好きな人の家

「……お邪魔します。」

あまりにも家が広く、気後れしてしまった。落ち着いた雰囲気の家と言えばいいのだろうか。

「そこのスリッパに履き替えてね。」

綺麗に並べられたスリッパの一足を履き、階段を上る雨良についていく。

「家の中でも、迷子になっちまいそうだよ。」

二階にも長い廊下って豪邸だな。緊張が胸をしめつける中、あるひとつの部屋に案内された。

「ここが僕の部屋だよ。」

なんの戸惑いもなく、雨良は扉を開ける。

恋人と一緒なのに大胆な奴だ。

「……綺麗だな。」

部屋に入ると、雨良は窓とカーテンを閉める。

どうしたらいいか分からない。

困っていると、雨良がベッドの方向に手を向けた。

「座っててよ。」

それはいけないだろ。恋人のベッドだぞ。

いや、落ち着け。何も気にせず、接することができる相手じゃないか。

俺は落ち着かないまま、ベッドの端の方に座った。

雨良のネクタイを素早くほどく姿も、なぜか可愛く感じてしまう。

ネクタイをほどきおわると、雨良は俺を見つめてきた。

「ごめん。もう我慢できないや。」

おい、どういうことだよ。

一瞬の出来事に、狼狽えた。

雨良はいきなり、俺の手に指を絡めてきた。そして、手の甲を壁にあててきた。そして、身体がベッドに押し込まれた。

「どうした……?」

いつもとは違う狂気的な笑顔を見せられている。

「君がいけないんだよ。君が、僕を我慢の限界まで追い込むから……」

首元に吐息がかかる。

こいつには申し訳ないけど、悪寒が走る。

殺されるのではないか。

俺は即座に、ドラゴンと人間のハーフになる能力を使うことを心の中で唱えた。

「能力使われたら、敵わないね。」

絡まっていた指が解かれる。

「もしかして、僕の能力も変わって見えているかい? そう見えてても、おかしくはない筈だよ。今の君は完璧な人類とは言えないからね。」

能力が変わるってなんだ。

俺は、雨良の頭上に目を向ける。

「なにこれ。」

雨良はやっぱり、俺のこと。

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