第7話 トーナメント

私達は領境の関所に到着した。

「国の境目ってこうなっているんだ」

「厳密にいうと、ここは領境ね」

村人達とは街で分かれ、東へ行こうとする隊商の護衛に付けないかと探していたが、やはりどの商人にも護衛がある程度ついている。

「ここで私達は通行料を払って隣の領地に移動するのよ」

「お金がかかるんだ」

関所には多数の隊商やその関係者達が順番を待っている。

「隊商とかなら荷物もお金が取られるわ」

「僕達はいくらくらい必要なの?」

「場所によって価格は違うけど二人で銀貨二枚もあれば通れるんじゃないかしら」

「結構かかるんだね。銀貨二枚あればどれだけの食事を買えるんだろ…」

「お金も出ていくばっかりじゃないでしょ?賊の武器とかを全部売ったから暫くはお金を気にする必要は無いわ」

「そっかー、でもお金は使わないに越したことはないでしょ?」

「そうだけど、関所は東に行くなら通る必要があるから仕方ないわね」

賊の鹵獲品は村人達は対処に困ったようなので引き取った。

今まで使っていた粗悪な剣を品質の良い剣と取り換えて残りを手近な鍛冶ギルドに売り飛ばした。

寺院には村人達から事情を説明して貰って賊共を引き渡し、私達は神に祈りを捧げるためだに訪れただけだ。

私は寺院に手配されている可能性が高いから街の司祭や司教に会うと色々面倒になる可能性がある。

「じゃあクルト、ここお願いね」

「分かった。良い話があると良いねシャルロッテ」

私が隊商護衛の営業をかけて、クルトが魔法の訓練を兼ねて水を補給して路銀を稼いでいる。

この辺りは小麦や果物の収穫量が多いのでここで仕入れて他で売るのが流行りのようだ。

私達の順番が回ってきたので手続きを済ませる。

「ここに名前の記入と銀貨一枚を収めろ」

関所の衛兵にそう言われると、名前の記入と銀貨二枚を収めると先を進む。

少し進むとまた関所があり、今度はスムーズに手続きに入った。

「どうして同じところで二回もお金を取られるの?」

「そうね、最初に払ったのは領地から出るための通行税、次に払ったのが領地に入るための通行税ね」

「領地が違うから…出る時と入る時と…うーんと、別の領主に税を払っているという事?」

「そういう事、説明するのは中々難しいのよね」

「実際今でも領主様とか、領境がどことか全く見た事ないし…」

「今すぐ覚える必要は無いわ、生活していくうえで少しずつ分かってくると思う」


「そう、盾で攻撃を受けて、できれば弾き返したり受け流したりしてみて」

農作物の収穫の季節が終わり季節は雨季になった。

私達は今とある街に暫く滞在して雨の中、剣術の稽古をしているところだ。

雨季が終わるまでは、徒歩での移動も危険が伴うし。クルトの剣術稽古をつけて過ごすことにした。

「そんなこと言われてもなぁ」

こればかりは慣れてもらうしかないだろう。

「あんた達旅人かい?」

声をかけられた方を見ると革のエプロンを付けた老齢の男が立っていた。

「そうだよ」

クルトがそう答える。

「すまないな小僧、話があるんだがそこの姉ちゃんと話をさせてもらえないかい?」

「何の用?」

見た感じ悪人や罪人の類ではなさそうだけど…。

「あんた相当腕が立つね?」

「東の方への護衛なら大歓迎だけど、それ以外はお断りするわ」

「へえー東ね…」

私がそういうと男は一瞬考えたようだ。

「じゃあこうしよう、報酬は東への馬車を手配する事。もちろん食事とかの心配もしなくて良い」

「報酬は申し分ないわね。ただ何をさせたいのかにもよるわ」

「明日、競技会が行われるんだがそれに出場してある程度の成績を残してもらいたい」

「競技会か…それくらいならまぁ構わないけれど」

「ねえ競技会ってなあに?」

クルトが割って入ってきた。

「そうね、闘技場というところで行われる剣術とかの大会よ。後で詳しく説明してあげる」

「こちらが擁立しようとしていた剣闘士を敵対ギルドに取られてしまって、難儀していたんだ。あんたは女で腕が立つ、これで敵対ギルドの剣闘士を痛めつけてくれればうちのギルドの名声も上がるってもんだ」

「優勝しろという話じゃないのならまぁ構わないわ」

「俺はショーン」

そういうとショーンが右手を差し出してきた。

「この子がクルト、私はシャルロッテ」

そう言って握手をした。


「競技会っていうのは、そうね…自分のギルドとか貴族が名誉とお金を賭ける武芸の大会ね」

剣の稽古が終わり、汚れて冷えた身体を洗うために公衆浴場によってショーンのギルドの食事会に参加する道中に説明をする。

「お金を賭けるのは知っているけど名誉って言うのは?」

「自分達が領主に認められれば、今回の場合領主が行う仕事を自分たちのギルドに回してもらえるって事かしらね?」

「どうすればシャルロッテが勝てるの?」

「相手を捕らえたり転ばせたり、武器を奪い取ったり地域によって違うからその辺りの相談を食事しながら確認するんじゃないかしら」

そんな話をしているうちに食事会をする食道に到着した。

中に入ると数名の客が座ってショーンが手招きしている。

「待っていた。シャルロッテ、クルト」

私達は席に座る。

「ルールとか、誰を倒せばいいのかの条件を教えて貰えるかしら?」

「相手の名前はコンラート、この辺りで一番強いと言われている剣闘士だ」

「他の参加者は?騎士は出るのかしら?」

「そんな大きな会場じゃないから兵士は出るだろうが、騎士は出ないだろう」

「なるほど…」

多少目立っても大丈夫そうだ。

「トーナメントの形式は?」

「1対1の勝ち抜けだ、寺院の審判が勝敗を決める」

多少は寺院が絡んでくるのね…。

「ねえシャルロッテ、大丈夫?」

クルトが心配して声をかけてくれた。

「多分ね」

手配はもうすでにされているだろうけど、毎日朝には寺院に祈りに行っている。

こちらから積極的に話しかけている訳では無いけれど、顔なじみの神官もいるし多分大丈夫。

「何か問題でも?」

私達が小声で相談しているとショーンが聞いてきた。

「今のところは問題ないわ。この競技会には領主様は出てくるのかしら?」

「勿論、だからこそ明日はお前には目立ってもらわないとならない」

「優勝はしなくても良いという事だけど、そのコンラートってやつを倒せば負けてしまっても良いのよね?」

「ああ、構わない。構わないが本当に勝てると思っているのか?」

「その為に私に声をかけたんじゃないの?」

「正直勝てるとは思っていない。お前が女で剣術が使えるから目立つだろうと声をかけただけだ。コンラートに勝てなくとも領主様の目に留まれさえすれば良い」

「じゃあ、東への馬車の話はそもそも出す気は無いの?」

私はやや苛立ちながらそう言った。

「勿論勝てたらヴィルヘルムスのビーフボウルくらいまでなら手配してやろう。あそこなら仕事も色々あるだろうしお前達の望むものもあるかもしれないからな」

「分かったわ。多少遅れるのは構わないけれど反故にしたらその時は分かっているわね?」

「そんなに怒るな。誰も出さないとは言っていない。お前がコンラートに勝てるとは思っていないだけだ」

「まぁその話は良いわ。もう少しルールについて詳しく教えて」

「勝利条件は戦闘不能、武器は競技会が用意したものの中から選べる。防具は自前で用意する必要があるから、こちらで用意しよう」


その後食事をしつつ、ギルド側が用意してくれた宿に戻る。

「食事も美味しかったし宿も用意してくれたし良かったね」

「私が勝てないと思っている辺り、なんかムカつくわね」

帽子とローブを脱いで地面に置く。

「僕以外シャルロッテの強さを知らないんだもん仕方ないよ」

「あら、クルトは分かっているわね」

そう言って抱きしめて撫でてあげた。

「気が変わったわ、折角だから路銀もたんまり稼いじゃいましょうか」

「どうするの?」

クルトが食い気味で聞いてくる。

「簡単な話よ、クルトが私にお金を賭けてくれればいいの全額ね」

「シャルロッテが負けるとは思ってないけど大丈夫なの?」

「私が負けなければお金が増えるんだから大丈夫」


「じゃあショーン、クルトに賭けの仕方を教えてあげて、全部なくなっても構わない金額しか持たせていないから」

「ああ、分かったが、あんまり無理をするなよ」

翌日の本番、ショーンにクルトの面倒を任せて、鉄防具一式を受け取り着用する。

「このタージェは気にったわ、あまり大きくなく手小回りがきくし、二重に板を張り付けた後に鉄板を張って革で覆ってリベットで留めているのね」

「私が作ったものだ、どうやら物を見る目は確かなようだな」

「でも防具が思ったよりフィットしないわね」

私は体にフィットする鉄製防具を探しているが見つからない。

「まあ革装備だけで十分だわ」

「何を言っている。怪我だけでは済まないぞ」

「シャルロッテ、頑張ってね」

クルトとショーンの対照的な反応。

ショーンの方が普通ではあるのだけど、クルトの方が正解だと思う。

騎士の出ない規模の競技会で一番というならこれで十分だろう。

「じゃあ行ってくるわ。馬車の手配とクルトの事をよろしくね」


競技会の出場者しか入れないエリアに行くと武器が並べられていた。

刃先はしっかり丸められたものだが、鉄の棒なのだから当たれば痛いだけでは済まない。

ショートソードやロングソード、シミターや両手剣、槍やハルバードまでメジャーなものが色々用意されてた。

なるほど、剣による刺突で怪我人が出ない様に剣先が限りなく無い。

槍やハルバードも見てみると剣ほどではないが突起が目立たなくなっている。

これならタージェで完全に防げると確信した。

私はその中からロングソードとショートソード、どちらともいえるような微妙であり絶妙な長さの剣を選ぶ。

他の出場者たちの装備を見ると胴体だけ鉄装備の者もいるが基本は革装備、兵士が腕試しにやってきた程度で、コンラートという者がどの程度の腕前かは知らないけれど、そこまで警戒する必要はなさそうだ。

トーナメントのくじ引きが始まり、コンラートが負けなければ三回戦で早々に当たるようだ。


私の一回戦目の相手は恐らくは正規の兵士、あまり大怪我をさせては相手が生活できなくなるだろうから慎重に勝つ必要がある。

「はじめ!」

審判が合図を送ると私はすぐに相手の右腕目掛けて体当たりを行った。

相手は少し怯んだで耐えたが、私はすぐ足払いをして相手を転ばせて、首筋に剣を突き付ける。

「そこまで!」

判定が決まると観客からのブーイングが私の方へ飛んでくる。

私は観客席にいるクルトを見つけてウインクして控えの方へ戻っていった。

コンラートの一回戦目が始まるので控えの方から様子を伺う。

なるほど、相手は恐らく正規の兵士だが、コンラートが両手剣を振り上げると兵士は剣を横にして受け止めようとする。

しかし、両手剣の質量とコンラートの腕力がそれを上回り。脳天を叩き割った。

兵士はその衝撃に耐えて反撃をしようとするが振りかぶったところで兵士の意識が途切れた。

お互に二回戦目も難なく勝ち、三回戦で相見える事となった。


「はじめ!」

審判の合図とともにコンラートが両手剣を振りかざし上から下へと切りつけてきた。

私は左のタージェでそれを受け止め、剣を握っている拳に剣戟をお見舞いした。

ミトンが思ったよりもしっかりしていたので致命打にはならなかった。

一度蹴りを入れて、相手を怯ませようとしたが、しっかりと踏みとどまって軽快に後方へと下がる。

客席から歓声が上がるのが聞こえたが、今はそんなことを気にしている暇はない。

相手が私の右側を横薙ぎで攻めて来た。

剣とタージェでで相手の攻撃を弾き返して、顔面にタージェを叩きつけると同時に相手の右側に身体を回り込ませて背中を蹴り首に剣を回す。

「そこまで!」

判定が決まると今度はブーイングではなくコンラートにかけていた人の木札が私目掛けて大量に投げ込まれた。

それも気にせずクルトにウインクして控えに戻る。

「あんた何者だ」

鼻から血を出しているコンラートが私に尋ねてきた。

「通りすがりの旅人よ。雇われる人を間違ったようね」

「なるほどギルドの…金に釣られるんじゃなかったぜ」

神官が来てコンラートの治療を行う。

その後私に一撃を入れる事すら誰もできずに大会で優勝した。

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赤の傭兵 @I_LOVE_Redmage

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