第3話 予想外の事態

 『2年A組』が異世界『オプティム』に召喚されてから、一カ月が経過した。


 大智達はアマルティア王国の将軍達により、スキルの制御・装備・武器の扱い、組手、魔物との戦闘などを学習する日々を送りながら着実にレベルを上げていき、推定600から700にまで到達していた。


 因みに、『高田修一』は近衛兵を殺害した罪により、城の地下牢に幽閉されている。


「それでは、これより村の集落に潜伏する新魔族軍の残党を殲滅します。勇者の皆様、くれぐれも慎重に行動してください!!」

「「「はい!!」」」


 そして現在、『2年A組』が訓練の成果を示すと同時に、全身武装のフィーネス姫が数十人の騎士隊を率いて『新魔族軍』の残党が潜む集落に奇襲を仕掛けるため、一週間かけて到着し、突入の準備を整えていた。


「俺たち、今から狂暴な魔族と戦うのか……」

「ああ、訓練場で何度か色々なモンスターを倒してきたけど、魔族の中には『獣魔族』・『刃魔族』・『眼魔族』という強い種族がいるとか」

「はあ、はあ……」

「ちょっと、息が荒いけど大丈夫?」


 全員が準備をしている中、戦闘に自信がない同級生が命がけの戦いをする恐怖に苛まれ、息が荒くなる者、武者震いをする者が続出する。


「あ~、早く魔族どもを倒したいぜ」

「俺、エイリアンを倒すゲームで首を刎ねる場面を再現したくてたまらね~よ」

「僕は自分のスキルで魔族を爆破して~」


 その裏腹に、戦闘に自信のある同級生は魔族を面白半分でどうやって倒すのか、残酷な会話をしていた。


すると、一人の同級生が気になることをフィーネス姫にあることを問いかけた。


「……フィーネスさん、一つ質問しても宜しいでしょうか?」

「どうかしましたか?」

「この村で僕達が倒すのは魔族だけで、村人は保護するだけですよね?」


 その質問を耳にした彼女は、衝撃の回答をする。


「……残念ですが、村人も魔族共々、討伐しなければなりません」

「「「……!?」」」


 騎士隊を除く大智と生徒一同が驚く。


「ちょっと待って下さい!! 村人も殺すなんて正気ですか!?」


 あまりにも非道な言動に、女子生徒の1人も驚きを隠さないまま問いかけたところ、フィーネス姫は悲しい表情を浮かべながら話し始める。


「はい、正気です。それが彼等を救う最善の策なのです。」


 フィーネス姫は、何故村人も殺すことが最善の策なのか説明してくれた。


「彼等は今、正気ではありません。新魔王軍の中には、相手に洗脳を施すスキルを持つ兵士がおり、その力により村人全員が『魔族を命懸けで守護する使命』と洗脳され、私達を敵と認識している状態です」

 

 大智はフィーネス姫の苦渋の決断を聞いて、洗脳スキル持ちの魔族を倒せば村人の洗脳が解けるのではと返答しようとしたが……


「厄介なことに、洗脳スキル持ちの魔族を倒しても、村人の洗脳状態を解除することが出来ないのです」


『!?』


 村人を救えないという余りにも残酷な事実に、彼等は絶句する。

 

「今回はとても辛い思いをする戦闘になる可能性があります。洗脳された村人は騎士隊が倒していきますので、勇者の皆様は魔族の殲滅を……お願い致します」


 フィーネス姫は血が滴る程、唇を噛みしめて断言する。2年A組全員は、彼女も村人を救えない辛さに嘆いているに違いないと感じた。


 (いや、落ち着け、俺にはこの『パーフェクト・グランド・マスター最強のスキル』がある。今までの特訓の成果を思い出せ!!)


 大智は自身の厳しい特訓を思い返す。最初はスキルレベルが低く、単体しか強化する事が出来なかったが、他生徒との模擬試合や訓練用のモンスターと戦闘でスキルレベルが着々と上がっていき、今では最高300人まで強化する事が可能になった。


 大智はもしかしたら村人の洗脳状態も解除することが出来るかもしれないと、相手からは浅はかな願いだと思われる希望を見出しながら、準備を整った同級生とともに騎士隊の後を追った。



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 魔族軍の残党と洗脳された村人との激しい戦闘で、のどかなだった集落は悲鳴と断末魔が鳴り響く程の地獄絵図と化した……………………………………………………筈だった。


「どうだ!! 見つかったか!?」

「いえ、隈なく捜索しましたが、誰も見つかりません!!」

「そんなバカな!!」


 数人の騎士隊はかなり焦っている様子だった。その理由は………………


 魔族どころか……村人全員が見つからないという予想外の事態が起きており、残された集落は小鳥の囀りとそよ風の音しか聞こえないほど静寂に包まれていた。


「おい!! そっちはどうだ!?」

「ダメだ!! 地下室にも誰も居ない!!」

「どうなってんだ!!」


 俺と同級生全員も一緒に捜索するも、ただただ時間が経過して、結局一人も見つけることが出来ずに陽が沈んでいった。



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「……一体どういう事ですか!? 此処に到着する一日前に諜報員からは「まだバレていない」と連絡されていた筈なのに!!」


 フィーネス姫は予期せぬ状況に、ギリっと歯噛みしながら凄い剣幕でいきり立っており、ブツブツの呟きながら考え込んだ。今まで温厚で優しかった性格の彼女の変貌ぶりを目撃した生徒一同は困惑する。


 大智は思い返す。一軒家の中には、食べかけの料理がテーブルに沢山並べられており、逃亡に必要な馬は数頭は手つかずのまま馬小屋に放置されていた。これはまるで、元の世界で有名な『神隠し』に似ているようだった。


 すると、フィーネス姫は何か良い方法を思いついたのか閉じた両目を見開き、騎士隊に向かって命令を告げる。


「騎士隊!! 集落にあるもの全てを焼き払って下さい!! そうすれば魔族も村人も一掃出来ます!!」

「!!??」


 フィーネス姫の口から、人道的じゃない命令を下したことに愕然とした大智達は必死に説得して止めようとする。


「ちょっと落ち着いて下さい、そんなことしたって意味は無いですよ!! 魔族も村人も危険を察知して此処を捨てていったに違いありません!!」


「そんな筈はありません!! 気付かれぬよう細心の注意を図って辿り着いたんですよ!! 何らかの魔導具かスキルで潜伏しているに違いありません!!」


 フィーネス姫は聞く耳を持たなくなる程興奮しており、大智はどうすればいいのかと苦悩していると………

















































































 「集落を焼き払おうとしても無駄ですよ。村人や瀕死の魔族全員は保護して、安全な場所に移動させました。よって此処には貴方達『騎士隊』と『転移者』としかいません」

「「「「「「!?」」」」」」


 突如、見知らぬ男性の声を耳にした一同が声のした石の塀に振り向くと、自分の世界と同じ服装を着込んだ、2年A組と同年代の青年が佇んでいた。

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異世界にクラス転移されたら、最初から勝ち組で最強でした 月海月 @tsukikurage7012

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