3

 三年の月日がたった。

 私とセタンタさんは、この小屋で一緒に暮らしている。

 セタンタさんは恋のみならず、町のこと、人のこと……さまざまなことをおしえてくれた。

 そのたびに自分の世界がひろがっていくのをかんじた。


「セタンタさん」

「なぁに?」


 いつもの朝。セタンタさんがいつもどおり仕事へいこうとしていた。

「今日のお晩ごはん、なにがいいですか?」


 セタンタさんは顔をぽかんとさせて、金色の髪をなでている。

「そうね……モリアのつくるものなら、なんでもおいしいわ」

「なんでもいいって言われると、こまります」


 私が頬をふくらませると、セタンタさんはわらった。

 そして私のほっぺをぷにっとつまむ。


「モリアはかわいいわね」

 セタンタさんの白く細い指にふれられると、いつもドキッとしてしまう。


「ほっぺはやわらかくて、ふにふにしてて……」

 セタンタさんはしばらく私のほっぺを堪能してから、玄関のドアをあけた。


「じゃあ、いってくるわね」

「あぁ、ちょっと、まって……」


 よびとめたが、セタンタさんはいってしまった。

 んもう、セタンタさんにはそういうところがあるんだから。


「ホワイトシチューにしようかな……」

 私はそうつぶやきながら、台所で支度をはじめた。しかし、シチューの具材がないことに気づく。


 うーん、人参も玉ねぎも錬金でつくれないからな……。

 仕方がないので、町に買い物へいくことにした。


 セタンタさんがまだ帰ってきてないので、書き置きをして、私は町へむかった。



 町へつくと、私はお店を見てまわった。


 野菜を売っていたおばさんから、にんじんを沢山買った。セタンタさんは人参がすきなのだ。


 町での買い物もセタンタさんがおしえてくれたことだ。

 はじめは店の人と意思疎通もできなかった。

 だけど、日々のつみかさねで、いまでは挨拶と返答ならできるようになった。


「あら、モリアちゃんじゃない」

 パン屋のおばさんさんで声をかけられた。


「あら……セタンタちゃんは?」

 パン屋のおばさんは、セタンタさんとも仲がいい。


「今日はお仕事です」

「あーそうなのぉ、じゃ、セタンタちゃんにもよろしくね」

 私の手にパンがわたされる。


「あの、これは……」

「いつも町をまもってくれりセタンタちゃんと、いつもパンを買ってくれるモリアちゃんへのお礼」

 パン屋のおばさんはウインクをすると、店のおくにひっこんでしまった。


「ありがとうございます」

 私はお礼をいってから、パン屋をあとにした。


 ふふーん、今日の晩はシチューとパンだ。

 セタンタさんもよろこぶだろうなぁ。

 私はパン屋のおばさんからもらったパンを、カバンにいれた。


 それから町のなかをあるいていると、とあるお店が目にはいる。


「あっ……」


 そこはアクセサリーショップだった。

 ガラスのむこうには、高級そうな髪飾りや腕輪がならんでいる。


 いけない、いけない……つい、見とれてしまっていた。

 なんだか、こういうの見てると錬金につかいたくなるんだよねぇ……。


「あれ、これに興味があるんか?」

「わッ!」


 唐突にはなしをかけられて、とびあがる。

 見ると、背広をきた女の人がたっていた。


「あ、あの、あなたは……?」

「あぁ、ここの店員のネヴァンや」


 ネヴァンは私ににっこりとほほえみかける。


「えーと、その……」

「むっ、むむ……?」


 ネヴァンは私の頭頂から足先まで見わたすと。


「なんだか、にあいそうやな……」

「はい?」

「ほな、ゆっくりみていってや」


 えっえ、ちょっと……。

 私は店のなかへとおしこめられた。


「ちょっと……」


 ネヴァンは私の手を引っ張って店内を紹介する。


「これなんてどうや?」

 ネヴァンは私に髪飾りをみせた。

 それは銀細工でつくられた、淡い青色の蝶々みたいな髪飾りだった。


「きれい……」

 私は思わずつぶやいた。

 これを錬金につかえば、おもしろいものをつくれるかも……。


 けど。


「すいません、手もちがないので……」

「あぁ、そこは大丈夫や」


 ネヴァンはポケットから契約書らしき紙をだす。


「月二万の二四回ばらいで、オッケーやで」

「ぜんぜん、オッケーじゃないですッ!」


 うぅ……どうしよう。

 こんなの買ったら、セタンタさんおこるだろうし……。

 でも、相手のおしがつよくて、にげられそうにないよぉ。


「ほら、はやくせんと、ほかの人に買われちゃうで」

 ネヴァンは私をせかしてくる。


「いや、そのぉ」

「なにをしているのかしら?」

 うしろから、ききなれた声がひびいてくる。


「えっ」

 ふりかえった私の視界に、セタンタさんがうつった。


「せっ、セタンタさん?」

 セタンタさんはため息をつくと、ネヴァンをにらみつけていた。


「ネヴァン、私の恋人をぼったくろうだなんて、いい度胸じゃないの」

 えっ……。

「なんやセタンタ、おったんか。というか、ウチの商売を邪魔すんなや」


 えっ……えっ?

 セタンタさんとネヴァンはにらみあう。

 お互いの眼から稲妻がほとばしっているようだった。


「あの、すいません」

 おもわず、ふたりのあいだにはいった。


「セタンタさんとネヴァンさんはしりあいで?」

 そうきくと、セタンタさんは不機嫌そうに顔をそらした。


「ただの幼馴染よ」

「ただのってなんやねん」

 幼馴染……。


「さぁ、いきましょう、モリア。町の出口までおくってあげる」


 セタンタさんは私の手をにぎり、店からでた。

 うしろからは「ウチの客がぁぁ」とさけび声がひびいてきたが、気にする様子はなかった。

 しばらく歩いてから、セタンタさんがふりかえった。


「大変だったわね」

「いえ、ありがとうございます……」

 ペコっと、頭をさげる。


「ネヴァンは悪いやつじゃないけど、たまにあんなかんじなの」

「おもしろい人ですね……」

 ふと、気になったことがあったのできいてみる。


「あの、セタンタさん、お仕事は?」

「いまは昼休み中よ」

 昼休みって……もうこんな時間かぁ。


「びっくりしちゃったわ。あるいていたら、あなたがネヴァンにつれこまれているもの」

「すいません……」


 セタンタさんがやさしく、私の頭をなでる。

「ぜんぜんいいの。むしろ、あなたにあえてよかったってかんじ」

 ニカッわらうセタンタさん。

 その顔をまじまじと見つめてしまう。


「じゃ、ここまででいいかしら」

 気がついたら、町の門についていた。


「えぇ、ありがとうございます」

「またあとで。晩御飯たのしみにしてるわ」

 セタンタさんはウインクをしてから、もときた道をもどっていった。



 家に帰った私は、さっそく晩御飯づくりにとりかかった。

 材料はバター、薄力粉、牛乳、玉ねぎ、にんじん、干し肉。


 今日は錬金でつくっておこう。

 いつものように、レシピをかいた葉を釜のひきだしにいれて、釜に材料をながしこむ。


「ハァァァ!」


 魔法をかけて、すこしまてば、完成ッ!

 蓋をひらいたら、トロトロのシチューがグツグツとにえている。

 おたまでそれをすくって、味見してみる。


 うっ……。

「あっつっ!」


 そういえば、私猫舌だったんだ。

 ふぅふぅとおたまに息をふいて、もういちど口へはこぶ。


「あついけど……おいしい」


 今日もセタンタさん、よろこんでくれるかな……。

 ガチャッと扉がひらく。

 金色の髪をなびかせた、キレイな女性がはいってきた。


「ただいま、モリア」

「おかえりなさい、セタンタさん」

 セタンタさんは椅子にすわって、私と台所を凝視する。


「うん、いいかおり。今日はシチューかしら?」

「えぇ。パンと一緒にどうぞ」

 今日もまた、しあわせな晩餐がはじまったのだった。

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