認してみてもいいですか?」

「ああもちろんだ。まず初めに…」

その後、内容をパソコンに打ち込み、データにまとめた。

「…最後に、その砲台を落としてフィナーレを上げればおしまいだ。メモできたか?」

「はい!」

最後の言葉が何か引っかかる。

フィナーレ。

これで最後になるかもしれない。

そうだ。ブリッツの名前を変えよう。

フィナーレ・ブリッツ。これが新しい機体の名前だ。

「ところで、機体名は決めたんですか?」

ちょうどよく整備班が来た。

「ああもちろんだ。」

「そうでしたか。今メモしておきますよ。」

私はあの名前を初めて口に出した。

「あの機体は、フィナーレ・ブリッツだ。」

「いいですね!今までの流れを変える、そんな感じがしますね!設計図には書いておきます!」

「ありがとう。」

機体名も決まり、残すは完成を待つのみとなった。すでに朝日はのぼり、真っ赤な朝が始まった。

私は今のうちに、病床のある別のデッキに行った。

だが、そこにはもう病床ではなく、棺桶の置き場になっていた。

「多くの人が死んでしまいましたよ。今日のこの作戦でこの犠牲が報われることを願うばかりですね。」

「そうだな。セイレンは生きているのか?」

「ええ。今意識不明のですが、明日には目を覚ますでしょう。」

「良かった。もし起きたら今空にいるといっておいてくれ。」

「わかりました。エースさんも頑張ってください。」

「ありがとう。」

病床の棺桶に背を向けて、自分の寮に歩き出した。

もうそろそろ昼時だ。さあそろそろ設定の最終確認をしよう。

軽食をかじりながらパソコンとにらめっこしてずっと設定の確認をした。今誰もいない寮は、みんなが来る前のひっそりとした寂しい寮だった。

カタカタカタカタ…

パソコンを撃つキーボードの音がよく響く。誰もいないパソコン部屋はさみしいもんだ。五人分のパソコンがあるが、使われてるのは一機。

銀色に白色、黒色とモノトーンながら色とりどりのパソコンが今となっては色も艶も抜けたようだった。

一人さみしく窓を見ると、もうそろそろ夕方になるところだった。

設定もちょうど終わりそうだ。さっさと指を動かして終わらせ、機体の様子を見に行くために自分の部隊のデッキに向かうと、そこには真っ黒な機体が仁王立ちしていた。

いや、ただ立っているが、そのただならぬ風格はまさに仁王立ちを思わせる。これが、今日のため、いや、未来を拓くために生まれた最後の破綻因子なのだろう。

「エースさん。あとはやるだけです。」

「そうだな。今データディスクをダウンロードする。」

「分かりました。」

コックピットから延びるラダーをのぼり、データディスクをダウンロードする。

変わらない空間だった。コックピットだけは。

設定を開き、正常に起動することを確認。オートマチックミッションも復活している。それどころか改善された型式が使われている。

つながりの数が増えて、より滑らかさが増している。アクセラレーションとスロットルに対する反応が機敏だ。人間にできる範囲を超えている。

大体変速数がいつもよりも多いのにこれだけなめらかとは驚きだ。いつものは縦に六つ、横に三つのミッションで、人間でも容易く扱えた。しかしこれは盾に八つ、横に五つと、二つずつ増えたものが使用されている。

当然呼称したら大変だ。一日で腱鞘炎と手首脱臼の状態になれる自信もある。それほど頻繁に動かさなければならないのだ。ミッションの扱い方こそが乗術の高さといっても過言ではない。

だが、ブリッツになてからはオートマチック式でそのようなこともなくなった。常にベストに切り替えてくれる。だからこの前は一瞬手間取ったが、やはり何年もやってると忘れないものだ。

しかし、このミッション数はいかれてる。扱えるものではない。まあ、緊急時の着陸程度にしか使わないからいいのだが。

「エースさん!どうですか?」

「完璧だ!これでやるんだな。」

「そうです!あと一時間後にハイパーカタパルトで射出します!そしたら、ギガンテスの壁の範囲から出て、国家解体戦争初期から誰も踏み入れていない垂直ハイパーカタパルトで飛んでもらいます!

そしてしばらくして飛ぶと砲台に到着します!そこからはナビゲートに従って、システムを掌握したのちにそのまま落としてください!!」

「分かった!その間の陽動は頼んだ!」

「任せてください!今教官がそのための声明を発表していますから!!」

どうやら今手の込んだ陽動作戦のための準備が始まったようだ。さあ、一時間後に出発するとしよう。

機体の準備の最終確認をし、宇宙空間用プロテクタースーツを着て、緊急離脱装備も持った。

さあ、あと行くだけだ。ゆっくり呼吸を吐く。ディスプレイから外を見ると、もう夕日が広がっていた。

『予想推定刻よりも早く敵軍が到着しそうだ。出撃を早める。今からやってもらう。宇宙軌道では通信ができない。分かるな?』

どうやら、帝国よりも早い時間から始めるようだ。仕方ない。やるとしよう。

「了解した。手動でハイパーカタパルトにアクセス。やってやる。」

カタパルトに設定からアクセスし、リフトを稼働させ射出準備を整えた。

『いいかエース。今ナビゲートシステムをダウンロードした。』

「了解です。確認しました。」

『さあ上げるとするか。最狂のフィナーレを。』

カタパルト射出まで残り二十秒を切った。

ひと時、ひと時が長かった。

『射出まで五…四…三…二…一…射出!!』

黒い風となって一気に加速した。

スロットル全開!!

形態変更!!

アームドスーツからファイタージェット!!

イグニッション、ファイア!!

装甲が合わさる音ともに一気に青い火花を散らした。

ドゴン!!

空を裂き乱す衝撃波と真っ白な炎を出して加速した。

まるで地球が平原のようにも見える速度だ。まん丸い。

ナビゲートによればあと十秒以内に到達するようだ。

延々と続く地平線に、だんだん高い塔が見えてきた。そして小さなクレーターが何個もそこらじゅうに開いていた。何だこれは?

これが国家解体戦争初期以来全く踏み入られなかった領域なのか。

壮大なドラマが一瞬にして頭をよぎる。

そしてまた消える。

しばらくして元に戻って着陸するとナビゲーションシステムがさしていたところに到着した。どうやらここが垂直カタパルトのようだ。

突き刺すように伸びるすさまじい長さの塔だ。だが全くしなっていない。まったくどんな技術力なんだ。

カタパルトにダウンロードしたディスクのデータを認証させた。

ガタン!!ガタガタガタ…

全てのロックが外れ、何重にもある目の前のドアは開き、カタパルトは下まで降りてきた。さああとは上がるだけだ。

カタパルト電磁ロック起動、スタビライズド問題なし。進行方向の異常なし。

出発可能。

イジェクト!!

火花とともにすさまじい速度で上空に飛ばされる。さあ、あとは進むだけだ。

上死点に到達。電磁ロック解除!!

セカンド・イジェクト!!

同時に機体がバラバラになりそうな勢いで発射された。ここからはまた変形してあの砲台に向かう。

ヒュゴォーーーー…

静寂な空間にエンジン音はよく響く。

高度はもうすでに百キロメートルを超えた。さああと少しだ。

もう目の前にはあの砲台の上の部分が見える。

地球の雲をも眺めながら進んだ。

もう少しだ。鮮明に巨大砲台が映る。

最狂のフィナーレ。

その鍵は私とこの機体、そしてあの砲台だ。

しばらくすると、砲台の上部ハッチに到着した。あのディスクが本当か確かめるときが来た。

ディスクの認証コードを機体から設定する。すると、大きなハッチはゆっくりと開いた。

その中に入り、電気系統の復帰や、与圧の確認をした。問題なさそうだ。フィナーレ・ブリッツでそのまま先に進むことにした。通路はアームドスーツ用に設計されている。かなり広い。

多くの部屋があるが、何もない。使われなかった証拠だろう。

それにしてもなぜこんな壮大な施設を作ったにもかかわらず、だれも手を出さなかったのだろう。ほかの企業ではセキュリティーを突破できなかったからだろうか。

それだけではない。いろいろ不可解な点も多数ある。普通はあるべきだろう地上攻撃用の砲台はない。まったく衛星落とすためにこんな大規模な施設は必要だったのか。

本当に謎な砲台である。

延々とまっすぐな通路を抜けると、広大な広場に出た。どうやら中央部はかなり先のようだ。あと十一キロはある。

さすがに長い。何か移動用のものはないのだろうか。

広場の中で移動用の通路を探していると、それらしきものを見つけた。

そう、あのカタパルトだ。

中央部方面と書いてある。これに乗っていけば一瞬だろう。

電磁ロックを起動し、カタパルトにセッティングにイジェクトするとまっすぐレールに沿って時速三百キロくらいで射出された。

これは効率的な移動手段だ。スラスターでは速すぎるし、コントロールも難しい。考えられたアイディアだ。

数分そのカタパルトに乗って移動すると、中央部が見えた。

電磁ロックを解除して、中央のエレベーターまで行った。

再び認証コードを読み込ませて最上部の管制部まで向かった。

しばらく上昇して、到着した。案外上層に来たこともあって早く着いた。さあとはこいつを落とすだけだ。脱出用のルートはすでに算出済みだ。ナビゲーターにも入っている。

ディスクよりアクセス。セッティングを開き内部にある衝突用のプログラムを実行した。

外部のハーネスはオールクリア、スタビライザーも問題なし。

さあ落とすとしよう。

私は実行のボタンを押した。

これで、始まる。

と思ったが、そうもいかなかった。一か所ハーネスの異常があるようだ。中央のハーネスを外して、そこにあるバーを回せば設定は完了するようだ。

急がなければ。皆待っている。

今度はさらに上に上がり、屋上に出た。

それにしても広大で大きな施設だ。二十五キロもあるだけある。

スラスターを吹かして、中央部に向かった。

そしてハーネスを見てみると、確かにロックが外れていない。落ち着いてロックを解除した。

その時…

一筋のレーザーが私の横を過ぎていった。

何だ?

振り返ると、そこには変形した高性能機がいた。

いや待てよ、あれはまさか…!?

アーリータイガー無人機プロトタイプ最終版。最強の無人機だ。コックピットもつけられていたが、人間が操縦するためではない。

設計上で有人機ということにするためだけにだ。

最悪の機体と出くわした。いったいどうすれば…

『やあ、また会ったな。』

この声と話し方、まさかあの上官!?なぜコックピットから声が聞こえる?

「お前はあの上官か!?」

『そうだ。俺はお前に殺された。あのスナイパーで潜伏していた時、俺は戦いで負けて切られてそのまま死んだ。だが今日は導きの月光と呼ばれる日だ。

私はこの無人機を自分の体として乗っ取り、お前を止めるためにここに来た。』

彼は強い復讐の心を燃やしていた。その機体からそれはあふれ出していた。

『これ以上、俺らの仲間を死なせはしない。決してお前らにはな!』

最後の一言には大きなインパクトを感じた。だが、私もやらなければならない。

そう思った瞬間、またみんなと過ごした思い出が通過していった。

「ああ、そうか。だが私も引くわけにはいかない…!なぜならば私たちはみな今日まで戦争を終わらせたいということを忘れたことはひと時もない!

そしてお前がそうであるように、私の仲間もほとんどが死んだ!民間人までもだ!それを今逆転する最後の一手…!それを打たずに終わるわけにはいかない!

私達には均衡を保ち、犠牲を無駄にしない義務と責任がある!私はそれを果たす!」

全てを込めたこの言葉。思い出となってしまったが、みんなと共に歩んだ今日を忘れることはなかった。

もうこれで終わらせる。

『異常端子。それは排除しなければならない。それに、まだ聞いてなかったな。お前の名前は何だ?』

「グラビティ・タニティード・エースだ。お前は?」

『レイバック・アステリズムだ。じゃあエース。やるとしようか。』

相手はライフルを構えて冷却口を開いた。真っ白い蒸気とともに熱気が伝わってきた。

「そうか。ならば…」

私は太刀を右手に構え、左に刀構えた。

「私も、やるとしよう。」

互いに睨めあった。

そして二つの思いがぶつかった。

“絶対に勝つ…!!”

その瞬間、私たちは突進し、互いに刀を交えた。相手のレーザーは極めて出力が高い。斥力押し返される。今まで戦った敵の中で初めてこの刀で切れないものだ。

いったん互いに距離を取り、また刃と刃を交えた。

ガリガリガリ!!

ジジジジジッ!!

レーザーとアウトレイジのこすれる音が機体の腕を通じて肌から聞こえる。すさまじい力だ。

だが、負けられない!

出力のリミッターを解除し、前に押しやった。

そのまま刃を合わせた状態で前に刃を押し当てた。

お互いのしのぎが削れた。

『やるなぁ…!さすがだエース!』

「なぁんのぉぉぉぉ!!!!」

ひたすらに刀を近づけるが、はじかれてしまった。

相手はそのまま突進度同時に私を連れ去り、地面すれすれに飛行した。

相手が上から刃を乗せてくる。その時に受け流して一気に斬り流す。

そして形勢を有利にし、そのまま押し切ろうとした。

たださすがに生半可な出力ではない。押し切ることはできなかった。しかし今ので距離をとれた。

今だ!!相手が少しひるんだ!!

太刀を十字に構え、呼吸をついた。

斬。

刀と刀、相手と自分、そして地面と天地が重なったその時、

一気にイグニッション・スラスターで加速した。

ザン!!

レーザーを断ち切り、敵の装甲を破った。しかし当りは甘かった。

『さすがだな。だがこれからもっと面白くなる…!』

彼は一気に装甲をパージし、高機動型に成り代わった。

そして青い光を放った。おそらくパワーリミッターを彼も解除したのだろう。

「ならば、私もやるとしようか!最後にフィナーレを上げるのは私だ…!」

オーバードライブを起動し、完全に出力リミッターと駆動コストを無視。

どうなるか全く予想もつかない。だが、お互いにまた構え、突進し、火花を散らした。

長く続くであろう戦いが幕を開けた。


一方地上では…


「押し切られるな!!そのまま相手を倒せ!!」

エースが頑張ってくれているのはありがてぇ。だが遅い。予定よりもだいぶ遅い。

このままでは消耗が続く!劣勢なのは確かだ!頼む、早くやってくれ!!

『アレクサンダー教官!!きりがありません!!いくら相手が一機が弱くともこの数ではまずいですよ!!』

「分かってる!!だがやらねばならんのだ!!」

また俺の方に二機が飛んできた。

「チェストォォ!!!」

ランズでぶち抜き、何とかしのいだ。にしても本当にきりがない!どうすればいいんだ!

こんな時にエースがいたらなぁ…

ああ、だめだ!やるときは自分でやらねば!!

『エースさん大丈夫ですかね?』

「あいつならきっとできる!!まだ耐えるんだ!!」

きりのない大群を相手にしながら、わずかにエースが死んでしまったのではないかと思う自分がいた。

だが絶対にあいつなら成功するに違いない。

このまま耐えるんだ…!



『さすがだなぁ。ここまでしてもまだ倒れずに傷も少ないとは。』

「ああ、まだまだこれからだ!!」

もう期待の損傷は激しい。上限のない出力にスラスターとアクチュエーターが悲鳴を上げ始めた。それに、ファイアフォックス機構もすべてやられた。

だが、こいつならまだまだ動ける。

また刀と太刀を構えてゆっくり落ち着く。

そして迫りくる相手に対して柔軟に対応した。

だが、相手も損傷は激しかったようだ。

もうすでに冷却口は真っ赤になっている。

「さすがにきついだろう。だが、ここで終わるわけにはいかない。」

『そうだな。だが、まだまだ。』

相手はあきらめずにブレードを構えなおした。

そしてまた一つ、相手は強くなったようだ。

『これで終わらせる…!最終出力上限解除!駆動コスト上限撤廃!』

無茶な…そんなことしたら機体が爆発するぞ…!

『ずっと俺は勝ち続けてきた。お前と会うまでは。』

そして熱気を帯びる機体で続けた。

『だがお前に会ってからそのすべてが変わった!無敗だったはずだった!何度も何度も負けた!』

力強い言葉に圧倒されそうだ。だが落ち着いて構えた。

『俺は、今日、お前に勝つ!!そしてもう同じ思いをだれにもさせない!!そのために俺はこの機体を乗っ取った!!お前に勝つために!!』

「確かに私は勝ってきた。だが、勝つたびに何かを失った。大事な親友に尊敬すべき先輩。この前に限っては本部の仲間の大半もだ。

それでも私は今日まで勝ち続けた。そしてまた今日も、失ったもののために勝たなければならない…!」

互いに刃を向けた。そして一瞬のうちにしてまた戦いが始まった。

私は迫りくる刃を断ち切り、一気に上昇した。

私は刀をしまい、左の原子力ライフルを出した。オーバードライブ中にフルチャージしたものだ。

それを相手に向けてはなった。

ドゴーーーン!!!!

大きな爆発とともに相手はひるんだ、しかし、まだバラバラになったわけではない。

再びライフルを戻して刀を手に取り、十字に構えた。

互いに向かい合った。そしてお互いに切りかかった。

『終いだぁぁぁぁぁぁ!!!!エース!!!!』

「チェストォォォォォォ!!!!」

ザン!!

刀の音が響き渡り、最後を締めた。

スパン!!

相手は真っ二つになった。最後の刃を十字の縦の刃で断ち切りながら横の太刀で斬った。

『俺は…お前が羨ましかった…そしてお前にいつか勝ちたかった…』

無残に切られ、煙を上げる気体で彼は続けた。

『だが俺がいかなる手を使ったとしてもお前に勝てなかった…たとえ俺が人じゃなくなろうとも…』

私の方を見て、語りかけるように話した。

『俺は…本当に強いやつになりたかった…』

「そうか。だがまぎれもなく今まで戦った中では一番強かった。」

『そうだったか…へっ、笑えるぜ。なあエース、また導きの月光でいつか刀を交えるとしようぜ。』

「そうだな。アステリズム。ありがとう。」

彼は静かに消えていった。

私はやるべきことを済ませるために急いでロックのある場所に行き、バーを回した。そして、地球にぶつける用意が整った。

これでやっと…すべてが終わる…。



俺らの軍は厳しくなっていった。損傷個所も多数だ。さすがに厳しい。

もう望みこそ薄い。だがそれでもあきらめられない。

防ぎ留めなければ…!

目の前の敵に突進し、片付けたその時だった。上空用のレーダーに例の砲台が引っ掛かった。

やっと来たか!!!!

「エースがやったぞ!ギガンテスの壁を起動!!出力よし!!」

『やりましたか!!』

上空を眺めると、雲を破ってあの砲台が現れた。

そして次の瞬間、あたりはすべて真っ赤になり、吹き飛んで行った。すさまじい光景だ。

本当によくやったなエース…!!これで、戦争は終わった。

俺は気が緩んでしまった。次の瞬間をつかれて、サーベルをすぐ懐に刺されかけた。

「くそっ!!油断した!!」

急いでリカバリーするが、これではまずい!!

ああ…俺もとうとう終わりか…楽しい人生だった…

そう思った瞬間…

ザシン!!

あの今でも覚えている真っ白な切っ先が目の前の機体を貫通した。

そしてその切っ先は下に動き、機体を薙ぎ払った。そこには黒い雄姿があった。

『教官、やりましたよ。最狂のフィナーレは上がりましたよ。』

その雄姿は微笑んだようにも見えたのであった。

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~インディバル・デイ~ 灰狼 @Hairow-001

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