第9話 大人気

「なあ、幸人。登校した時にいた一年生って、お前の妹か?」


「お前の独断でお友達になるのダメだと言わないでくれないか」


「ねえねえ、あの一年生、むっちゃ可愛いじゃん。どこで拾ったの?」


 俺はお釈迦さまでも聖徳太子でもないから、一度に話しかけられても、さっぱり分からん。せめて一人一人話してくれないとな。ただ、聞き取れなくても言いたいことは本当によく分かる。この調子で変な虫が美久にまとわりつくのは正直困ったことだ。それにしても、これだけ大勢の人に話しかけられたのは初めてだ。


 もしかしたら、一年半の間に話しかけられた数をすでに超えたのではないだろうか。


 話しかけられている内容がほぼ義妹に集中してるのは、正直腹は立つが、それでもここまで聞かれるのは悪い気はしない。俺は一人ずつ答えることにした。


「あー、間違いなく俺の義妹だよ」


「すげえな。鳶が鷹と言うけど、そのレベル超えてるよ!!」


 すげえ失礼なこと言ってるの分かってる?

 まあ、自覚はしてるけどな。血が繋がってないから、顔は似てなくて当たり前だ。それでも、義妹は俺の全てだ。義妹のためなら、悪魔にでも魂を売るよ。


「なあ、俺の質問は?」


「お前の友達と美久の言う友達はちがっ……」


 あっ、墓穴を掘った。こいつにだけは名前を言うつもりはなかったのによ。


「へえ、美久ちゃんって言うのか。見た目通り、清楚で可愛い名前だね」


 名前に清楚とかあるかよ!!!


「いや、ミクメラニアンだ」


「はあ!?」


 俺は本名を知られたくなくて、咄嗟に適当なことを言った。まあ、美久はポメラニアンに似てるしな。


「ふざけんなよ!!」


「ふざけてなんかないけど……」


「そうか」


 嘘だろ。こいつ本当に信じたのか!?


「ミクメラニアンさんは、ハーフなのかな」


 確かに亡くなった父親が外国人だったらしいな。その割には150センチと小柄だ。そこが良いんだけどな。


「ハーフだよ」


 少なくとも嘘はついてない。


「お前はどう見ても日本人だけどな。血が繋がってないとかあるのか?」


「いや、そ、それはないんじゃないかな」


 あまり、そこを深掘りされたくはない。俺と美久に関して絶対にないことだが、義妹と結婚できるとか馬鹿なことを言い出すやつが出できそうだからな。


「まあ、そうだよなあ。それにしてもミクメラニアンさんか」


 こいつイケメンの癖に結構チョロイな。まさか、ミクメラニアンを信じるとは思わなかったぜ。


 結局、俺は休み時間中ずっと義妹のことを聞かれるハメになった。




――――――――




「あー、無茶苦茶疲れたよ」


 俺が美久の下駄箱に向かうと微妙な表情をした美久がいた。


「嫌なことがあったのか?」


 その言葉に美久はブンブンと首を横に振る。


「なら、良かったじゃないか」


 そう言って美久の鞄を持ってやり、下駄箱から靴を出してやろうとした。


 ドサドサドサドサ……。


「なんだ、これ!?」


「さあ、なんだろう……」


 一枚手に取ったら、ハートマークが書かれたラブレターだった。


「マジでこれ全てか?」


「たぶん……」


 溜め息をついて、美久はそれを取ろうと手を伸ばした。


「俺が片付けてやるよ」


 俺はそれらを全てを手に取った。


「ちょっと待ってな」


 俺はそのまま焼却炉に向かう。面と向かって話せねえなら、告白するなよ!!


 そのまま、焼却炉に放り込んだ。


「お義兄ちゃん、燃やしちゃって、大丈夫かな?」


「あんなもん一々読んでたらキリないからな。美久に似合う男はお義兄ちゃんが見つけてやるよ!!」


「いいよ、いいよ。美久はお義兄ちゃんさえ居てくれればいいんだよ」


 美久よ。ブラコンなのは嬉しいが、そろそろ兄離れしないといけないぞ。まあ、俺が信用のおける相手を探してやるさ。


 俺はありがとう、とだけ言って心の声をぐっと飲み込んだ。


「あれ、まだ一枚残ってたよ」


「これも、焼却炉に入れといてやるよ」


「ちょっと待って!! 宛名が面白いよ」


「面白いわけがないだろ!!」


 美久はニコニコ笑っている。もしかして、この手紙の相手と相思相愛なのか!!


 項垂れそうになる俺に美久はラブレターの宛名が見えるように両手で持った。


「愛しのミクラニアンさまだって、なんかわたし、犬みたい!!」


「グハッ!! ゲホッ、ゲホッ、ゲホ……」


「ど、どうしたの。いきなり咳き込んで!!」


 マジかよ。俺のクラスのやつが美久に手紙を書いたのだろうが、ミクラニアンは咄嗟に出た嘘だが、本気にしてたのか。マジで受けるぞ。


「ミクラニアンか、わたしを笑わそうとしたのかな? なんか面白そうな人だね」


「嫌、こいつは本気だ」


「えーっ、流石にそれはないかな」


 俺が咄嗟に言った嘘がきっかけなんだがな。


「まあ、いいや。お義兄ちゃん、行こっか」


「あっ、ああ!」


「喫茶店に寄ってくんだよな」


「そ、そうだね。あっ、そうだ。び、びっくりしないでね」


 その言葉だけで、かなりのドキドキだ。一体、悪魔とどんな交換条件で契約をしたのか。本気で、心配だぞ!!


「それは内容によるよ」


「うーっ、やはり怒る?」


「だから、内容次第だろ」


「ゔーーーっ」


 こりゃ、かなりヤバいやつだな。場合によったら、悪魔を呼ばないとならないかもな。俺は覚悟を決めて、駅前の喫茶店に向かって歩き出した。


「お義兄ちゃん、手を握らないと!!」


「なんで?」


「迷子になっちゃうよ!!」


 美久ならあり得そうだから怖いなんだが……。


 俺の視線に美久はこくこくと頷く。


「仕方ねえな、ほい」


「うんっ」


 本当に嬉しそうに美久は俺の手を握った。その瞬間、胸がドキドキとし出す。


 馬鹿か俺は。義妹にドキドキしてどうすんだよ!!


「じゃあ、行くぞ!!」


「うん!!」

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誰に何と言われようとも、余命数ヶ月の最高にかわいい義妹を救いたい!!! 楽園 @rakuen3

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