第30話 文化祭編 劇編

劇用の衣服を纏い、ステージのカーテンの横に俺は待機した。

体育館の方を覗き見ると、そこにはたくさんのお客さんが、並んでいた。


その中には、見覚えのある顔立ちが何人か居る。


「そのさ…さっきはごめんね?隆一くん…」

すると、カーテンの奥から、白いドレスを着込んだアズリアの姿があった。


悲しみの表情を浮かべるその少女は、怪我人を月明かりの元で、心配するように…目に輝きを微弱ながら纏っている。


「何が?」

俺は、なぜ謝られたのか、よく理解できずに、そう返答してしまった。


すると…

ジーーー!

『ご来館のお客様に___』

とアナウンスが鳴り始め、ステージの脇に備えていたアズサが、「二人とも!!位置について!」と言ってきた。


「うん!ありがと…そ、それじゃあ、頑張ろうね…隆一くん。」


俺は、先程の言葉を少し気に留めながらも、「あ、ああ。頑張ろうな」とアズリアに言った。


そして、俺は、劇の役割…勇敢な騎士として、ステージの上に立った。


この物語は、騎士(俺)と、アリアーラ姫(アズリア)の恋と冒険を描く物語。


そして、俺はその勇敢な騎士役なのだが…


「な、なんだこれ〜!?!?!?」

ステージの上で暴れる、鉄と、蒸汽で包んだドラゴンのような機械。


「き、騎士くん!!!」

そして、そのドラゴンのような機械に足を噛まれ、そして宙吊りにされ、振り回されている状態の俺を心配する、アリアーラ姫こと、アズリア。


「ひ、姫は大丈夫なので!!!!そこで見ててください!!!!必ずや!!!このドラゴンを倒し、そして!!!貴方の隣に居れるということを証明してみせましょう!!!!」


この物語は、実は騎士の片思いから始まる。

ストーリーとしては、追われの身の姫を騎士が守っていく内に、姫も騎士の良さに気づいていくという感じのストーリーなのである。


なので…もちろん!!魔物が出るシーンもあるわけなのだが…!!!!!


まさか…


〜客席〜


「え?あのドラゴン…何?」

奏音が、ドラゴンを指さす。


「ああ…あれ、前に体育祭でジェットパック使ってた芽依が作った奴らしいよ。緊急時に備えてミサイルも撃てるって言ってた。」


「あ、芽依ちゃんの奴なのね」


〜ステージ上〜


「さ、サンダークロスセイバー!!!!!」

え、えっと確か!!!この剣を思いっきり握ると…


俺は、握っていた剣の柄をもっと思いっきりに握ると、その剣は、雷のようなエフェクトを纏い始めた。


さすがは技術班の芽依だ!!!!


俺は、その剣をドラゴンの脳天(鍵穴のような場所)へと向かって突き刺した。


すると、ドラゴンは、「ギャアアア!!!!」と鳴き声を発し、ステージの上にその思い首を下ろした。


「い、痛た……ど、どうでしょうか!!!倒してみせ…」

そしてシナリオではここで…

「た、大変!!怪我が…!!」

と、言いながら、赤い液体で塗られた足にアズリアが手を添える。


「も、もう!!無理しないでください!!!騎士くん!!」


『その手は、少し当然ながらも、温かみを帯びていた。

当たり前。

でも、なんだろう…なぜかその手がとってもあったかく感じた。』


とナレーションが流れた。


そして、なんやかんやあって………


「いやー!!まさか、妹さんが魔王に操られ、そして、それを退治しちゃうなんて…貴方の騎士様はすごいですね!!」


アズリアは、「えぇ。」とお姫様のように頷くと、言葉を続けた。


「私の騎士くんはとてもお強い騎士くんです…」


「そうですなぁ〜」

そして、他の王族の人(唐沢雷)は頷き、そしてアズリアに辛辣な声で呟く。


「しかしながら…あの騎士は…少し夢見がち…というか…なんというか…非、現実的な事を考えますゆえ…危ない場面もありましたでしょう…どうでしょうか?あんな騎士よりも…この私めを__」


「ッ!!」

するとアズリアは直ぐ様、ステージの隅へと移動した。


ここからが、ラストスパートだ。


一度、照明が消え、俺は甲冑。アズリアは、ドレスを着て、見えないようなステージの真ん中へと着いた。


「お!姫!見てみろよ!!月が綺麗だぜ!」

俺は、ステージの真ん中の宙に浮いている、月を指差した。


「そ、そうね…本当…綺麗…」


「姫もここに座ってみな!直ぐにここがどれくらい最高か教えてやるよ!!」


「え…あ、うん…」


アズリア(姫)は、その場に作った椅子と画用紙の融合品。

岩に座ると、上ではなく、下の方を見る。


「貴方は…私で良いのかな…」


「え?」

俺は呟いてしまった。


だ、台本では「本当に…月が綺麗ね…」と言うはずだったのだ…


だが、観客を見る限り、すでにこのアズリアの言葉は響いてしまっている…


マイクに音声が拾われてしまっている…


そして、客の様子は、次はどうなるんだ!?と言う風に次を待ち望んでいると言う風だ。


「ん?な、何のこと…?」

できるだけキャラクターにそぐう様に、俺は質問する。


「え?ああ…!!そ、そうね…」


アズリアはハッとすると、言葉を続けた。


「そ…その…私…私は…りゅ…き、騎士くんの隣に居て良いのかなって…」


「ぼ、僕の…隣?」


「私の隣ってのは…本当に大変なもので…もし、誰かに攫われたりしたら、た、大変でしょう…?」


耳を澄ませると、舞台裏から

「だ、台本と違うよ!!!」「ど、どうなってるんだ!?」と声が聞こえる。

しかし、もう引き返せない…!!!!


「ま、まぁ…確かに大変…ではあるけど…」

例えば今とか…


「でも…」

でも、俺…いや、騎士ならこう言うだろう…


「でも、その大変さが…貴方へ仕える、僕としての使命…そして。姫への愛の表現だと思う。」


気まずそうな顔。

それは、まるで、あの「ごめん」と言っている時と同じ表情だった。


そうか…あの時…アズリアは俺のことを振り回し、それで俺に対して申し訳なかった…と言うことなのか…?


「たとえ、魔王に襲われても、ドラゴンに連れ去られようとしても…俺は喜んで貴女を助ける。それが、俺の生きがいだから!!!!!」

アズリアの壁は…俺と一緒に乗り越える…!!!!!


それが俺の生きがいだ!!!!


心の底から出てきた本音。

それはいつの間にか声になって出てきた。


「き、騎士くん…」


少し、アズリアは赤く顔が染まると、俺は、台本のことなんて忘れて

「そ、それじゃあ、帰ろう!」と立ち上がって手を伸ばした…


しかし、アズリアは台本のことを思い出したらしく、「騎士隆一くん…」

と手を座ったまま俺に伸ばすと、俺はエスコートして欲しいのかと思い、その手を握った。


しかし、その手は、あっという間に、アズリアに引かれ惹かれ俺は、アズリアのことを、その大きな体で、包んでいた。


「い、痛た…きゅ、急に引っ張らな…」


すると、次の瞬間、俺の唇に優しく、甘く、そして温かい感触が広がった。


そして、会場は女子生徒の「きゃー!!!!!」と言う声で包まれた。


騎士隆一くん…私のことを…一生守ってね…私の事を…一生愛してね…


「え…お、おう…」

俺は、不意に頷くと、照明が良い感じの所で落ちたのだった。


そして、流れるアナウンスの声。


暗闇に現れる梓。

「は、はいはい!!!さっさとツラかるよ!!!」


俺とアズリアはその言葉に引かれて舞台上を去った。


〜客席〜


「さてと…それじゃあ、舞台も見たし…今度はどこ行く?」

俺は奏音に呼びかけた。


奏音は、ステージの方を見たままだ。


「え、えっと…奏音?」


俺が次に声を掛け、そして奏音は「あ、え!?」と俺の声に気づいた。


「だ、大丈夫か?」

俺は確認をする。


「あー…お、面白かったね!!劇!」と返した。


俺は少し気にして掛かったが、「そうだな…」と返す。


「え?そ、そんなビミョーだったかなぁ…」


「い、いやそうじゃないんだが…」


「でもさ!最後のキスシーンはグッときたね!!!あの…その、さ?隆一くんとアズりんがキスするの!」


やはりカタコト…まさか…


俺は頭の中を遮った可能性を少し疑ったが、首を振って否定する。


「ど、どうしたの?」


「いや…なんでもない…」

俺はそう答えると、「とりあえず出るか」と呟き、奏音と一緒にその場を去った。


ちなみにその後、俺らはユミーさんのクラスの出しているお化け屋敷など、文化祭を楽しく回った。

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この町にはヒロインが2人もいるらしい。 最悪な贈り物 @Worstgift37564

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