第33話 ダンスショー下

 立ち尽くすわけにはいかなかった。


(私のせいだ……)


 瑞穂は何度も、ツキガミを失った夕べのことを思い出していた。

 気を抜けばふらりと現れる過失のせいで仲間に責められる悪夢をじつは何度もみている。

 その度に必死に使命を思い出し、ようやくここまで来た。


 瑞穂はその行動をもって証明しようとしていた。

 人が、交わらば変われる生き物だということを。


 信じる願いがこの捧げる思いが、ツキガミ様に届きますように、と。

 そうして瑞穂が舞い踊るごとに、たしかな変化が起きていた。


 かげっていた空に輝きが戻りつつある。

 惑星はおろか、星すら昇っていなかったが曇天が割れ、闇の奥で淡い光て世界を照らす、月の存在。


 欠けていたそれが満ちた時、世界は一瞬、幻想的に染まった。


 淡い色彩、やわらかに降り注ぐ光の中で、瑞穂は最後の形をとる。


 ついに、――舞は完成した。


 同時に信号機の横にあった祭壇がカタカタと震えだす。

 カメラを向ける車内の報道カメラマン。振動が大きくなるにつれて月の光を吸収し、輝きは増していく。だれもがまともに目を開けていられない。圧倒的な光に染まった中で、瑞穂は舞も忘れてその光景に見入っていた。


 神棚のポーチが自然と開く。風に揺れるように中から飛び出した紙の人形が変化して、人とよく似た形をとる。


 とびきりの美丈夫。アニメ顔負けの神様が瑞穂に向けて笑顔を浮かべる。


「ただいま、じゃな。よくやった」


 久しぶりに耳にした声に勢いよく手を伸ばす。お巡りさんが駆け出す瑞穂を見送った。宙から地面へと足をおろしたツキガミに飛びつかん勢いで抱擁をする瑞穂。自分の巫女服をしわだらけにしてぎゅっとツキガミを捕まえている。

 ツキガミとの再会を誰より喜ぶ瑞穂を安堵しながらみつめる大路。その眼差しはいつになく穏やかなものだった。

 現場の異様な変化に取り押さえられていた若者たちはこれがなにかのイベントだったのかと勘違いし口を半開きにさせて青い顔をしている。目撃者たちはなんだかわからないが女子大生と異様に顔のいい不思議な存在との感動的な場面に、わけがわからないまま拍手を送っていた。

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