第18話
デビュタント当日。
カミラはこの日は朝から関係者との最終打ち合わせがあるため、いつもよりも早めに起きた。リーサも衣装を準備している。
「緊張する……」
「たくさん練習したじゃないですか。大丈夫ですよ」
「でも不安です……まぁ、やるしかないんですけど……!」
カミラは大きく深呼吸した。もう当日になってからあれこれ考えても遅い。
(ヴィンセントさんからもらった靴で、たくさん練習したんだから)
先日、ヴィンセントが王宮専属の靴屋を連れて、カミラの部屋にやってきた。カミラが靴擦れをしているのを見て、足のサイズに合う、靴擦れのしにくい靴を新調するというのだった。
かかとはずれて皮膚がむけないように柔らかい素材を使い、真っ白のサテンで作られたヒールだった。足の甲には大きなリボンがあしらわれている。その形はヴィンセントとともに選んだものだった。いまはすっかり足に馴染んで、靴擦れも起こさない。
「さて、衣装に着替えましょうか。あ、そういえば、ヴィンセント様から小包を預かっていますよ」
「小包?」
「それに、カードもついてますよ。いつのまにか、なんだか親密になりましたね」
ふふふ、とリーサが笑いながら、小包を手渡してきた。小さな箱と、それについた白いカード。そこにはヴィンセントのものと思われる端正な文字でこう書かれていた。
『カミラへ デビュタントの当日、よければこれをつけてほしい。少しでも身体を冷やさないように』
一緒についていた小包を開けると、白い手袋が入っていた。ドレスにあわせた白のサテンで作られた、肘まである長い手袋だ。
「わぁ、可愛い……!」
「とっても素敵ですね。今日の衣装にもすごくあいそうです!」
「ですよね! 今日のデビュタント、頑張れそうです!
「それはよかったですね。さぁ、衣装に着替えましょう。打ち合わせからデビュタントまでの間、着替える暇もありませんから」
「はい!」
それから、衣装に着替え、鏡を見つめる。エミリスワンでは着たことのないような高価な衣装、これもヴィンセントが王宮専属の衣装屋に頼んで制作してくれたものだ。
(すごい……着る服でこんなにも変わるなんて……)
髪も白いリボン紐で結い、純白でスタンダードラインのドレス。それに肘までの手袋をはめれば、自分がいつもとは別人に見えた。
(エミリスワンでは、こんなドレス着たことなかったなぁ……)
そう思うとはるばる異文化の国に来たのだと思ってしまう。
(でも今は、ヴィンセントさんやリーサ、イェシカさんがいるから、自然と寂しくないかも)
そう思った頃に、ドアが3回ノックされる。
(あっ、ヴィンセントさん!)
リーサが代わりに返事をし、ドアのほうに駆け寄る。すると、何やら話をしているのがわかった。
「カミラさん、ヴィンセント様の部下の方がお見えです」
「部下の方……?」
聞き慣れない言葉に驚きつつも、部屋に入ってきた人を見た。すると、ヴィンセントのものと同じ軍服を来た男性が入ってきた。
「はじめまして、カミラ様。私はヴィンセントさんの下で働いている、アルス・オリアンと申します。今日はヴィンセントさんの代理で迎えに参りました」
白に近い銀髪で、表情はきりりとしている。顔つきも精悍で、端正な顔立ちと相まって少し怜悧で冷たい印象を受ける。話し方も軍人らしい、厳しい規律を感じさせる口調だ。
(この人がヴィンセントさんと働いてるんだ……!)
ヴィンセントのことをまた少ししれた気がしてカミラは嬉しくなる。
「こちらこそはじめまして、カミラ・アップルトンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「よろしくお願いいたします。ドレス、とてもお似合いです」
「あ、ありがとうございます……! 光栄です」
「では、早速ですが打ち合わせに向かおうと思いますが、いかがですか」
「はい。お願いします」
一つひとつ確認を取ってくるところも軍人らしいが、エミリスワンという穏やかで平和な国で生活してきたカミラは気づかない。
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