第10話脱出

軟禁生活が始まってから二週間がたった。けれども、俺の軟禁が解かれる様子はなく、むしろ俺の部屋の前には兵士が増えているように見えた。そう、まるでもう俺が犯人であると断定されたかのように。

子供のころからずっと見てきた天井を見上げて俺は考える。そろそろ俺の命は危ないんじゃないかと。国王を殺すということはもちろん重罪であるので、たとえその国の王子であっても死刑は免れないだろう。とても運がよかったら、一生地下で監禁という可能性がなくはないが。弁明の機会は与えられるのだろうか。与えられたとして、俺が言えることは少ない。ただ、祭りの儀式のときはアリスやグレッグ、レゴリーとずっと一緒にいたんだ。その三人はもちろん、そんな風に証言してくれているだろうし、なぜ監禁されなくてはならないのかその理由がわからない。なんでおれがこんな目に合わないといけないんだ。王族に転生して好き勝手出来るんじゃないかと思っていたのに。軟禁されている俺にかかってくるストレスとプレッシャーは日に日にその重みを増していた。



そんな思いに駆られていた頃、俺の部屋にアリスがやってきた。いつものように窓からではなく正面のドアから。

「ライト王子、失礼します」

いつもの俺たちに見せるような感情豊かな表情とは違って、今日の彼女は鉄仮面をかぶったような表情をしていた。

「なんだ、アリス」

「あなたの処遇が決定いたしました」

「そうか」

なるべく死刑以外が望ましいが。その可能性は薄そうである。

「ところでライト王子、あなたは国王を殺していない。そうですね?」

「ああ、もちろんだ」

俺がそういうとアリスは一瞬ホッとした表情をしたように見えた。一瞬ためらい、彼女は自らの剣に手をかけた。

「では、あなたは……」

そう言いかけて彼女の剣が窓を割った。

「私と一緒に脱出しましょう」

今までの表情とは打って変わって彼女の表情はいつものように豊かに、そしてにやって笑っている。そんなことだろうと思ってたぜ。

「行くか。俺は着地できないから、そこらへんは頼んだぞ」

「任せなさい」

俺が彼女にお姫様抱っこされるような形で俺たちは窓から部屋を出た。体が浮遊感に包まれる。

「「行ってらっしゃいませ」」

ほら、俺のお付きのメイドと執事もそう言っている。

久しぶりの空は雲一つない気持ちいいほどの青空だった。太陽はかんかんに照っていて素晴らしいほどの日差しを僕らに捧げる。久しぶりの外の空気はとてもおいしいものだった。

「気持ちいい~」

地上四階部分から飛び出した俺たちだったが、それに関しては心配いらない。アリスの体はとても頑丈なのだ!!!しっかりと俺の体重も含めて彼女は着地すると、そのすぐ横にあった馬に飛び乗り王宮の門を飛び出した。準備がいいやつだ。

「このままかっ飛ばしていくわよ~」

「ふ~ふ~」

俺たちはハイな気分になっていた。だが、しょうがないだろう。だれであろうと二週間の監禁から解放されたらこんな気分になるに違いない。

王宮を少し出た頃になって、急に王宮が騒がしくなってきた。第七皇子がどっかにいったので大騒ぎしているのだろう。

「で、これからどこに行くんだ?」

「一つだけあてがあるの」



人でごった返している大通りで馬を捨て、アリスは真っすぐとある方向へと向かっていった。俺にも彼女が向かっているところがわかった。

「お久しぶりです。ライト様、アリス様」

エマ、とレーンに呼ばれていた女性が姿を現した。レーン商会の目の前だった。

「こちらです」

町の大通りをすいすいと進んでいくエマに連れられて、俺たち二人はある宿屋に連れていかれた。

「この宿屋は、レーン商会が全部を貸し切っているものです。あなたたちがここに泊まるということは私の他に知る者はありません」

案内された宿屋は一見なんでもない宿屋のようであったが、受付を通り宿泊する部屋に行くとお洒落な装飾がしてあり、なかなか庶民では泊まることが出来ないような格の宿だということがわかる。なんというかこういう例え方をすると王族マウントみたいになってしまうんだけれど王宮みたいだ。

「では、ごゆっくり」

俺たちをおそらくここら辺で一番大きなスイートルームに案内すると(この世界にスイートルームという概念があるのかはわからないが、スイートルーム的な部屋だ)エマは消えていった。

「なかなか面白い人ね、あの人」

「ああ、そうだな」

この国の商業を牛耳っているといっても過言ではないレーン商会の幹部とでもなればこれぐらい簡単なんだろう。ものすごく美人であるのに余計なことは言わないのもポイントが高い。

「さて、これからどうしましょうか」

二人してベッド(もちろん別々だ)に横たわりながら話を始めた。

「お前のお父さんは?」

「パパの立場のこと?大丈夫でしょ。この国の一番の英雄なんだから」

俺の父さんは……

「死刑か?」

「うん」

「そうかー」

17年間も多くの時間を一緒に過ごした間柄の中に余計な言葉はいらなかった。

ただただ、彼女と僕との間には家出をしたときのような高揚感とそしてこれからに対する不安が漂っていた。




















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面倒くさがり屋な俺が異世界の国の王族として転生できたので好きなことだけして生きていきます!! 絶対に怯ませたいトゲキッス @yukat0703

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