第13章 〜Invito〜
043 『伝説の竜姫、パーティーに招待される(1)
ガラテーアにヤンアルの記事が出回った当初、ガレリオ家の
そんなある日の午後、ベルはガスパールを通してバリアントの書斎に呼ばれた。
「————ガスパール。こんな改まって父上に呼ばれるなんて何かあったのか? 最近は何もヘマはしていないぞ」
「……直接旦那様からお聞きになられた方がよろしいかと……」
「……?」
書斎に向かう途中で話しかけたが、ガスパールは何とも歯切れが悪く、ベルは首をひねった。
そうしている間に書斎に到着し、ベルは扉をノックした。
「————ベルティカか、入りなさい」
「失礼いたします」
部屋の中では大きな机にバリアントが指を組んで座っていた。背後の窓からは陽光が射し込んでおり、それが逆光となって父の表情を覆い隠していた。
「……掛けなさい」
「はい」
ベルは言われるがままソファーに腰を下ろした。しかし、バリアントは何かを思案しているようでいつまで経っても口を開こうとしない。痺れを切らせたベルが先手を打った。
「父上、私に何かご用でしょうか?」
「……うむ。最近、ヤンアルの様子はどうだ?」
「————ヤンアル、ですか……?」
質問の答えとは違う切り出しにベルは多少意表を突かれたが、すぐに答えてみせる。
「ヤンアルでしたら、例の新聞の件でここ
「そうか」
「それにレベイアからの手紙を読んで、州都・アンヘリーノにも行ってみたいとも言っています」
「…………」
州都と聞いたバリアントの指がピクリと動いたが、ベルはそれには気づかず話を続ける。
「ちょうど私もアンヘリーノで調べ物をしたかったところです。父上、目立たないよう気を付けて行動しますので外出の許可をいただけないでしょうか?」
「…………」
しかし、バリアントは何も答えない。
「父上?」
「……これを読んでみなさい」
「手紙……?」
ベルはバリアントが取り出した封筒を受け取った。手触りから高級な羊皮紙で作られていることが分かり、身分ある者から送られたものと察せられた。裏返してみると、見覚えのない封蝋が押されていた。
「……この封蝋は……?」
「カステリーニ家の家紋だ」
「————カステリーニ……!」
カステリーニと聞いたベルの顔色が変わった。それは州都一帯を統治する名門領主の姓だったのである。
(……カステリーニ家からの手紙……。弱小領主のウチとは格が違い過ぎて交際などないはずだが……。父上のご様子からすると、ロクなことが書いてなさそうだな……)
何やら嫌な予感がしたベルだったが、意を決して中の便箋を取り出した。
「…………」
————書かれている内容としてはこうである。
手紙をここまで読んだベルは拍子抜けしたように顔を上げた。
「————なんだ、要するにパーティーへのお誘いですか! 父上もお人が悪いですね。いったいどんな無理難題が書かれているのかと用心して損をしましたよ」
「…………」
「しかし、おかしいですね。今まで名門のカステリーニ家からウチのような辺境領主にお誘いなんか来た試しがなかったのに……」
「……ベルティカ、もう少し続きを読んでみなさい」
「……? はい」
言われた通り文面の続きを眼で追うと、ある一文でベルの挙動が凍りついたように止まった。
そこには『————尚、慰労会には配偶者もしくはそれに準ずる
「……父上……! これは…………」
ベルが顔を向けるとバリアントは重苦しくうなずいた。
「————招待状という名の『召喚状』だ……!」
「…………‼︎」
バリアントの言葉に動揺したのかベルの手から手紙が滑り落ちる。
「……私がアレッサンドラと別居しているのは彼らも承知しているはずだ。ということは————」
「————向こうの狙いは、ヤンアル……!」
ベルの答えにバリアントはまたしても重くうなずいた。
「どういった魂胆があるのかは分からないが、この慰労会自体ヤンアルを呼び寄せることが目的とみていいだろう」
「くそ……、やはり全国紙にまで伝わったのはマズかった……! 父上。この招待、断るわけには……」
「……無理だな。よしんば断ったとしてもまた別の手を打って来るだろう」
「それでは、カレンを————」
ここまで発してベルは失言を悟った。
(————このダメ息子が! カレンもウチの大事な
ベルの心中を察するようにバリアントが口を開く。
「……身代わりを立てても無駄だろう。彼らもある程度ヤンアルのことを調べ上げているはずだ。もちろん我が家の家族構成から使用人に至るまで全てな」
「…………!」
「覚悟を決めるのだ、ベルティカ。逆に考えれば、この慰労会に乗り込むことで彼らの狙いを見定めることが出来る。無事に切り抜けられればヤンアルへの興味も失われるかも知れん」
バリアントの領主として
「————父上、ヤンアルには私から説明させてください」
「うむ、頼んだぞ」
「はい」
ベルは一礼をして書斎を後にした。
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