第14話

 同日、同じ頃。カミラは授業を終え、窓の外を眺めていた。

(シントレアでは、積るほど雪は降らないって言ってたな……)

 雪は小粒で、いつ雨に変わるかわからない。シントレアは山国ではないため、エミリスワンよりも温暖で、積雪量も少ないとリーサから聞いた。

「窓際は寒くありませんか? カミラ様」

「あ……はい。でも、このくらいなら平気です。もともと雪国育ちですから!」

 カミラは笑顔でリーサに答える。今日は公務のあとに部屋を訪ねるとヴィンセントから聞いたこともあり、カミラは浮ついた気持ちでいた。

(今、何してるかな。副騎士団長のお仕事って、どういうものなんだろう)

 今度ヴィンセントに聞いてみようと思いながら、手元に置いていた本を手に取ろうとした瞬間。ドアが3回ノックされる。

(ノック3回は……!)

 それだけで部屋を訪れたのが誰かわかってしまう。

「ヴィンセント様がいらっしゃいました。お部屋に入ってもよろしいですか?」

 いつもの、少し癖のあるイントネーションの執事の声がする。

どうぞ、と返事をし、部屋の中へ引き入れると案の定、ヴィンセントの姿があった。

「今日は来る式典のお話をしに参りました」

「式典……ですか?」

「ああ。約1ヶ月後にデビュタントがある。それにあなたも参加してほしい」

「デビュタント……ですか?」

「今年18歳の成人を迎えた男女が社交界に出るための儀式だ。生まれてきて18歳まで無事に生きてきたことを祝う意味もある。あなたも今年18になったのだろう」

「はい……」

「あなたと同い年の男女の新しい門出に、ぜひ司会進行役兼デビュタントとして参加してもらいたい。あなたが適任だと、俺が推薦した」

「えっ? 司会進行役って……そんな大役、私にできますか……?」

「あなたならやりきれると信じている」

 ヴィンセントの柔らかな眼差しに、胸がきゅっとなる。

(私を信じて、選んでくれたんだ……ヴィンセントさんの思いを、無碍にはできない)

「……私、頑張ります」

「よかった。エスコートは俺がやる。当日までまだ日はあるから、ダンスの練習もしよう。講師を準備しておく」

(ダンス……! うちの国ではあまり馴染みのない文化だけど……)

 頑張ると宣言したからにはやらねばならない。

「ありがとうございます。当日までにはできるように、練習しておきます!」

「ああ。急な申し出ですまないが、デビュタントはうちでもかなり大きな式典だ。毎年かなり盛大で、他国からの来賓も多い。自分の国について言うのもおかしいが、見応えもあって、いいものだと思う」

「そうなんですね。参加できて光栄です」

(失敗はできない。頑張らないと)

「衣装選びが楽しみですね」

 横からリーサが言う。

「いいものを選んでやってくれ。カミラが満足できるものを」

「はい。とっておきのものにしましょうね」

「ありがとうございます」

(ヴィンセントさん優しい……)

 ヴィンセントは公務の間を縫って来てくれたようで、その用件だけ話すとすぐに南征の作戦会議に向かってしまった。

 残されたカミラは、ふと考える。

(デビュタントって、他の国ではあると聞いたことがあるけど……)

「リーサさん、デビュタントってどんな式典なんですか? 正直、まだあまりよくわかっていなくて……」

「エミリスワンにはなかったのですね? デビュタントはもう、若い女の子たちの憧れの象徴です。貴族の家の子たちはみんな、この日を夢見ているのですよ」

「ダンスもするんですよね? 私はやったことがなくて……」

「まあ。司会進行役兼デビュタントですから、皆様のお手本にならなくてはいけません。ダンスはしっかり練習いたしましょうね。衣装選びも大変ですし、1ヶ月で間に合うかしら」

 どこか楽しそうなリーサを横目に、カミラは今から緊張でいっぱいだった。

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