この気持ちは本当

雨良の頭上には自分が肩を叩いた相手を惚れさせる能力と誰かに命令する能力と全人類を対象に自分の能力カードの表示が指定した三つの能力に見えるようになる能力が書かれていた。

「お前、姑息なことするやつだな。見損なった。お前とは別れ…」

いや。こいつと別れたら痛い思いする筈だ。今の俺はこいつに惚れてしまっている。

「まさか、別れるって言おうとしたかい? 君は僕に惚れているのだよ。」

その時、インターホンの音が聞こえてきた。

「今は忙しいのだけどな。困ったものだよ。」

俺らは目が合った。悪寒がする。

「ここで待っててくれるかな? 反抗せずに待ってくれたら、恋人関係を継続してあげる。」

雨良は今いる部屋を颯爽と立ち去った。

どうにもできない、この気持ち。

窓の閉じた部屋に深いため息の音が充満する。

あいつ、本当に気持ち悪いな。

あ。

俺はベッドから立ち上がり、あいつの部屋をあとにした。

玄関までいけば、あいつがいる。

階段を前にすると、あいつの声が聞こえる。

俺の足音が聞こえるかもしれないが、関係ない。

俺は階段を素早く降りる。

「なにをしてるのかな? 僕の部屋から出たらいけないでしょう……」

雨良の姿をとらえると、俺は階段を飛び降りた。

「いった!」

今はドラゴンと人間のハーフだから、痛いのは当然なんだよな。少しだけ我慢してくれ。

雨良の背中に手を回して、服を掴む。

俺が廊下方向に引っ張ると、雨良の身体は廊下に投げ飛ばされた。

「え……」

掠れた浅原の声が耳に入る。

「俺、傷を回復する能力をもってるから大丈夫。雨良を悪いようにはしない。」

俺は浅原の方に身体を向けた。

風が強い中でも、肌は温かい。この家に住んでて、電気代が気にならないのかな。

「あ、あの!」

浅原は落ち着かない様子で立っている。

「どうした?」

正直、言いたいことはもうわかる。

「ごめんなさい。あの時、私は能力を使用されていたんです。」

物騒な世の中になっちまったからな。

「大丈夫。でも、こいつの傷を回復したらどうなる事やら……」

雨良はあまりにも痛いのか、酷く呻いている。

「どうかされたのですか? と言っても、少し予想がつく気がしますが……」

予想がついてるってことは、浅原は雨良に能力を使用されたな。

「多分、浅原が考えてることが正解だよ。あいつの部屋であいつに押し込まれちゃってさ。」

困ってるといわんばかりの顔から、水滴が垂れる。

「お前が泣く必要ないだろう。」

そう言っても、彼女は首を振る。彼女の心痛の原因になってしまったことは申し訳ない。

「いや、私も好きなんです。赤川さんのこと。」

おっと、それは喫驚した。

浅原が俺のことを好きだなんてな。

それを踏まえた上で考えても、浅原は可哀想だ。好きな人に刃物を向けることになっていたなんて。

「赤川さん。加田さんのところに行ってください。」

全く動じてないな、浅原。

なんでそんなことしなければいけないのか疑義の念を抱きつつも、未だに呻いている雨良のところに移動する。

「助けて、痛い……」

雨良、申し訳ない。解決策を考え終わるまで、少し待っててくれ。

「赤川さん、加田さんの隣に座ってください。」

指示通り、俺は雨良の隣にあぐらをかいた。

俺の視界に映る、彼女の目を瞑る姿はとても麗しい。風で靡いた髪は日頃の手入れを想像させる。

「赤川さんと加田さん。そして、浅原さん。この三人は純粋な人になり、最高のになることを約束下さい。」

すると、奈々の説得する能力の能力カードが半透明になった。

「荒葉。雨良の傷、治してやって。」

浅原の口調が変わった。

傷を回復する能力を、加田雨良を対象にして使用します。

その瞬間、雨良の呻き声が止んだ。

雨良の顔が俺に向く。

「……雨良、どうしたんだ。痛みを与えた俺に怒りとかないのか?」

雨良の息を吸う音が場を凍らせる。

「むしろ、僕が暴れないようにしてくれた二人には感謝しかないよ。」

説得の能力が効いたな。

「でも待て。この状況で話す内容ではないかもしれないが、いいか?」

二人は頷いてくれた。

「奈々は三人で親友関係になることを説得したけど、さっきの話から俺とは恋人関係の方が良かったのではないか? 俺との恋人関係を、自分で遠ざけていることになるぞ。」

浅原の笑いは、いかにも照れ隠しだった。

荒葉との恋人関係を始めることを望んでるなんて、言ってないよ。」

浅原、良い奴だな。

「僕、恩人に出会う能力を使ったな。」

俺らは爆笑した。

「ちなみに、僕らを楽しんでくれた君のことだよ。」

奈々も笑いすぎて、雨良の言葉が聞き取れなかった筈だ。

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恋愛関係なんて 嗚呼烏 @aakarasu9339

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