天使と超能力者

瀬夏

天使と超能力者

 天羽あもう翔華は小さいころから世界と自分のずれを感じていた。


 寝ている間が顕著で、常に空を飛び、背中には白い羽根が生えていた。それはまるで物語のなかの天使そのものであり、頭のどこかから指令のようなものも聞こえてくる。それは、成長するとよりはっきり指令として聞こえるようになり、学校にいき、で人間として暮らしている方が私のなかでは違和感があり、寝ている間にに空の上から地上をパトロールしてみたり、人の命が消えそうになると、その命を迎え、抱えて天に還すことをしたりと、その『仕事』をする日が、高校になると、ほぼ毎日となっていった。


 高校3年生になると、今度は人の生命力や寿命が、オーラのように目視できるようになり、起きていても寝ていても、空を飛ぶ以外は感覚が変わらなくなった。

 大学に進学しひとり暮らしを始めた直後、脱色したわけでもないのに、髪がブロンドの緩いウェーブ、目の色は青に変容した。

「まるで整形じゃない…」

 これについては、私も本当に驚いた。でも、当たり前のように受け入れていた。私はやっぱり間違って人間に産まれた天使だったんだ。

 その変化から、寝ていなくても姿を消すことができ、空が飛べるようになった。


 大学の講義が休みの時、姿を消したまま外を飛翔し、魂の導きの仕事をするようになった。私の姿は死期が近い人間にしかみえず、魂が分離した後、天に導くのが、どうも、私の仕事らしい。

 しかも、下級天使故の地上勤務ということらしい。

 毎日この仕事をしていると、本当に、そのうち、私は人間として生を受けたことを忘れ、消えてしまうような気がする。


 ◆


 空に目を向けたら、天使のコスプレをした美しい女性が空を飛んでいた。見間違いかと思って凝視したら、こちらの視線があったのか、目が合った。

 俺は佐久間海樹、高校二年生。

 俺もまあ、光学迷彩のようなジャミングをかけたうえで空を飛ぼうとおもえば飛べる、超能力者だ。

 ついでに人の心も読もうと思えば読めるので、子どものころは本当にどこにも気をつかわなかったせいで、今をもってしても友達はほぼいない。


 超能力なんて便利なようで、実際はトリックみたいに思われがち、何かうっかり使ってしまうと気味悪がられてろくなことはない。

 親は俺が子どものころ、俺のことを某漫画に出てきた赤ちゃん超能力者になぞらえて大はしゃぎのうえ育児をしていたらしく、こんな力をもっているにもかかわらず、親との遺恨はまったくない。


 今は放課後、人目もない。

 天使でも追跡してみるか。


 ◆


 毎日、学校に行き、それ以外の時間は天使のお仕事をしているようになった。それを繰り返しているうちに、どんどん意識が透明になって行く気がした。

 学校で友達はできなかった。

 あたりまえだ、私に付き合う人間なんているわけがない。

 私は天使であり、魂の導き人であり、道を踏み外しそうな人にちょっとしたアドバイスをする。

 人のオーラは千者万別であり、その色の波におぼれながら、私の巡れる地域を巡回する。

 そういえば、この前、街を巡回中、目が合った気がする人がいたな。

 気のせいかもしれないけど、赤く、大きなオーラの持ち主だった。

 そう、こんなかんじで。


 気づけば100メートルさき、あの時の赤く大きなオーラの少年がこっちを見ていた。ブレザーにネクタイ、高校生かな。

 こっちを凝視している気がするから、偶然ではなさそうだ。


 と思った瞬間、どこからかか少年が私の横に現れ、腕を掴まれたたうえで、人気のないビルの屋上へ、転移していた。


 ふわっとした、意識の遠のくような世界で生きてきたため、突然現実に引き戻されたきがした。


 「お姉さん、天使なんですか?」

 私の腕をつかむ少年は、そう問いてくる。眼力が強い。


 「わからない」

 天使のお仕事はしてるけど。


「なぜ見えてるの、とか、瞬間移動したの?とかは聞いてこないのですか?」

「え、ああ、私にとってはこの透明に近い世界が当たり前だから、ちょっと変わった力を持た人がいたとして、君のその真っ赤で大きなオーラを見る限り、まあ、あるのかなって」

 その言葉に返事をするように僕のオーラって赤いんですか、とか言っている。


「逆に、僕にはお姉さんの生気が見えません。前に見かけたよりも、ずっと薄いです。このままいくと消えちゃいますよ」


 ああ、そうなんだやっぱり。


 まあ、それもありかなって。


 そう思った矢先に、掴まれた腕から、とんでもなく強いオーラが、私の腕を伝って注ぎこまれた。


 突然視界がクリアになり、頭の浮遊感もなくなり、本当に小さな子どもの時以来感じることができなかった、現実に生き、足が着く感じを感じることができた。視界に感じる私の髪はブロンドのままだけど。

 あわせて、この子の顔もはっきり見えるようになり、茶色がかったちょっと長めの髪、大きな黒目の美少年といっていいだろう、かわいい顔が目にはいってきた。

 まだ私に、「かわいい」という感情があったとは。


「ちゃんと今を生きてください。天使の真似事をするのは、それからでいいと思いますよ。」


 この子のオーラ、ちょっと怒ってる?

 地に足がついたけれども、何も私の能力自体には変化はないようだ。この子のキラキラで大きく、強いオーラは健在だ。


「お姉さんがこの世界から飛び立とうとするのであれば、地の果てまで追いかけて、また、この世界で生きるように、地に足をつけさせてあげます。」

 そんなことを言ってくるこの子が地に足って、自分は空を飛べるし、瞬間移動ができるのに?


 なんでそんなことをするの?と問うと、まっすぐな眼で、『一目ぼれです』と宣ってくる。俺の名前は佐久間海樹です。お姉さんの名前は?と聞かれたので天羽あもう翔華、と答えた。

 高校2年生というので、2つ下だね。というと顔を真っ赤にして照れていた。なぜ。


 まっすぐな眼でみられると、何故か素直に答えてしまった。

 

 ◆


 空を舞う、ふわふわとした、美しい人。

 捕まえた、まではいっていないが、捕捉はできた。


 普通の世界が普通じゃない僕にぴったりじゃないか。

 だいぶもっていかれていたけど、僕の力を分け与えたことで、ある程度取り戻すことができた。


 このまま放っておくとこの美しい人を天にもっていかれる、奪われてしまうきがする。

 その前に、僕に振り向かせて見せよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

天使と超能力者 瀬夏 @ezodate

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画