第7話 お義兄ちゃんの心配
危篤状態だった俺の身体は、数日もすると明らかに良くなって行った。
「お義兄ちゃん、随分良くなったね」
本当に嬉しそうにニッコリと笑う俺の中に入った美久。
「明日、退院なんだってね!!」
「で、何故、俺は急に元気になったんだ!?」
「えと、うん……そ、それは……」
美久のしどろもどろだった。この台詞は俺の容姿と相まって、はたから見たらかなり気持ち悪いだろう。でも大丈夫。お義兄ちゃんはお前の顔を脳内で再現してるからな。
それにしても美久は嘘が下手すぎるよな。
「でも、お義兄ちゃんだって、美久のこと騙したよね」
「何のことだ?」
「勝手に入れ替わって驚いたよ!」
「それは、だな……、神様が俺の願いを聞いてくれたと言うか」
「本当に心配したんだからね。絶対助けてやるなんて言って、自分の命を犠牲にしてまで、……これからは、絶対そんなことしないでよね」
美久は涙を拭いて、そう言った。
「まあ、結果オーライじゃないか。ふたりとも助かったんだからさ。もう、あんな危険なこと絶対しないから……、約束するよ」
「えと、そ、そうだ……ね」
こいつ分かりやすすぎ……。
「で、美久よ。言えよ。俺に何を隠してるんだ?」
「えと大したことじゃないけどね、その……あのさ……うん……」
声がだんだんと小さくなっていく。
「えと、病院じゃなくて明日、学校帰りに喫茶店で話すよ。後、入れ替わりに関しては、神様が忘れてたみたいで、今日中には元に戻る……はず……」
美久よ。お前、かなりあの悪魔の件に首突っ込んでるだろ。
「鳥居のある神社には行ったのか?」
「えと……そのね……」
美久は嬉しそうに手をパンと叩いた。
「神社には鳥居があるもんですよ」
「いや、そう言う意味じゃなくてな」
流石に美久に誤魔化される俺ではない。頭は良いのに、美久は嘘に関してはヘツポコだ。お義兄ちゃん、嬉しいよ。美久が素直に育ってくれて……。
「なあ、俺は美久のことが本当に心配なんだよ」
俺は美久に視線を合わせて諭すようにゆっくりと言い聞かせた。
「ご、ごめんね。その……、気がついた時、鳥居の前で倒れてたんだよ」
そうか。美久と入れ替わった時、鳥居の前にいたもんな。
「今後、無理はしないでね。ゆっくり考えて行ったら、解決策は見つかると思うし……」
「だから、何の解決策なんだよ」
「……えと、あっ……それは明日、話すからね」
だから俺の身体で涙目にならないでくれよ。人に見られたら、相当変な人に見えるからさ。
「分かったよ。明日だな。約束だぞ!!」
これ以上聞いても教えてくれそうにないし、あまり美久を追い詰めたくはない。どちらにせよ、明日には分かるんだ。
「後ね。もうすぐ元の身体に戻るから、気をつけてね」
そっか。もう、元の身体に戻るのか。慌ただしかったから、美久の身体を眺める余裕さえなかったよ。こう見ると美久の身体は細い割には出るところがきちんと出てるんだよな。
「えと……、あまりジロジロと見て欲しくないかな」
「あっ、ごめんごめん」
美久は気づいてないふりをしてても、ちゃんと俺の視線を見てるんだな。やばいやばい、結構、入院していた時も、胸とかガン見していた気がする。
「どうたの?」
「いや、な、なんでもない……」
「へんなお義兄ちゃん!」
やはり、気がついてないんだろうか。能天気で気にしてないふりをしてくれてるのか、本当に気がついてないのか。
そんなことを考えていると目の前の俺の姿をした美久が身体を抱えながら、中腰になった。
「もっ、元に戻るよ!!」
美久の声とともに俺の目はいつの間にか閉じられていた。数秒後、目を開けるとオレはいつの間にか中腰で病室の真ん中で屈んでいた。
「あれ、元に戻ったんか?」
「そうみたいね」
目の前には可愛い白いパジャマを着た美久がいた。やっぱり、こっちの方がいいなあ。美久はとても可愛いし……。
「どうしたんの? 何かいいことあった?」
「いや、何にもないよ」
いやあ、癒されるよなあ。今まで不安ばかりでこんな気持ちで美久と会うことがなかった。身体が治ったから、明日から学校も行くんだよな。きっと、大騒ぎになるぞ!!
ああ、やはり可愛いよな。義妹じゃなかったら告白してるぞ。あー、でも告白したら即断られて、この関係も終わりか……。それはとても悲しいことだ。
「どうしたの? 今度は凄く暗くなってる気がするんだけど!?」
「いや、何でもないよ」
不安そうに俺を見るの辞めてくれよ。別に大した内容じゃないからな。いや、そうか、明日の内容がやばいのだろうか。あの天使、いや悪魔か。美久に優しさを利用して、どんな条件をつけたのだか。きっと、とんでもないことを約束させたんだろうな。
「明日、大丈夫だよな」
「えと、その……たぶん……」
これは、絶対大丈夫じゃない奴だ!!
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