第23話 手がかり
市立図書館に入館した瑞穂に大路は言った。
「俺達には、いや、この街にはやはりあの神が必要だと思う」
「でもツキガミ様は……」
瑞穂の前髪がうつむいた顔に落ちる。
「ああ、確かに消えてしまったな。だが相手は神だ、それにあのケダモノに食われたにしろまだ平気だと言ってなかったか?」
「言ってた……」
「希望を捨てるにはまだ早いと俺は思う」
「……わかった。やれるだけやってみよう」
そしてふたりはこの街の神についての文献を探し、早速本を開いた。
手分けして棚を探していた大路。ちょうど階段で開けた反対の位置に、黙々と本を開いている瑞穂がみえた。一生懸命にページをめくっている彼女。大路はそっと本を閉じて、そんな瑞穂の様子に目元をゆるめた。
「俺も気合を入れ直さなければな」
望み薄とは分かっていたが、それでも手がかりの一つでもあればとすがっていた瑞穂。
しかしその期待は打ち砕かれた。
「なんの成果もないとはな。まさか人づてに聞くしかないのか?」とは大路。
頭を抱える瑞穂は熟考してから答えた。
「でもこの街の人だって神様の生態? まで知ってるかな。交流はあったみたいだけど」
「情報が制限されているのか、単にこの場所には伝わっていないのか」
あー……、と唸る瑞穂。
「ここって大きな場所だし、なんなら地元の神様のゆかりって感じではないよね。どっちかっていうともっと地域に根ざした場所の方が可能性はありそうかも? 古い歴史書みたいに」
「地域に……? まてよ」
こうしてふたりが中央駅からバスを使った次なる目的地は公民館であった。
「ここならあり得るかもしれん。でかしたな、蕪木さん!」
受け付けで目録を確認させてもらい活気づいた大路。その威勢のいい声に瑞穂も期待を高めた。
市立図書館と比較して在庫は圧倒的に少ない。収納冊数は減っているがその分中身に癖がある本を開く瑞穂。プリンターで印刷されたインクの文字とは違う手書きのそれを四苦八苦しながら読み進める。
神社の歴史をたよりに古文書を探していると、思わぬ月見大神宮の由来を知った。
「あの神社、昔は平地にあったんだ。小川まで逆流した津波の影響で山の上に移っていたなんて」
「めずらしくはないかな。むしろ神社がある位置は計算されたように災害とは縁がないはず」
「いやあ、てっきりあの神社も異世界みたいな不思議な場所にあるのかと思ってたの。……実在していたんだなって」
「そういうことか」
しみじみとつぶやいた瑞穂の横に移り、同じ本を読む大路。肩と肩が触れ合う距離に瑞穂は動揺した。
「月桂樹の祠……ふむ、けもの道の前にあったものだろうか? だいぶ苔むしていたが、あそこも神をまつる小規模な殿舎だったか。やはりあの神様と関係があるのだろうな」
「葉をちぎって儀式を始める、なんのことだろう。この本にはその先は書いてないみたい」
「儀式だって!?」
「分かるの、大路くん?」
「読んでいたものの中にたしか、……そうだこの本だ。
――降臨の儀式は天よりおろした梯子、光が標を打つ場所で、合図をせよ。さすれば舞台は整う。
「もともとはこの地に神を下ろすためのものだが、もしかしたら月夜如来神も復活できるかもしれない」
「ほんとに!?」
「問題なのは儀式の詳細まではどの本にも書かれていなかったことだ。なにが必要なのかさっぱり、まるでわからない」
お手上げ、というように大路がジェスチャーしている。
瑞穂はもう一度儀式について粘ってみようと棚へ移動しようとした。うっかり大路の足につまずいて勢いのまま棚に手をつく。数秒後、物音がして、棚からなにかが落ちた。
「大丈夫か!?」
「ごめん……、へいき」
「脅かさないでくれ」
ふーっと息を吐く大路。脱力した瑞穂が棚の上から落ちたものを拾おうとする大路が先に取った。大路が頁をめくっている間に瑞穂がゆるんだ靴紐を確認していると彼が肩を叩いてきた。大路は口角をにやりと上げて言う。
「天はどうやら俺達を見放してはいないようだぞ」
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