第32話 衝突と演説3
船越の先導に玲奈と撫子はひな鳥のようについていく。
玲奈は気合マシマシで袖をまくってつぶやいた。
「あーね、チョベリバな気分だったけど栄二郎おじさんのおかげでテンアゲ〜! さ、瑞穂のとこガンダで向かうよ!!」
「なんですって?」
残念ながら若者言葉は船越には理解できなかった。
助けられたことにしびれた希沙良が動く。もじもじとしていた彼女だが、目と目を合わせて船越に自分の言葉を伝えた。
「あの……助けてくださってありがとうございます! それから、今回のこととは関係なくても、あなたの信念に共感しました。これからも応援してますッ!!」
「嬉しいねえ。粉骨砕身の努力で働くのでこれからも応援よろしく!」
船越は最後にサイドチェストのポーズで締めた。沿道はいつの間にか拍手が湧いていた。
「でにここからどうやって瑞穂の舞台まで行く……?」
「わっはっは。任せ給え、ここは声援のちからを使うときだ」
「「「え?」」」
「ところであそこでさまよっている君たちぐらいの子も仲間かい? なんだか困っているような……」
「あえ!? 道代ちゃん!?」
キョロキョロと周囲を見回して人に訊ねるため話しかけようか悩んでいる姿は、間違いなく大学で見覚えのあるものだった。
「うえーん、ここどこですかー……、ってあれ? そちらは撫子、さん? それにええと」
撫子の姿に肩をはねさせた道代。大学で見た凶器を振り回す姿が尾を引いているようだ。
詳細までは知らない玲奈と希沙良は不思議そうな顔をして自己紹介をした。
「玲奈だよ。こっちは希沙良。同じ大学だよね? たしか瑞穂ともしゃべってたよね」
「そうでした! 蕪木さん、瑞穂の舞台まで行きたいのですが道中でおばあさんの道案内してたら迷ってしまって……」
「なんだかミイラ取りがミイラになったみたいな話だな!」とは船越。
どうやら道代も鬼気迫る表情で舞う瑞穂を見て感化されたらしい。居ても立っても居られないという様子で尋ねてくる。
「ええ……え、この男性は……はあ、市長選に出てる候補者……ほお。……ん? 政治家ーっ!!」
「声がでけぇ」と玲奈は手で耳栓をした。
「なんで? いえ、今はいいです、それより、」
「おやあ。見覚えるのある女性陣じゃあないか! フッ、窮屈な車内は飽きてしまったからね、ここらでお茶でもしないかい?」
「難波ぁ……あんたどこにでも湧くわね。じつは手品師の家系?」
「ノンノン。僕は恋泥棒、さ!」
「あれ? 難波くんってこんなふざけたキャラだった? もっと小心というか常識人って印象だったけど。あとたぶん、彼の家ってお寺じゃなかったかしら」
祖母から聞いていた情報を披露する彼女に話しかける難波。
「これはこれは希沙良さんじゃないか。君にはつれなく断られているからね、ここは親睦を深めるた、――え、なにこの筋肉おじさんは!? イテテテテ」
なぜか難波は船越に軽く抑え込まれているている。
「あ、彼も一応学友なんで……手加減してやってください」
「なんとッ不審者ではないのか!?」
難波は一刻も早く助けてほしくてちらっと年上の女性に視線を送った。ウグイス嬢はハンカチを鼻に当てて目をそらした。
「ごめんなさい。元カレと同じ鼻につく匂いがしたもので、……つい」
「ひどい!?」
「あ、いつもの難波くんだ」
ウグイス嬢いわく暗にナンパしていたところがロクデナシそっくりだった、と意訳する。
難波の株は落ちたが、彼の情けない叫びにより希沙良の生態認証は合致したことで、無事解放されるのだった。
道中で迷子になっていた道代と補給部隊との合流で立ち止まっていた難波とを拾ってメンツは選挙カーに乗り込む。
「はっは、大所帯だな!」
「すみません……」と殊勝に謝ったのは希沙良だった。
「かまわないですよ。我々には後続車両もいますし。荷物はそっちに移しましたから」
「あ、マイク……!」
目ざとく機材に反応した道代。隣のウグイス嬢が声をかけた。
「じゃあやってみる?」
「へ」
乗り込んだ車内で、道代は真っ赤な顔で叫んだ。緊張でピリつく喉で、気持ちを乗せて。
「すみませーん! 通しとください! お願いします。今まさに、私の友達があの舞台で踊っているとー! あたしん、 応援しにい、いかんとです! ほんとに、おねがいだ、協力をば、お願いしま……ひぇ?」
「返してもらうわね」
しかし途中でマイクは取り上げられてしまう。
「及第点ね。一生懸命気持ちを乗せるのは上手だけれどそれだけじゃ相手の心には響かないわ」
見本をみせてあげるというと、今回船越が提案した作戦を実行に移すウグイス嬢。
深呼吸のあと彼女が一鳴きする。
「市民のみなさま、船越ともどもよろしくお願いいたします。 この街の将来を担う若者のために、市民の皆さま、どうか道を譲っていただけないでしょうか? 大切なお車を脇に退けていただきたくお願いに回っております。街の宝たる、次世代の希望を乗せたこの車、どうかわれわれを助けていただけませんでしょうか。今マイクを握った方のおともだちが懸命に事をなしています。この街を愛する地元住民ならびに観光でおこしになった方々も一緒に、どうか、どうか。彼女らの願いを繋がせてください」
異業種の先輩の声に目から鱗が落ちる道代。ポケットからメモ帳を取り出し慌ただしくボールペンでメモを取っていく。がっかりしていた道代だが今は目を輝かせている。するとウグイス嬢は道代の肩を叩いた。
「一緒にがんばりましょう」
「はい!」
ほほえんだウグイス嬢に道代もやる気満々の笑顔で返した。
協力するように指示を出して車を道の端へと寄ってもらう。少しづつ開いていく道。感動する面々は波が割れるように一本道が出現したのに色めき立った。
そうして結集した交差点にて、瑞穂の大舞台はいよいよ大詰めを迎える。
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