第8話 お友達?

「美久、おかえり……」


「お、お義兄ちゃん、本当に……帰って来れると、思わな……かったよっ」


 涙でボロボロになった美久。本当に良く頑張ったな。俺は美久を抱きしめようと肩に触れたが、そこから動けなかった。


 そうだ。今まで美久には俺しかいなかったから、恋人のような距離感で近づいていた。でも、今は違う。美久には楽しい未来が待っている。好きな人ができて、恋をして結婚していく。


 美久には未来があるんだ!!


「美久、頑張ったな!!」


 俺は美久の肩に手を当てたまま、ニッコリと笑った。そうだ、これからはお義兄ちゃんなんだからな。


「それだけ!?」


 美久は一通り泣いた後、俺をじっと見つめた。


「それだけって、どう言うことだよ」


「ぎゆーうっは、ないの?」


 グハッ、その台詞は破壊力が強すぎる。ただでさえ日本人離れした藍色の髪と青い瞳の美少女だ。


「ないぞ、ないないない」


「どうして?」


 距離感間違ってるだろ。近すぎるって……。


「普通のお義兄ちゃんは、抱きしめたりしないだろ」


 お義兄ちゃんらしく、少し諭すように言ってあげる。


「でも! 今までずっとギューしてくれてたよ」


「それは……」


「美久の身体が治ったら、どうでも良いの?」


「いや、そう言うわけじゃないぞ」


「じゃあ、ぎゆうっ、してください!」


 美久がぺこりと頭を下げた。これは逃げ切れないぞ。退路が絶たれた感じだ。ただでさえ、両親は仕事で遅くまで帰ってこない。学校から帰ってからもこの状況が続くなら、理性が保つだろうか。


「お義兄ちゃん、美久、ぷんぷんだよ。美久のことなんて、どうでも良いんだね」


「そんなわけねえだろ! 俺がどれだけ……」


「じゃあ、美久のことどれだけ大切か。ぎゆうっで教えて?」


「ぐっ……」


 しまった。美久の口車に乗せられた。


「えと、だな……そう言うのは好きな人にしてもらうと良いよ」


「ゔーーーっ」


 なぜだ。なぜ、俺は美久に怒られてるのだ。


「ごめんなさい」


 俺は病室の時と同じように美久をギュッと抱きしめた。


「分かればよろしい♫」


 やばいよ。このほっそい身体にアンバランスなくらい大きな胸。そして、同じシャンプー使ってるのに、なんか凄く良い匂いなんですけど……。


 俺は理性を総動員させて、ゆっくりと美久から離れた。


「もう、終わり?」


「終わりだ。終わり……」


「うーん、まっ、いっか……」


 ちえっと言う声が聞こえた気がするけど、何か狙ってなんかないよね。


「あっ、そうだ。昨日言ってた話の続きしないか?」


「あれは学校帰りの喫茶店でする約束でしょ」


「でも、リビングでコーヒー飲みながら話す方が落ち着いて話せると思うが……」


「だーめ、喫茶店で話すと決めたんだからね」


 美久は言い出したら、説得するのは不可能だ。俺は話を変えることにした。


「今日の学校だけど、慣れるためだから、辛くなったら、いつでも帰って良いからな」


「うんっ、大丈夫だよ!!」


 美久は今日、合格以来一度も通ってない高校に通うことになる。サイズ合わせの時と病室で集合写真撮影のために制服に袖を通したが、正式に着るのは本日が初めてになる。


「今日は俺も一緒に帰るから、正門前で待っとけよ」


「うん。分かった!!」


 実は美久のことを同級生に話したことはなかった。もともと、友達も少ないため、聞かれることも、殆どなかったが……。


 家を出ると日光が差し込み、暖かいを通り越して暑い。


「暑いよなあ」


「生きてるって、実感するよね」


 そうか。美久は空調の効いた病室にずっと居たから、太陽の光に照らされるのは、病院の中庭の散歩をしている時くらいだっただろう。


「ほら、行くぞ!!」


 美久は義妹だが、手を繋いで登校すると、変な噂が立つと行けない。俺は美久の手を握ろうとした手を上に持ち上げて、頭をかいた。


「うん、お義兄ちゃん、一緒に行こう!!」


 手を握らなかったことに一瞬不満そうに頬を膨らませたが、俺が頭をなでなでしたことで満足したようだ。


「登校中に他の生徒も来るからな」


「うーん、……分かったよ」


 満足したと思ったが、しぶしぶ承知したようだった。頭をなでなでしてる時だけは、満足気にニコニコしてたのだがね。


「あれ、その娘だれ!?」


 クラスメイトの天野結城が俺に話しかけてきた。家が近いのかよく登校が一緒になることはあるが、話しかけられたのは初めてだ。


「この人は、誰!?」


 あーあー、美久よ。俺に隠れながら話すのやめなさい。本当に人見知り星人だよな。実は美久が入院するまで俺は義妹に嫌われてると思ってた。だってよ、何も話してくれなかったもん。


「あれ、可愛いい女の子ちゃん、どうしたのかな?」


 おい、俺の許可なく話しかけないでくれるか?


義妹いもうとだよ」


「妹さんか。へえ、君とはえらく違って……えらく……」


 俺の顔と美久の顔を見比べて結城は、顎に手を当ててそう言う。気持ちは分かるけどな。そう言う表現は傷つくぞ。


「お義兄ちゃん、なんか怖いよ」


「ちょっと、俺は怖い人じゃないからね!!」


 なんか猛アピール酷くね。


「それにしても、君に妹がいるなんて初めて知ったよ」


「数日前まで入院してたからな」


「えっ、身体弱いの?」


「あははははっ」


 もう笑うしかない。数日前は危篤状態だったんだよ。


「ねえ、友達になってくれないか?」


「お友達ですか!?」


 美久よ、目をキラキラして言うのやめなさい。たぶん、きっと、絶対、美久の思ってるお友達とこいつのお友達は違うぞ!!


「義妹よ、やめときなさい」


 こいつに義妹の名前を知られたくないと思った俺は、こいつの前では義妹呼びで統一することにした。日本語って便利だよな。義妹も妹も発音は、いもうと・・・・だからな。


「はい!?」


「おいおいおい、妹さんはオッケーぽいじゃねえか。何仕切ってるんだよ!!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る