吟遊詩人、語る

トーセンボー(蕩船坊)

吟遊詩人のひとり語り

 旦那は吟遊詩人という職業について、どれ程ご存知かな?

 酒場や街中で歌を歌い、楽器を弾いてお客様からおひねりをいただく根無し草。

 大抵の人はそう答えるだろう。

 名の知れた奴なら貴族様にお呼ばれして一席、なんてこともある。

 有名な冒険譚を最初に歌った奴とか、顔が良くてご婦人にウケがいい奴とかだね。


 あとはアレだ。

 最近はマッチやタバコなんかを製造する、工場?ってとこで働く人たちのために、そこの偉い人に雇われて歌う。

 ああいうの、福利厚生っていうんだっけ?

 単純作業って暇らしいからねぇ、耳まで暇だとその場の人間でお喋りが盛り上がっちゃうから、生産性を上げるにはいい手段なのかもね。


 まぁ要するにだ。

 大抵は人に頼まれて歌ってるか、手前で勝手に歌ってるかって人種だよ。

 でもさ、それだけで食っていけると思うかい?

 人気がある奴ならいいさ。

 まさかやる奴はいないと思うが、おひねりだけで家まで建てられるだろう。

 だけどね、ほとんどの場合は違う。

 人ひとり、やっと食っていけるかどうかなのさ。

 いや、それすら危うい奴も多い。


 じゃあどうやって食ってるのかって?

 そりゃ、働いてるのさ。

 大抵は普通の日雇いとかだな。

 あとは冒険者やってる輩も居なくはないが、流石に指とか怪我して演奏できなくなるのは避けたいって奴が多い。

 だが冒険者として有名なパーティに帯同できたら、うまくいけば生で英雄譚の誕生を感じられる。

 ハイリスクハイリターンの大博打ってやつだ。


 だがね、プライドが高い奴ってのはどこにでもいるんだ。

 吟遊以外で働くのは誇りがどうとか言って、働かない奴。

 でもそういう連中ほど、歌だけの稼ぎは少ない。

 ならどうやって食っているか?

 多いのはヒモだな、顔だけか口だけの連中。

 顔が良くても、口が上手くても。

 歌や演奏がからきしじゃ、おひねりは貰えないわな。


 ん?そろそろ本題に入れ?

 まぁ睨まないでよ旦那、せっかちだなぁ。

 そう、俺たちには副収入がある。

 歌で稼いでいるかそうでないかに関わらず、みんなが等しく一口乗れる楽なお仕事がな。


 情報屋さ。

 より正確には、情報屋の手足って言ったほうがいいかな?

 まぁ自分で情報屋やってる奴もいるけど。

 俺たち吟遊詩人ってのは、人の集まるところならどこにでもいる。

 居てもおかしくないのさ。

 そして歌ってる最中の俺たちは、聴衆の反応を常に観察している。

 どんな客がどのあたりにいて、誰と一緒にいるのかも。

 手慣れた奴なら、唇を読んで何を話してるかまでわかっちまう。

 普通はそれを演目の参考にするんだけどね。


 まぁ、だからね、旦那。

 詩人の周りで下手なことしたらダメだよ?

 俺たちはいつでも見てる。

 どこにでもいる。

 浮気とかするなら、俺らの近くはやめておくんだね。


 さて、いよいよお望みの本題だ。

 奥さんの浮気相手、知りたい?

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吟遊詩人、語る トーセンボー(蕩船坊) @mottlite

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