第2話 やっちゃった

 最強を名乗り出た同級生の名は『高田修一』。大智のクラスのリーダー的存在で、成績優秀かつスポーツ万能、女子生徒からは1日に10通以上に及ぶラブレターをもらうほどの人気者で、彼のステータスもなかなかのものだった。



攻撃力S+ 防御力B 知力E 体力S 俊敏さS 魔力C 運D




 攻撃力・体力・俊敏さの3つの数値がS以上であり、異世界の住人にとっては非常に稀な逸材であった。


 しかし、完璧な風格を持つ彼には、重大な欠点がある。幼いころから親の虐待に似た厳しい教育を受け、とにかく自分が一番だと気がすまない、短気で傲慢な性格となっている。彼は哀れな人間だ。


 きっと自分よりも高いスキルを授かり、周囲から称賛を受ける大智に不快感を覚え、その怒りをぶつけてくる様子であった。 


「フィーネス姫様、お聞きください!! この方が最強であるはずがありません!!

彼はいつも一人で静かに本を読んでいる無能な陰キャですよ!! そのような方が俺たちの中で最強だなんて滑稽ではありませんか!!」


 修一は、激しい罵倒と怒りに満ちた表情で「彼は決して最強ではない!!」と反論してきたが、フィーネス姫は大智を擁護しつつ、一つの事柄を説明してくれた。


「落ち着いて下さい、修一様! 確かにあなたも優れたスキルをお持ちですが、大智様のスキルには決して及びません」

「何言っているのですか!? アイツのその【パーフェクト・グランド・マスター】よりも、俺のスキル【クラッシング・オーラ】の方が強いに決まっているでしょ!!」



 修一が有するスキルの名は「滅殺の邪気クラッシング・オーラ」という、星5の「即死系超技能スーパーデッドリー・スキル」である。このスキルは、自身の部位や武器、魔法に即死のオーラを付与し、触れた相手を即死させるか、肉体と魂を完全に消滅させるという、最も強力で最も凶悪なスキルである。しかし、フィーネス姫は不安げな表情で修一に何かを伝えようとしていた。


「力の強弱は問題ではありません。修一様が有するスキルは、他の勇者たちのスキルよりもはるかに制御が難しく危険なものです。

訓練によって無事に制御できれば、考え方次第で驚異的な戦力となるかもしれませんが、制御不能になれば自らが力に飲み込まれて暴走し、無意識にすべてを消し去ってしまうかもしれません。

現在でも無意識にスキルを発動し、私たちを消してしまう可能性があるのですよ」


「「「「「「!!??」」」」」」


 その説明を耳にした同級生たちや貴族、近衛兵たちはざわめき始め、ほとんどの人々が修一に恐怖を抱き始める。


 彼女の言う通り、あんなに短気で傲慢な意識高い系の性格をしている彼だと、暴走をしてしまうかもしれないと大智は思った。


「…う、うるさい!! そんなこと関係あるか!! 一番強いのは、この俺だ!!」

「ッ!!」


 自身のスキルが制御できないと危険だと知っても、自分が一番だと主張する修一は右拳を振りかざし、八つ当たりでフィーネス姫に殴りかかってきた。


「危ない!!」


 隣にいた大智は危険を知らせようと声を上げたその刹那……


全てを統率する者パーフェクト・グランド・マスター、発動』

「ッ!!?」


 頭の中に響いてきた『』らしき声に気を取られて制止してしまったが、すぐに姫の視線に向き直ると、予想外の状況が起きていた。


「…………?」

「あ…あぐ…あが…」


 フィーネス姫は殴られたはずでしたが、何事もなかったかのように立ち上がっており、逆に姫を殴ったはずの修一が、殴った衝撃で右拳骨が砕け、激痛に苦しんで地面に倒れていました。


 一体何が起こったのか、大智は全く見当がつかなかった


「こ、これはまさか……大智様!! あなたは今、スキルを発動しましたか!?」

「えっ…確か、フィーネスさんを助けようとしたら、頭の中から変なアナウンスが聞こえたような?」

「……鑑定士!! 今すぐ私のステータスを表示して下さい!!」

「っ!! は、はい!!」


 フィーネス姫は大智の返答を聴くと、鑑定士に自分の現在のステータスを確認するために表示するよう指示し、自身のウィンドウを表示させた。


聖王国アルマティアの第一王女『フィーネス・アルマティア』

Lv37(最大Lv200)

攻撃力SS+↑ 防御力SS+↑ 知力SS+↑ 体力SS+↑ 俊敏さSS+↑ 魔力SS+↑

運SS+↑



「私のステータスの数値が全て最高ランクまで上昇されている……やはり彼は今まで召喚した異世界人の中でもかなりの逸材……」

「……フィーネスさん?」

「凄いです大智様!! あなたは女神様に選ばれた特別な存在です!!」


 フィーネス姫は、無意識にスキルを発動させた大智に感謝の気持ちを抱き、喜びのあまり興奮して両手を握りしめて歓喜した。


「えっ!! ちょっと大袈裟ではないですか?」


「何を仰っているのですか!! このスキルを制御するのに最低でも2、3週間かかる筈が、あなたは無意識にスキルを発動し、私のステータスをSS+まで上昇させています!! 例え素人でもここまで使いこなす事が出来ません!!」

「テメエか、テメエがこんな詰まらない小細工をしやがったのか!!」


 地面に伏していた修一が、砕けた右拳の痛みが徐々に和らぎ始め、殺意を帯びた目つきで大智を睨みつける。


「勇者修一様!! どうかお静まり下さ…」

「うるせぇ!! その汚い手をどかせ!!」

「ッ!! がはっ……」

「……えっ?」

「「「なっ!!」」」

「「「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」」


 近衛兵の一人が修一を抑えようとするが、彼の左腕に触れた瞬間、鎧ごと肉体が黒い塵と化して消滅した。

その場面を目撃した男子生徒は驚愕し、女子生徒たちは恐怖のあまり悲鳴を上げた。


 修一が自身の左拳を確認すると、その拳には紫色の禍々しいオーラが纏わっていた。


「……これが俺のスキル【】の効果か……そうか、そうだよ、此奴を消しちゃえば、俺が最強になれるじゃないか」

「えっ!?」


 修一は自身のスキルを目の当たりにしたことで、恐ろしい考えに至った表情でつぶやき、大智を睨み始めた。


「大智様!! 早くお逃げに……」

「わりーが、俺が最強になるための礎として死ね!! 広樹大智!!」

「っ!! うわあぁぁぁぁぁぁ!!」


 フィーネス姫が咄嗟に逃げるよう呼びかけるが、修一の『俊敏さS』の移動速度に大智は反応することができず、彼のクラッシングオーラが纏った拳を顔面に振り下ろされた。








…………だが







「……あ、あれ?」

「……はっ!? な、何で消えねぇんだ!?」


 顔を防がなければと咄嗟に手を出したところ、修一の拳を大智は難なく受け止めていた。


その光景にフィーネス姫は俺に問いかける。


「大智様!! 体は何とも無いのですか!?」

「へっ!? は、はい!! 何とも無いですが?」

「えっ!? は!? 嘘だろおい!?」


 予想のしなかった状況に姫と修一は困惑する。


(ありえない!! 防御力を無視して敵を倒すクラッシング・オーラを、ステータスを限界まで上昇させるパーフェクト・グランド・マスターでは防げない筈……)


 大智がどうやってクラッシング・オーラを防いでいるのかフィーネス姫は推測し、ひとつの答えにたどり着いた。


(……まさか!! 限界まで上昇させているのは防御力ではなく、『属性耐性』の一つ『』では!!)


 この世界の人類には、『属性耐性』の中には炎、水、氷、土、風、雷、光、闇、毒、麻痺、爆裂、即死、聖属性を防ぐスキルをそれぞれ最低Eで保有している。そして彼が持つ『属性耐性』の一つである『即死耐性』を無意識に限界まで高めていると、フィーネス姫は結論する。


「テメエ!! さっさとその手を離せ!!」

「お、おい止めろ!! 暴れるなよ!!」

 修一の自己中心的な行動に、大智はついに我慢の限界を超えた。


「こんの………いい加減にしやがれえぇぇぇぇぇぇ!!」

「ッ!? ぐっはあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ッ!?」


 修一の顔面をもう片方の空いた拳で殴りつけた瞬間、殴られた衝撃で彼は吹き飛ばされ、王室の壁に激突し、気を失った。

原因は、修一を殴ろうとした瞬間に【パーフェクト・グランド・マスター】が自動で攻撃力を限界まで上昇させた影響だろう。


「俺、やっちゃったかもしれないなあ……」


 大智は静寂の中で、ぼそりと呟いた。

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