第5話 歴史は繰り返す
§1 変調
もともと生理不順だった。
少しくらい遅れても気にかけていなかったが、今回だけは別だった。おりものが増えた、下腹部や乳房が張った。体がだるく、授業中に眠くなることも
Sと会った。Sは外で会おうと言ったが、YはSの家に出かけた。
部屋に入ると、Sはいきなり抱きついてきた。
「だめだ。会うとYちゃんが欲しくなる。こんなことは、これっきりにしよう。最近、ボクは罪の意識にさいなまれてしかたなかったんだ」
「今日は、私も大事な話があるの」
それでも、SはYの体を離そうとしなかった。
なんとかSを遠ざけ、Sの目を見つめた。
「そんなことって…。やっぱり、ボクたちはいけないことをしたんだ」
Sはベッドに腰かけ、放心状態だった。
「もう二か月が過ぎたわ」
SはYのお腹に耳を当て、時々、すすり上げていた。
「今日、私、バイトあるから」
ベッドから立ち上がりかけたYに、Sが再び挑んできた。Sはこれまでのようには達しなかった。
§2 痕跡
「私、叔父さんの子を妊娠してしまったのです」
相談員は絶句したようだった。ややあって
「どういうことですか。詳しくお話を聴かせてください」
Yは叔父さんのモデルのアルバイトをしていること、同じ高校の男子生徒と付き合っていることなどを詳しく話した。
いつものように叔父さんのアトリエに行き、全裸になって椅子に腰かけた。叔父さんはしばらく筆を動かしていたが、
「これ、どうしたの!」
Yの肩を指さした。
先週、Sと交わった際、Sが激しくキスした跡だった。Yとしては、うかつだった。
叔父さんはYの右手首を持ち、首の後ろをつかんでバスルームへ連れて行った。鏡の前に座らせるなり
「これは、誰が付けたの?」
激しくYを揺さぶった。
§3 お清め
「そういうことだったのか。オレはとんだピエロだった」
Yを押し倒し、叔父さんは自らの着ているものを脱ぎ捨てた。
叔父さんはスポンジに液体せっけんを沁み込ませ、Yの体を洗い始めた。
「こんなに
一時間あまり、何かに取りつかれたように、Yを洗った。
「よし。これできれいになった」
叔父さんはYをバスタオルで包み、ベッドに抱いて行った。
「あなた、男子生徒とも付き合っていたんでしょ。なんで、叔父さんの子だって言えるの?」
最後の生理日から計算して、男子生徒の子ではあり得なかった。
「どうするつもりなの。叔母さんやお母さんに本当のことは言えないでしょ。
もっと激しく責められても覚悟はしていた。
「考えてみます。長い間、話を聴いてくださって、ありがとうございました」
相談員はまだ何か声高に言っていたが、Yは電話を切った。
§4 未遂
Sから手紙が届いた。
「この手紙を投函してから『サンライズ瀬戸』に乗ります。短いお付き合いでしたが、楽しかった。ありがとう。数回のセックスで君に妊娠させてしまった。ボクは生まれてくる子に対しても、君に対しても、責任が取れない。せめて今夜一晩だけでも、真剣に君たちのことを考えます。明朝、四国に着いています。坂出駅でサンライズを降り、鈍行で坪尻駅に向かいます。スイッチバック式の駅です。そこから深い山に入り、ボクは永遠の眠りにつきます。もう一度、ありがとう。そして、さよなら」
高校に行くと、いつもの淀んだ空気がたゆとうていた。
Sの姿はなかった。もし、目的を達していたなら、いくら目立たなかったSであっても、学校中が大騒ぎになるはずだった。また一人、中退者が出たという噂はあったが、誰も大して気に留めていなかった。
§5 カエルの子
コンビニのバイトから帰ると、アパートの部屋に明かりは
バッグからキーを出し、鍵穴に差し込もうとすると、ドアは空いていた。恐る恐る玄関に足を踏み入れると、何か柔らかいものが足に当たった。ママだった。今夜も酔っていた。
「痛いわねえ。どこ、うろついてたのよ」
ママはフラフラと立ち、水を飲みにキッチンに行った。
「ママ、高校、やめたいんだけど」
水にむせながら、ママが振り向いた。
「なんで。あと一年じゃないの。ママはあなたを高校出したくて、頑張ってきたのよ」
Yは事情を説明した。ただ、相手の詳細は話さなかった。
「全く…。カエルの子はカエルね。素性も明かせないような男の子供を身ごもって。あんたも苦労するわよ。顔かたちだけじゃなく、性格まで似たのね。もうイヤ」
ママは早々にふとんに入った。
(私は違う)
ママのいびきを聞きながら、Yは思った。
(ママは私に、パパの話を全然してくれなかったけど、私は子供にいっぱい父親の話をしてやるんだ。『あなたのパパは画家だったのよ』なんてのもいいかな。そうだ、カメラマンという
女子高生Y 山谷麻也 @mk1624
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