大人を装う子供な大学生ちゃん Ⅴ

「お兄さん! 私達にピッタリそうな映画借りてきました! 一緒に見ましょう!」


 今日も元気だな星見さん。

 お兄さんは夏の暑さでバテ気味だよ。結構本気でキミの元気を分けてほしい。


「あらら。溶けてますねお兄さん。ですがそんなお兄さんの上に夜空ちゃんは乗っかるのです」


 ポフンと音を立てながら俺の脚の間に腰を下ろす星見さん


「……夜空ちゃんって誰?」


「私の下の名前ですよ!? 今まで知らなかったのですか!?」


 暑さで思考が死んでいるせいか結構本気で星見さんの下の名前が出てこなかった。

 7月ともなると熱くて死ねる。さすがにそろそろ電気代ケチらずにエアコン付けるべきかな。

 それに星見さんの体温も直で伝わってきていて暑さも倍増しているし。


「それじゃあ、映画鑑賞会始まり始まりです!」


 本当に元気だなこの子。

 星見さんが映画のディスクをセットしている間に、俺もエアコンの電源を入れる。

 そして俺はこの後実感する。

 エアコンの電源を入れておいて本当によかったと。







 俺は19歳。星見さんは18歳。

 成人済みの烙印は押されており二人共大人だ。

 だから、このような映画を見ることは問題ないはずだ。


『ん……んああ! あぁぁんっ!』


「「…………」」


 ちらっとDVDのパッケージを確認する。

 うわぁ。やっぱり書いてあるよ『R18+』。

 でも開始10分でいきなり濡れ場に突入するかね? これだから洋画は。


「『私達にピッタリな映画』……ねぇ」


「ち、ちちちち、違うんですよ!? だってだって『天使と悪魔の魔術の本棚』なんてタイトルなんですからファンタジーものだって思うじゃないですか! ま、まままま、まさかこんなに、え、えっちな……あぅぅ……」


 頭から湯気を出してしまっている。

 エアコン付けてなかったら確実に茹で上がっていたな。

 こういう映画に耐性なさそうだもんなぁ星見さん。


「お、お兄さんはなんだか余裕そうですね! 私と違って!」


「いや、まぁ、キミよりは大人だもんねぇ」


「1つしか歳離れていないくせに! も、もしかして、こういう経験、されたことあるのですか?」


「うーん……」


 ねぇんだわ。

 19歳童貞なんすわ。

 でも正直に言うのはなんだか恥ずかしい。


「あ、あるよ?」


 見栄を張って嘘をついてみた。

 すると星見さんは見るからにショックを受けている様子で……


「う、うそ……あるんだ……」


「星見さんもあるでしょ?」


「……あ、ありますよ?」


「あ、あるのか……」


 今は彼氏は居ないと言っていたけど、元カレとかいてもおかしくはないよな。

 それにもう18歳。

 そういう経験をしていても全然おかしくない年齢ではあるのだけど……


「(やばい……なんか俺めちゃくちゃショックを受けている)」


 俺以外の男に懐いたことがあるということ。

 俺は経験ないのに、この子はもう経験済であること。

 それらの事実が俺のガンガンと俺の脳を揺らしてくる。


 気が付くと映画は終わっていた。

 濡れ場も数回あったが、俺と星見さんは無言でそれを見つめていた。


「な、中々刺激的な内容でしたね」


「えっ? ああ、ああ、そうだな」


 正直ショックが大きくて映画の内容はあまり頭に入ってこなかった。

 こんなにショックを受けるなんて……

 やっぱり俺は星見さんのことを——


「お、お兄さん!」


「な、なんだ!?」


「お、大人の経験があるのなら、わ、私と一緒にお風呂とか入っても全然動じたりしませんよね? 一緒に入りませんか?」


「急に何言い出すの!?」


「べ、別にいいじゃないですか。いつもお世話になっているんですし、お背中を流させてください」


 なるほど。アダルティなアレではなく、単純に俺への感謝を示したいだけのようである。

 だけど——


「——ごめん、星見さん。実は嘘ついたんだ。俺、そういう経験、したことないです」


「……えっ?」


 ひかれただろうか。

 大人と思っていた先輩が実は未経験の童貞とか格好悪いにもほどがある。


「ど、どうして嘘ついたんですか! もー! 私、びっくりしちゃったじゃないですか! お兄さんだけ経験済だと思って焦っちゃいましたよ」


 だが、星見さんはひくどころか逆に嬉しそうに頬を緩めていた。

 いや、それより——


「今、お兄さん『だけ』って……」


「あっ……」


 墓穴を掘ってしまったと言わんばかりに口元を手で隠す星見さん。

 そっか。星見さんも俺と同じく——


「ち、違いますよ? わ、私は経験豊富ですから? お兄さんの裸をみることくらいなんでもありませんから? さっ、とっととお風呂へ行きますよ!」


 何も誤魔化しきれていない少女は一人で勝手に風呂場の方へ足を勧めていく。

 俺は心底ほっとしながら彼女が未経験であることを内心喜んでいた。

 ほっとしたら腹が減ったのでキッチンの方へと足を運ぶ。


「——ってお兄さん! どうしてお風呂場に来ないのですか! 背中流すって言いましたよね!?」


 バスタオル姿の星見さんが風呂場から顔を出す。


「了承してないよね? ていうか童貞の俺にはキミとの入浴は刺激が強すぎるから一人で入っておいで」


「未経験同士だったら余計に異性耐性を付けるべきです! さっ、脱いだ脱いだ」


 ついに自分が未経験であることを隠そうともしなくなったな。


「こ、こら、そんなに動くと、キミのタオルが——」


    はらりっ


「「あ……」」


 はらりと落ちたバスタオル。

 その下には一糸まとわぬR15+の光景が……

 慌ててバスタオルを拾い上げ、身体を隠す星見さん。


「み、見ました?」


「見させて……頂きました」


 その……こういうのは失礼だけど……出ているところは出ていたし、ちゃんと大人なんだな星見さん。

 脳内画像フォルダに永久保存しました。


「脱げぇぇぇぇ! お兄さんも脱げぇぇぇぇ! 私だけ裸体をさらしてお兄さんだけ服着たままなのずるい! 脱げぇぇ!」


「わぁぁぁ! 本気で脱がそうとしてくるなぁぁ! またバスタオル落ちるぞ!」


「いいもん! もう全部見られたもん! 私もお兄さんの全部見るんだもん!!」


「ぎゃああああああああ!」


 結構本気で服を剝ぎ取られるが、パンツだけは死守し、全てを晒すことは逃れることができた。

 でも星見さんは終始不機嫌そうに頬を膨らませていたであった。


 

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