充電中の大学生ちゃん Ⅵ
8月に入り、大学は長い初休み期間に入った。
俺と星見さんは相変わらず俺の部屋でだら~として過ごしている。
今も二人でクッキー片手に格闘ゲームをしながら楽しんでいた。
「星見さんってどのゲームも上手いよな」
「えへへ~。それほどでも。お兄さんはそんなに上手くないですね」
「それほどでも」
「よーし! では私がお兄さんを師匠になって差し上げましょう。この夏休み中にお兄さんをレート上位にまで引き上げてあげますよ」
「それは大変ありがたいな。あっ、でも……」
「どうしました?」
「俺、明日から帰省するんだ。悪いけどゲーム特訓は帰ってからな」
ガシャン。
急に大きな音がなり、ビックリする。
音がした方向を見ると、星見さんが目を見開いたままコントローラーを落としていた。
「き、きききき、帰省、ですか?」
「ああ。新潟に」
「新潟!?」
「佐渡だ」
「離島!?」
俺が佐渡出身なことにやたら大きな驚きを示している星見さん。
「な、なななな、何日間、留守にされる、お、おおお、おつもりで?」
「んー、お盆期間中だけだから10日間って所かな」
本当はもっと長く滞在しろって親からは言われているけど、それは丁重に断った。
地元帰ってもやることないしな。
親に顔見せできれば十分だろう。
「わ、わかりました。私も準備します!」
「なんの!?」
「お、お兄さんの実家にお供する準備に決まっているじゃないですか!」
「なんで着いてくる気なの!?」
「だ、だだだだだ、だってぇ~! お兄さんがここからいなくなったら私一人になっちゃうじゃないですかぁ」
涙目で甘えた声を出してくる星見さん。
懐いてくれているとは思っていたけど、離れようとしたら実家までついていきたいと言ってくるのはさすがに予想外だった。
「星見さんは帰省しないの?」
「うぅ。地元にはちょっと嫌な思い出があるので帰りたくありません」
絶対中二病関係だろうな。
正直俺も自分の中二時代を知っている知り合いがいる地元には帰りたくはなかった。
「じゃあ自分の部屋で大人しくしてなさい」
「や!」
「や! って言われてもなぁ」
さて困った。
この駄々っ子をどうやって納得させようか。
「毎日星見さんに電話するから」
「当然です」
「数時間置きにメッセージするから」
「既読無視は死刑です」
「お土産買ってきてあげるから」
「お土産はお兄さん自身がいいです。本当に私を置いていくつもりですか?」
「うーん……」
そんな可愛いことを言われてしまうと決心が揺らいでしまう。
「一人暮らしを許された条件にお盆と正月は帰ってくることって約束しているんだよ。反故にしたら俺は強制的に実家に戻されるかもしれない」
「それはぜったいにや!」
「俺も、や! なんだ。だから星見さん。寂しいだろうけど、数日間だけ一人で……ね?」
「うぅぅぅ」
「そうだ。この部屋の合鍵あげるから。俺の部屋で寝泊りしてたら少しは寂しさ紛らわせられるかも」
「なんかモノあげて誤魔化そうとしてません? でも合鍵はください」
恋人でもない相手に合鍵を渡すのは自分でもどうかと思うけど、星見さんなら信頼おけるし、渡してしまっても平気だろう。
盗まれて困るモノもないしな。
「……仕方ないので納得してあげますよ。お兄さんの服の匂いを嗅ぎながら夜空ちゃんは寂しい夜を過ごすことにします」
「…………」
やっぱり合鍵返してもらうべきかなと今真剣に思ってしまう俺であった。
その日の夜。
「あ、あの、星見さん? どうして抱き着いてきているの?」
「充電です」
「ど、どうしてたまに頬ずりしてくるの?」
「充電です」
明日から数日間だけ離れ離れになるだけなのに、まるで今生の別れの前日みたいな空気で俺にすり寄ってくる星見さん。
でも、思い返せば彼女がウチにファイアーボールを打ち込んできたあの日から毎日この場所で顔を合わせていたっけ。
彼女と過ごす日々は楽しいし、とても安らぐ。
その日課が急に失われてしまうのだ。
寂しくて充電したくなる気持ちは俺にもわかる。
「わ、わわ。お兄さんからも抱きしめてくるなんて、め、珍しいですね?」
「充電だ」
「……そか。充電ですか。それなら仕方ないですね。容量マックスまで充電してくださいね」
「ちょっと俺の充電は長くなるぞ?」
「いーえ。絶対私の充電の方が長いもん」
「俺」
「わたし」
目と鼻の先の距離感にて、心地よい空気に浸りながら軽口をたたき合う俺達。
明日からしばらくの間、これがお預けになるのか。
……うん。充電めっちゃ必要だわ、これ。
「私が居ない間、泣かないでくださいよ?」
「こっちのセリフだ。泣きそうなの絶対そっちだろ?」
「……泣いたら……どうします?」
「……たくさん電話するよ」
「……うん。絶対ですよ」
顔をベタっと俺の胸に引っ付けて、頬を摺り寄せてくる星見さん。
俺の温もりを少しでも多く拭い取ろうとする仕草がとてつもなくいじらしい。
そんな彼女の頭頂部を見つめながら、俺は深々と実感する。
「(俺、星見さんのことが好きだわ)」
もう誤魔化さない。
俺の中で芽生えた気持ちに目をそらさない。
そしてたぶん彼女も俺と同じ気持ちであることが分かるから……
自分の気持ちと彼女の気持ちを繋ぎ合わせる必要がある。
でも今は——
俺の胸の中で充電する彼女の愛おしさに浸っていたいと思うから。
俺は無言で彼女の頭をゆっくりと撫でるのであった。
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作者より
いつも読んでくれてありがとうございます。
現在作者は『第3回G'sこえけんコンテスト(ボイスドラマ部門)』に応募しており、そちらの執筆に注力させて頂いておりました。
ハイスピードはぴねすのようなテンポの良い短編なので、もし良かったら覗いてもらえると光栄です。
こちら、こえけんに応募した短編でございます。
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