第14話

「ん〜!おいしい〜!!」


 俺の目の前にはクレープを頬張って満面の笑みを浮かべる真白。無論、俺のおごりだ。

 やはりスイーツというものは素晴らしい。数秒で人間の機嫌を直してくれるからな。あの女もこのぐらいわかりやすくなってくれれば助かるんだがな。


 無意識ながらに俺は真白と結那あいつを重ねた。こうして見てみると、スイーツを食べている時の笑顔はどこか似ている気がする。あいつは人と比べられるのが嫌いだから、こんなことを考えてるなんてバレたらどつかれるだろうけど。


「…先輩?せんぱーい?」


「…あぁ、すまん。なんだ?」


「今、別の女の事考えてたでしょ?」


「…いやぁ?」


「顔に出てますよ。分かりやすいんですよ先輩は」


 真白が俺の脇腹をぐいぐいと押してくる。…俺ってそんなに分かりやすいんだろうか。


「…で、どうだったんですか?」


「どうだったって?」


「お呼び出しの件ですよ。ほら、昼休み」


 そう言われて俺は昼休みの件を思い出す。あの女の傲慢さによって俺は生徒会という魔境に引きずり込まれてしまった。思い出すだけで腹立たしい。


「その顔だと、なんかあったんでしょう?”元カノ”さんと」


「別にィ〜?…いってっ!?」


 とぼけようと思った矢先、俺のつま先は真白によって踏み潰される。全く、乱暴な女は好きじゃない。


「お前ぇ…」


「下手な嘘はやめたほうがいいですよ先輩?ほら、何があったんですか?」


「…生徒会に勧誘された」


 真白は素の表情のまま固まってしまった。どうやら俺の言葉の意味が噛み砕けていないらしい。真白が再び言葉を発したのは数秒後のことだった。


「…先輩が?生徒会?」


「うん」


「…なんで?」


「しらねーよ。俺が聞きたいぐらいだ…」


 真白は優花の一件に関しては何も知らない。説明する必要も無いだろうということでここは隠しておくことにした。顔にでてない事を祈ろう。

 未だに驚きが拭えない表情で真白は問いかけてくる。


「で、先輩は勧誘受けたんですか?」


「…うん」


「…さらになんで???」


 真白は更に疑問符を浮かべた様子で首をかしげた。俺のことをよく知っているコイツならこの反応になるのも無理は無いだろう。俺は面倒事は避けて通る主義だ。辛いことは少ないほうがいい。


「先輩いつからそんな模範生徒になったんですか。昔はよく委員会一緒にサボったりしたじゃないですか」


「なんというか成り行きだ。…別に俺だってやりたくなかった」


「先輩、もしかして…結那さんに巻き込まれました?」


 なにかを察した様子の真白はそう問いかけてきた。こいつは昔から直感が冴えている方だが、こんなにも的確に当ててくるとは。

 あいつの話題を出すとなにかとろくなことが起こらない。できるだけ隠しておく吉だが、しらを切るにしてもさっきのことがあった後じゃ隠し通せる気がしない。俺は渋々頷いた。

 頷いた俺を見て、真白は苦笑した。


「…未練がましいっすよ」


「なんでそうなる。俺は巻き込まれた側だ。未練がましいのはあっちのほうだろ」


「それでも引き受けちゃうあたり、心の内が見え見えです。…全く、あんな女やめておけばいいのに」


 口を尖らせてなぜか不満げな表情を浮かべる真白。階段での一件でも思ったことだが、結那と真白は仲が悪いのだろうか?喧嘩してるとか聞いたことが無いけれど、二人を見ているとどことなくそんな雰囲気がうかがえる。

 真白に向いてしまった好奇心を俺は止めることができなかった。


「なぁ、お前って結那あいつと仲悪いの?」


 俺の質問に対して真白は冷たい表情で聞き返してきた。


「…なんでそう思ったんですか?」


「え、いや、なんか二人が仲良くしてるところ見たことがなかったから…」


 その顔からは圧さえ感じられた。まるで触れてはいけないものに触れてしまっているかのような感覚。あるはずのない罪悪感が俺の心を締め付ける。

 まるで品定めするかのような目で俺を見つめる真白。その表情は数秒後に明るいものへと変わった。


「別に仲悪くは無いですよ。関わりが無いってだけで」


「へ、へぇ〜そうか…」


「ただ、あの人のツンツンさには流石の私もお手上げです。あんな人のどこがいいんですか?」


 真白は少しからかうように俺の脇腹を小突いてくる。確かにあいつは頭がおかしいくらいの極度のツンツンだが、理由も無しにツンツンなわけじゃない。あれはコミュ障と言うべきか暴言好きと言うべきか…


「あいつは自己表現が下手くそなだけだ。…口下手なんだよ」


「やっぱり未練タラタラじゃないですか」


「ちげーっての。ここで養護しないと過去の俺がかわいそうだろ。別に今は好きなわけじゃねーし」


「…へ〜」


 今度は真白のジト目が俺に突き刺さる。どうやらいつもの調子が戻ってきたようだ。このままだとコイツの中の悪魔が俺をからかい始める。ここは足早に…


「ま、今日のところはそういうことにしておいてあげますよ。クレープも奢ってもらったし」


「え?…あ、あぁ」


「じゃ、私帰りますね。早くしないと見たい番組始まっちゃうんで」


 そう言い残すと真白は小走りで去っていった。…案外あっさり開放してもらえたな。


 明日からは俺も生徒会だ。始まるであろう地獄の日々に備えて俺も英気を養わなくては。俺は小走りになって自宅へと向かった。

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激ヤバ女に捨てられた俺を助けてくれたのは中学時代の彼女でした。 餅餠 @mochimochi0824

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