第3話 縁結びの神社
リーンリーンと風鈴のような音が響いた。
自宅までの道にある山の斜面が目につく。
ちいさな祠があった。
「こんなとこにあったっけ?」
首をかしげる瑞穂。
「せっかくだしお祈りでもしとこうか。お供え物は……あ、もらい物の最中、小さいやつでもいいかな」
けちくさいとどうか思われませんようにと瑞穂はリュックから最中を取り出す。両手をそろえて祠に供えた。
「明日も平和でありますように」
すると突然、鈴の音が止んだ。
気になって目を開けると視界には祠の横から伸びる道がある。
道をまたぐように連なる朱い鳥居まであった。
鳥居は山の上まで続いている。
瑞穂は目を瞬かせた。
呆ける瑞穂に、飛び込む音。
――み、……ず、ほ。
ぞくっと背筋が震えた。
(だれかに、呼ばれてる……?)
つばを飲み込んだ。
瑞穂は確認しようと一段一段階段を登った。
怖い、でも気になる。
胸元のシャツを握りしめて上へと向かう。
進むほどにオーロラのような不思議な幕をくぐっていく。
なんだかやわらかな気配を感じてきた。
そうして頂上付近で知らない社にたどり着いた。
瑞穂は目の前の立て札を読んだ。
「『月見大神宮』?」
「さよう。ここは神の宮」
「誰!?」
謎の声に瞬間的に振り返った。
離れた位置に巫女のような和服を着た何者か、がいた。
顔にかかっていた文字のかかれた布を解いたその姿に、瑞穂は仰天した。
すこぶる顔がイイ、と。
容姿は輝くような白髪をゆるく流している、赤を目元に差した不思議な金色の目。まるで猫のように瞳孔が細い。首元には数珠とも違う紐で編んだアクセサリーをかけている。左耳の特徴的な貝のような飾りも気になる。足首まである巫女服の足下は草履だった。
瑞穂にとってその顔は幼い頃に淡い気持ちを抱いていたアニメキャラにそっくりだった。
そのため顔面を中心に視線を外せなくなっていた。
「そなた月夜如来神といえばわかるか」
「かみ? え、神って……そんなまさか」
視線をいろんな意味で合わせられない瑞穂はうろたえた。
「なにをばかなと思うか。ふむ、ではこれでどうだ」
自分のペースを崩さぬまま、突如ヒュンっと目の前から謎の相手が消えた。動揺した瑞穂が周囲を見回すがいない。
トン。
肩を叩かれた。
たしかにさっきまで確認していた背後に、その人物は出現していた。
消えた場所を確かめる。近づけばなにやら紙の人形があった。かがんで拾おうとすると横から白髪の美形に先に拾われた。
「そなたには
「なんです、このお札?」
「それは護符である。危険が及んだときに使うといい。瑞穂が守護と叫べば発動する」
白髪の人物が渡した三枚の護符を受け取る。あせた色はしているがインクでしっかり刻印されていた。
瑞穂は雑にリュックのポケットにしまった。
「あれ? 私の名前……」
「知っている。天照常夜月見大御神は汝、蕪木瑞穂に頼みがある」
「なんて?」
瑞穂は早すぎて聞き取れなかった単語について質問した。
相手はそれが自分の真名であると説明した。
「すでに縮めてあんの!? じゃあ月の神様なら『ツキガミ様』でよくない?」
「そんな安易なノリで略すとは。ああっ、またわれの神力が欠けてしまった」
「ええ!? そんなことで!?」
瑞穂は悪気があったわけではないとはいえ驚いた。
「言霊はちからじゃ」
「ちから……」
「心根より来る願いの力。そなたの言霊をわれは信じたい。ゆえにわれはそなたに託す」
白髪の男性がなにかを唱える。
彼の指が光り輝くと瑞穂の胸に向かって光球が飛んで行く。
光は瑞穂の胸に吸い込まれていった。
「瑞穂、この町を救うのだ」
瑞穂が茶化す暇もなく男性は消えてしまった。
霧散した空気にぼーっとしていると、周囲の光景が一変していることに気づく。そこは上がってくる前の位置で、祠こそあれどその祠は苔むしており、横にあった鳥居も山頂へ伸びる道すらなかった。
「もしかしてあたし、狐に化かされた?」
神を名乗るなぞの男は消えてしまった。さらなる説明を求めようにも相手はいないしと言い訳をし、瑞穂は帰り道を歩く。その間もたびたび背後を振り返ったが彼がまた出てくることはなかった。
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