第2話 金貨を手に入れた!

 驚いたことに『魔剣』は異常に重くて、女であるわたしには持てなかった。

 ていうか、こんなモノを持たせようなんて正気の沙汰ではない。


「君には重すぎたか」

「わたしはか弱いんです……。こんなの重戦士でなければ無理よ!」

「職業や種族などは関係ない。俺もこのように細腕だが、魔剣を振ることができる。ほら」


 魔王ノックスは涼しい顔で魔剣を片手で持ち上げて、ブンブン振り回していた。……さ、さすが魔王と謳われているだけある。

 そもそも、魔王がなんでこんなところで油を売っているのやら。


「不可能よ。わたしはただの人間だもの」

「言っただろう、関係ないって。だけど今は無理をしなくていい。きっとそのうち魔剣を扱えるようになれるからね」


 人間らしい優しい言葉で魔王ノックスは言った。

 魔王に励まされるだなんて……信じられない。


 魔王ノックスはかつて世界を支配しようとした。人間やエルフ、ドワーフ……精霊にすら危害を加え、被害を出した。

 でも今は別人のように性格が変り、わたしの目の前にいる。

 きっと闇勇者の存在が邪魔なのだろう。

 わたしと共に排除して、その後は再び世界を混沌に陥れるのかもしれない。

 だったら、やっぱり意味がない。


「もういいです。わたしは……なにもできないから」


 背を向けると、お父様が立ちふさがった。


「グロリア、逃げるんじゃない」

「逃げるもなにも、わたしは……」

「いいか。闇勇者は母さんを殺したんだ」

「え……」


「仇を取ってくれ……!」

「そんな。お母様は病死したって……」

「あれはウソだ。お前に辛い思いをさせたくなかったのだ。許してくれ」



 そうだったの……。

 闇の勇者がお母様を……。


 それを聞いて、わたしは胸が苦しくなった。

 ずっと幸せが続いていると思っていたけど、実はそうではなかった。

 こんなことって……。



「分かりました、お父様」

「おぉ、旅立ってくれるか……!」


「どこまでやれるか分からないですが、がんばってみます」

「それでこそ我が娘だ」


「だから、わたしを売ったお金は全額くださいね」

「……え」



 アークビショップにも睨みつけ、わたしは金銭を要求した。

 当然だ。わたしは今一文無し。

 これから旅に出るのなら、お金が必要だ。

 防具や回復アイテムなどを買う資金が必要だし、寝泊まりだって宿屋とか使いたい。少しくらい贅沢をして旅をしたい!


 リスクは減らしたいし、できれば野宿は避けたい――!


 そんな切実な思いがあった。


 結果、お父様から10サピエンティア金貨を奪う――いえ、いただくことに成功した。最初から所持金が多いのはありがたい。



「では、行って参ります」

「う、うむ」



 お金を奪われてテンションを酷く下げるお父様。

 確かに、サピエンティア金貨が10枚もあれば、しばらくは遊んで暮らせる。お父様のことだから、ギャンブルにでも使うつもりだったのだろう。

 そうはさせない。



 別れを告げ、わたしはついに魔王ノックスと共に家を離れた。



 ◆



「よかったのか、グロリア」


 ノックスが少し心配そうに視線を向けてくる。そんな風にわたしの感情を読み取ってくるなんて、本当に人間っぽい。


「心配なさらず。決めた以上はやり遂げます」

「ずいぶんと表情が変わったな」


「お母様の仇ですからね。許せない」

「……そうか」


 短く納得するノックスは、遠くを見据えた。

 彼自身も世界を支配しようとした魔王。正直、こんなヤツと手を組むだなんてありえない。でも、わたしにはなんの力もない。

 戦う方法も知らない。

 だから今は魔王を頼るしかない。


「お金はあります。まずアイテムを購入しましょう」

「そうだな。インペリウム帝国にはたくさんの店がある。強力な魔導具も豊富だ」

「長旅になりそうですし、使えそうなものは全て買っておきます」

「いいだろう。俺もこの国には興味がある。それと闇勇者について詳しく話してもおきたい」


「分かりました。ではお店へ」



 まずは旅に必要なものを買いそろえる。

 それから国を出る……予定!

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魔剣使いの聖女は魔王と共に 桜井正宗 @hana6hana

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