第28話 応援団の声援2
「楽器のメロディー……これあれだ、雅楽っすか? でもどこから……、あ」
「なんであんたもここにいるのよ」
買い物袋を下げた女子と遭遇したのは丸メガネにボブカットが目印の
「委員長じゃないっすか! めっずらしぃ〜〜」
委員長は今日も今日とてかちっとした雰囲気でポニーテールにシックなワンピースを着こなしていた。ヒール姿の彼女が珍しくて、織田は既知の間柄の彼女を先のように茶化した。
「ちっ。あんたまでいるって知ってたら絶対来なかったわよ、このド陰キャ」
「手厳しや。……ところでほんとになにがあったんですか?」
「あららびっくり。オタククンなら知ってて当然かと思ったわ」
意外というように表情を崩した委員長。
「まさかアストラルロボZZZの再販!?」
「ばかねぇ。私がそんなことに興味もつと思う?」とため息をつく彼女。
「微塵も浮かばねぇ……、あの委員長が食玩をコレクターするとか」
「普通のフィギュアですらなかったのね……はあ。まあいいわ。ほらこれよ、道路を占拠して騒いでる瑞穂さんたちを注意しに来たの」
「え……? んなバカなぁ、委員長も水臭いですね!! ツンデレてないで素直に吐きましょうよ。助っ人メンバーになりに来ました〜〜って」
「やっぱ知ってんじゃない」と委員長が目を細めてもオタクロはどこ吹く風と受け流してスマホの画面を切り替えた。
「オタクの耳の速さは自慢ですからぁ。にっしっし」
「てなわけでおいらも加勢にいくっすよ」と説明するオタクロ。
委員長は耳を疑った。
「はあ? あんた音楽の授業メタメタだったじゃない。味方どころか足を引っ張るわよ」
「それはジブン音痴なもんで……」
「なら何ができるのよ……」
恥じらっている相手に頭を抱えた委員長だが、オタクロが画面にキーボードを表示させたのをみてぽかんとする。
「通ってたピアノ教室もメッタメタだったじゃない」
「ごはっ! これが黒歴史全部知ってる幼馴染が俺にだけ冷たいんだけど、ってやつか〜」
「ラノベの長尺タイトルみたいに気持ち悪いこといわないでよ」
明らかに引いてる委員長だったが、既出の通り、腐れ縁の相手がなにをしでかそうとしているのか興味は出てきた。画面を覗き込むと、ピアノ画面はすぐに消され、音ゲーのようなバーがでている画面になっていた。
「なにこれ? ゲームミュージックでも流すの? 著作権大丈夫?」
「平気っす。オリジナルなんで」
「……へ?」
するとスマホにつなげたイヤホンを揺らしながら、超高速で画面をタップしていくオタクロ。委員長が引くぐらいの指づかいで音を調整し終えた彼。
今度はなにやら別のアプリを開き、突然のSNS告知を打つ。
それと同時に委員長の周囲で息を呑む若者がちらほら。会話が漏れ聞こえてくる。沈黙を破ったどよめき、口コミでざわめく人々。オタクロのSNSには続々と返信や引用の通知が入ってくる。凄まじい量に何事かと彼女が目を瞬いている、と。
オタクロはものの数分で完成させた新曲を――、
「いざ、ポチっとな!!」
ネット上の有名な動画サービス、音源データをそこにアップロードしていた。
街頭のいくつものスマホからその電子音が生配信用の設定で流れ始めた。
再生される音楽は思わぬ場所でも響いていた。
「はっ、この味わい深い音色、もしやコウカクPの……?」
「馬鹿な! Pは休眠中ですぞ!? 新曲の発表なんてコクッターでも出していないの……に? なんだこれ!?」
と、たまたま隣に言わせた初対面のサラリーマンたちが独特の言葉遣いで熱く意見交換している、と。
「Pの……粋なサプライズ」と喫茶店のマスターが涙ぐみながらお代は結構ですとサービスのカフェラテをプレゼントしてきた。ふたりは先人の匂いを感じ取り、大人しくラテをすすって、音色とブレンドに酔いしれる。
「Pバレ覚悟、きもてぃいいい」
「へぇ、あんた界隈じゃ有名人だったのね」
「まあね。ところで、おれはやったすよ? だから委員長も素直になるのでござーる」
「ふざけんなてめぇ。卸すぞ」
「やだあ〜〜〜〜、じつは危ない委員長様は僕にだけ過保護なお姉さんって、女性向けまで網羅とはさすが! おみそれいたしました!!」とオタクロは勢いよく頭を下げた。
そんなふたりのやりとりに視線が集まる。よりにもよってオタクロ=コウカクPという図式で注目が集まっている時に。
やらかした、いやわざとやっていることを見抜いた委員長は的確につっこんだ。
「おいやめろ。つーか今のだとノーマルなのじゃなくて年上の女性と年下の男の子でおねショタっぽいじゃーか! 溺愛は溺愛でも方向性が違うじゃないのよ!!」
「は……、しまった! ところでなんでそんなに詳しいので? そこんとこ詳しく」
「そりゃ……わ、わたしがそーゆーの見ちゃ悪いかよ、ん」
恥じらう乙女のような顔をする幼馴染みを前に、スッッッと拝みだしたオタクロ。
「…………新たな扉を開きそうっス」
ある意味大学で有名な変人が話題をかっさらっていったのを口惜しくみつめる赤森ら。とくに渚などは純粋な演奏技術がどうのこうのというより派手に目立ちたいだけなので、悔しくてたまらない様子であった。
色めく周囲、沸き立つ空気。
「あいつらぁ、わしらより目立っとるやないかい! 負けてられん、もっといくでぇ!!」
大学の仲間たちが好き放題やらかしているのを真澄は若干いたたまれないような、世間の人々に申し訳ないような思いでみていた。
瑞穂の舞をみていた真澄は斜め方向からやってくる集団とすれ違った。
「ん? あの女子グループ……」
見覚えのある彼女らであることに気づいて振り向くが、その姿は雑踏に消えていた。
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