魔剣使いの聖女は魔王と共に

桜井正宗

第1話 魔剣の聖女爆誕と夜の魔王

 予言によれば勇者は、魔王を打ち滅ぼすはずだった。だが、それは叶わぬ夢となった。

 勇者は突然“闇落ち”し、世界を支配しはじめたのだ。


 人々は闇勇者の絶対的な力に平伏し――恐れた。


 それは世界最大のインペリウム帝国も例外ではなかった。その国に住む辺境伯令嬢グロリア……わたしも。



「グロリア、お前を聖女として任命する。闇勇者を倒すのだ」



 突然、お父様がアークビショップを連れて、その人に言わせていた。……な、なんでわたしが!?



「意味が分かりません!」

「魔王ノックスと共に闇勇者の城へ向かい、討伐するのだ。そして、世界を救うのだ」


「ま、待って下さい。わたしはカヨワイ女の子なんですよ。まだ十七歳ですよ!」

「残念ですが、あなたはもう聖女となりました。先ほど簡易的な儀式を終えましたので」

「いつの間に……?」



 そんな儀式をやった素振りもなかったけど!

 なんかウソっぽいんですけど!

 けれど、わたしの言葉を聞いてくれる素振りは一切なかった。お父様も知らぬ存ぜぬ。どういうことなの……。



「さあ、グロリア。外へ行きなさい。門の前に魔王ノックスが待っていますよ」

「あ、あの……アークビショップ様。わたし、戦うとか出来ません! 闇勇者と戦うとか……無理です。死んじゃいます……。ていうか、お父様もなにか言ってください!」


「…………」



 ダメだ。お父様は完全に無視をしている。



「お父様。なぜです! なぜなにも言ってくれないのですか!」

「……許せ、グロリア。お前に全てを背負わせてすまないと思っている。だが、世界を救うためだ! お前をカエレスエィス教会に10サピエンティア金貨で売った!」


「う、売らないでください!!」



 なんてことなの。わたしってば……教会に売られてしまったの。だから聖女に? 納得できない!


 なんでわたしなの。

 わたしには何の取り柄もないし、能力もない。平凡な少女。

 なのにどうして……。


 泣きそうになっているとアークビショップがわたしの腕を掴んだ。



「さあ、参りますよ。グロリア」

「え! えええ~~~!!」



 ずるずると引きずられて外へ。

 抵抗しようにもなぜか体が動かなかった。

 こ、これって『神星魔法アストラ』……!


 驚いている間にも門外へ連れて来られた。


 そこには人影が。

 もしかして、あの男性が魔王ノックス……?


 こちらに気づき、顔を見せる魔王らしき人。


 彼は……。


 彼は驚くほどにイケメンだった。



「……君か」



 透き通るような、けれど優しいような声でわたしに視線を送る魔王らしき人。いや、確実に魔王ノックス。


 黒い髪をポニーテールでまとめあげ、飄々とした表情でこちらを観察してくる。鋭い目つきは魔王そのもの。赤い瞳がルビーのようだった。

 頬の傷は勇者につけられたものだろうか。

 いやしかしそれよりも。

 こんな高身長で細身の人間らしい男性だとは思わなかった。



「魔王ノックス……なのね」

「聖女グロリア。まだ無名の聖女のようだが……なるほど、力は眠ったままというわけか。どうやら“剣”が得意そうな顔をしているな」



 さわやかに笑うノックスは、勝手にそう認定してきた。……待って。わたしは剣なんて振るったこともない。

 戦ったことすらないのに、なんなの。


「わたしは、魔王であるあなたとなんか組みません。家に帰る!」

「それは止めておいた方がいい」

「なぜ?」


「アークビショップの『神星魔法アストラ』は種族に関係なく、非常に強力。それは呪いをも凌駕する効果を発揮する。今家に踏み入れば、間違いなく爆発四散するだろうよ」


「なんですって!?」



 くるりと振り向くとお父様もアークビショップも『ウンウン』とうなずいていた。……そこ、うなずくな!



「さあ、グロリア。この『魔剣ヘルシャフト』を使い、剣技を極めろ。そして、闇の勇者をぶっ倒せ」


「ま、魔剣……。魔族だからそうなるのね。なんか禍々しい剣ね」


「最強の魔剣だ。少し扱いが難しいが、聖女のお前ならきっと大丈夫だ」



 なにを根拠に。

 こんな物騒なものを持ちたくもない。

 剣だなんて手にしたこと一度だってないのに……。

 でも、ちょっとだけ興味が沸いた。


 不思議なことに魔剣を目の前にした瞬間、わたしは自然と手を伸ばしていた。


 魔剣ヘルシャフトを掴むと。



「……こ、これは」



 重くて持ち上がらないッ!

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