第24話 光の筋道

 刺すような熱を感じるなか瑞穂と大路は着々と準備を進めている。


 消えた神を取り戻す方法を探っていた。公民館でみつけた古い文献をたよりにツキガミ直伝の御業が儀式の鍵となることを知った。ふたりは掴み取ったチャンスを活かしてツキガミ復活の可能性に賭けることにしたのだった。


 瑞穂は通販サイトで購入した段ボールを机の上に置いた。ほかにも、簡単な軽食や飲み物を用意して。舞台の用意が整うまで、長丁場になることが予想されたのだ。


 一方その頃。大路はといえば傘を差して雨の中、ひとり印の情報を集めていた。今夜瑞穂が舞う舞台の確認のためだ。

 ところが懸命にあちこちを探すも、夕刻になっても目印は出現しない。スマホを片手に合間合間で調べてもめぼしい情報はなかった。さらにこの天気。重たい雨雲がたちこめるせいで野外は蒸し暑く、視界の悪さもあった。なにより大路が不安視しているのは――【天よりおろした梯子】という一説が再現できないのではないかという懸念であった。

 それでも大路は時間ギリギリまで粘ることを選んだ。どんな機会がいつ巡ってくるかはわからない、その時になって後悔することだけはないように、と。


 なかなか寮に戻らない大路を待つ間、瑞穂は学習机に立てかけてあったプラスチック製のカレンダーをみつめた。それから名残惜しそうにみつめていた最後の札をリュックにしまう。このリュックは大路に預けるつもりで、中にはボールペン、ノート、それから公民館で借りた一冊の本がしまいこまれていた。さらにもう一つ、ツキガミが形代と呼んでいた紙の人形もあるが、それはさらに厳重にアクリルキーホルダーを保存するポーチの中にあった。

 スマホが鳴っている。手に取るといつの間にか仕掛けられていたリマインダーが作動していた。

 奇しくも、今日、その日は。


――いよいよじゃな、瑞穂。ふぁいとしてまいれ。

――丸月罰日、開催、神月祭り。


 瑞穂はアラームを切った。

 最終再確認をしながら、神経を尖らせる。



 女子寮に戻ってきた大路が玄関で靴を脱いで入ってきた。瑞穂は彼を出迎え、タオルを渡した。

 大路が髪を拭いている間、ケトルで沸かしたお湯でコーヒーをいれる。

 落ち着いた大路と瑞穂の部屋でふたりは情報を共有するがめぼしい成果はあげられなかった。


 無念そうにうつむく大路を励ました。瑞穂は彼のためにも目を皿のようにしてスマホ上の異変をくまなくチェックする。地域を絞って目新しい情報はないかと、警察の情報や天気予報、はては素人の投稿する写真などを次々にスクロールしていく。


 大路はよほど疲れたのか、タオルを頭からかけて休息している。もたれかかった座椅子からはかすかな寝息が聞こえていた。

 瑞穂は公民館で本をみつけたときの会話を思い出す。


「ツキガミ様の復活に、舞台……。ねぇ、書かれてるこの場所」

「たしかに気になるな。水守市に【月夜野】という地名の場所はない。一体どこだ?」


 意味はひとまず置いておくとして必要なものは揃えておこうと用意を進めてきた。

 けれど肝心の地名は地図帳にも地域密着型の情報ジャーナルにも載っていなかった。

 時間の進みが虚しい。

 なにか手がかりは、と瑞穂が焦りながら画面を読み流していると。 


「あった……!! 大路くんこれ!」

「っほんとか!?」とタオルを退けて大路が飛び起きる。

 瑞穂は彼の横に並び、スマホを机のうえに置いた。

 ふたりの間で、画面は自動で切り替わってしまう。だが端末には次々に投稿が掲載されていく。更新頻度が上がるごとに情報は増えていった。


:これって光の柱……!?

:素敵! 水中の光芒こうぼうみたい!

:太陽の光のすじ……美しいな。

:天使の階段がここまではっきり見えるなんて珍しいですねえ。


 画面には曇天の隙間から差し込む光の写真。太陽も月光もない灰色の空につぶやきが寄せられていく。続々と一般の人のビデオや画像がアップロードされていくのを興奮したようにみつめている大路。瑞穂は大路と向き合ってハイタッチした。


「光が標を打つ場所、おそらくだがこの光が地面に落ちている場所があるはずだ」

「それはええと……あった! この写真! ……待って、これって!?」


 最新の写真に映っていたのは、車内から信号機が見える角度で多くの人々が映り込むものだった。

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