音楽やスポーツでいっぱしの名声と富を得られるのは、ほんの一握りどころか、一つまみ程度。大抵の人たちは、その世界に行くことなく、市井に埋もれて過ごしていく。彼女も、恩師も、そのような人たちのひとりである。彼女の胸に棘刺す経験は、良き青春時代の夢へと消化できたのか否か。それは、読者各位の判断にゆだねられている。ただ一つ、言えることがある。失っていることが分かったその時、まぶしかった時も、親や恩師のありがたさも、そこで初めて、心底わかるものである。