3
三年の月日がたった。
私とセタンタさんは、この小屋で一緒に暮らしている。
セタンタさんは恋のみならず、町のこと、人のこと……さまざまなことをおしえてくれた。
そのたびに自分の世界がひろがっていくのをかんじた。
「セタンタさん」
「なぁに?」
いつもの朝。セタンタさんがいつもどおり仕事へいこうとしていた。
「今日のお晩ごはん、なにがいいですか?」
セタンタさんは顔をぽかんとさせて、金色の髪をなでている。
「そうね……モリアのつくるものなら、なんでもおいしいわ」
「なんでもいいって言われると、こまります」
私が頬をふくらませると、セタンタさんはわらった。
そして私のほっぺをぷにっとつまむ。
「モリアはかわいいわね」
セタンタさんの白く細い指にふれられると、いつもドキッとしてしまう。
「ほっぺはやわらかくて、ふにふにしてて……」
セタンタさんはしばらく私のほっぺを堪能してから、玄関のドアをあけた。
「じゃあ、いってくるわね」
「あぁ、ちょっと、まって……」
よびとめたが、セタンタさんはいってしまった。
んもう、セタンタさんにはそういうところがあるんだから。
「ホワイトシチューにしようかな……」
私はそうつぶやきながら、台所で支度をはじめた。しかし、シチューの具材がないことに気づく。
うーん、人参も玉ねぎも錬金でつくれないからな……。
仕方がないので、町に買い物へいくことにした。
セタンタさんがまだ帰ってきてないので、書き置きをして、私は町へむかった。
◇
町へつくと、私はお店を見てまわった。
野菜を売っていたおばさんから、にんじんを沢山買った。セタンタさんは人参がすきなのだ。
町での買い物もセタンタさんがおしえてくれたことだ。
はじめは店の人と意思疎通もできなかった。
だけど、日々のつみかさねで、いまでは挨拶と返答ならできるようになった。
「あら、モリアちゃんじゃない」
パン屋のおばさんさんで声をかけられた。
「あら……セタンタちゃんは?」
パン屋のおばさんは、セタンタさんとも仲がいい。
「今日はお仕事です」
「あーそうなのぉ、じゃ、セタンタちゃんにもよろしくね」
私の手にパンがわたされる。
「あの、これは……」
「いつも町をまもってくれりセタンタちゃんと、いつもパンを買ってくれるモリアちゃんへのお礼」
パン屋のおばさんはウインクをすると、店のおくにひっこんでしまった。
「ありがとうございます」
私はお礼をいってから、パン屋をあとにした。
ふふーん、今日の晩はシチューとパンだ。
セタンタさんもよろこぶだろうなぁ。
私はパン屋のおばさんからもらったパンを、カバンにいれた。
それから町のなかをあるいていると、とあるお店が目にはいる。
「あっ……」
そこはアクセサリーショップだった。
ガラスのむこうには、高級そうな髪飾りや腕輪がならんでいる。
いけない、いけない……つい、見とれてしまっていた。
なんだか、こういうの見てると錬金につかいたくなるんだよねぇ……。
「あれ、これに興味があるんか?」
「わッ!」
唐突にはなしをかけられて、とびあがる。
見ると、背広をきた女の人がたっていた。
「あ、あの、あなたは……?」
「あぁ、ここの店員のネヴァンや」
ネヴァンは私ににっこりとほほえみかける。
「えーと、その……」
「むっ、むむ……?」
ネヴァンは私の頭頂から足先まで見わたすと。
「なんだか、にあいそうやな……」
「はい?」
「ほな、ゆっくりみていってや」
えっえ、ちょっと……。
私は店のなかへとおしこめられた。
「ちょっと……」
ネヴァンは私の手を引っ張って店内を紹介する。
「これなんてどうや?」
ネヴァンは私に髪飾りをみせた。
それは銀細工でつくられた、淡い青色の蝶々みたいな髪飾りだった。
「きれい……」
私は思わずつぶやいた。
これを錬金につかえば、おもしろいものをつくれるかも……。
けど。
「すいません、手もちがないので……」
「あぁ、そこは大丈夫や」
ネヴァンはポケットから契約書らしき紙をだす。
「月二万の二四回ばらいで、オッケーやで」
「ぜんぜん、オッケーじゃないですッ!」
うぅ……どうしよう。
こんなの買ったら、セタンタさんおこるだろうし……。
でも、相手のおしがつよくて、にげられそうにないよぉ。
「ほら、はやくせんと、ほかの人に買われちゃうで」
ネヴァンは私をせかしてくる。
「いや、そのぉ」
「なにをしているのかしら?」
うしろから、ききなれた声がひびいてくる。
「えっ」
ふりかえった私の視界に、セタンタさんがうつった。
「せっ、セタンタさん?」
セタンタさんはため息をつくと、ネヴァンをにらみつけていた。
「ネヴァン、私の恋人をぼったくろうだなんて、いい度胸じゃないの」
えっ……。
「なんやセタンタ、おったんか。というか、ウチの商売を邪魔すんなや」
えっ……えっ?
セタンタさんとネヴァンはにらみあう。
お互いの眼から稲妻がほとばしっているようだった。
「あの、すいません」
おもわず、ふたりのあいだにはいった。
「セタンタさんとネヴァンさんはしりあいで?」
そうきくと、セタンタさんは不機嫌そうに顔をそらした。
「ただの幼馴染よ」
「ただのってなんやねん」
幼馴染……。
「さぁ、いきましょう、モリア。町の出口までおくってあげる」
セタンタさんは私の手をにぎり、店からでた。
うしろからは「ウチの客がぁぁ」とさけび声がひびいてきたが、気にする様子はなかった。
しばらく歩いてから、セタンタさんがふりかえった。
「大変だったわね」
「いえ、ありがとうございます……」
ペコっと、頭をさげる。
「ネヴァンは悪いやつじゃないけど、たまにあんなかんじなの」
「おもしろい人ですね……」
ふと、気になったことがあったのできいてみる。
「あの、セタンタさん、お仕事は?」
「いまは昼休み中よ」
昼休みって……もうこんな時間かぁ。
「びっくりしちゃったわ。あるいていたら、あなたがネヴァンにつれこまれているもの」
「すいません……」
セタンタさんがやさしく、私の頭をなでる。
「ぜんぜんいいの。むしろ、あなたにあえてよかったってかんじ」
ニカッわらうセタンタさん。
その顔をまじまじと見つめてしまう。
「じゃ、ここまででいいかしら」
気がついたら、町の門についていた。
「えぇ、ありがとうございます」
「またあとで。晩御飯たのしみにしてるわ」
セタンタさんはウインクをしてから、もときた道をもどっていった。
◇
家に帰った私は、さっそく晩御飯づくりにとりかかった。
材料はバター、薄力粉、牛乳、玉ねぎ、にんじん、干し肉。
今日は錬金でつくっておこう。
いつものように、レシピをかいた葉を釜のひきだしにいれて、釜に材料をながしこむ。
「ハァァァ!」
魔法をかけて、すこしまてば、完成ッ!
蓋をひらいたら、トロトロのシチューがグツグツとにえている。
おたまでそれをすくって、味見してみる。
うっ……。
「あっつっ!」
そういえば、私猫舌だったんだ。
ふぅふぅとおたまに息をふいて、もういちど口へはこぶ。
「あついけど……おいしい」
今日もセタンタさん、よろこんでくれるかな……。
ガチャッと扉がひらく。
金色の髪をなびかせた、キレイな女性がはいってきた。
「ただいま、モリア」
「おかえりなさい、セタンタさん」
セタンタさんは椅子にすわって、私と台所を凝視する。
「うん、いいかおり。今日はシチューかしら?」
「えぇ。パンと一緒にどうぞ」
今日もまた、しあわせな晩餐がはじまったのだった。
錬金術師と女騎士の幸せレシピ セクシー・サキュバス @Succubus4443
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