第15話 それぞれの潜入


 海沿いの大きな道に続く円形の建物。帝国では円形闘技場として使われており、アクアコロシアムと名付けられている。

 その中には様々な奴隷、魔獣、そして帝国において犯罪を行った受刑者も収納されている。

 魔獣はともかく、それ以外の奴隷や犯罪者には人権などなく、殺し合いを百回行うことで勝ち抜けば解放されるというルールで戦わせられ、見世物にされていた。


 その裏で行われている実験を知るのはごく一部のみ。

 帝国の兵士もその中に含まれていた。


 そして、そのアクアコロシアムから地下へ続く階段にいたのは、おそらく姉弟であろう捕らえられた男女の子供二人。それを連れていく少年の────。


「これはこれはウォルター様! 遅めのご帰還でしたが、何かございましたでしょうか?」



 アクアコロシアムを警備する兵士がウォルターに近づく。

 ウォルターの任務については知らないが、一週間以上もの間、帝国を留守にすることはなかったため聞いてみようとしただけ。


 しかしウォルターはそのを鋭くし、兵士に向かって口を開く。



「なに。君に言わなきゃいけないことなの。僕が何をやってるのか聞いて、その手柄を横取りでもしたいつもり?」


「っ! い、いえ。失礼しました! 長い遠征でお疲れでしょうから、私がそのガキ共を地下牢へ連れていきます!」


「いや、僕がやるよ。君は手出し不要だ」


「はっ!」



 兵士は慌てて警備の任へ。元々いた位置へ戻るため、歩き始めた。

 そうしてふと、思い出したのだ。


 そういえば、と。

 後ろを振り返りウォルターの方を見ようとしたが彼の姿はとっくにない。


 子供2人を連れて地下へ行ったようだと考え、先程の瞳の違和感については気のせいだったかと兵士は思考を止めた。





「……さて、ここから勝負だ」


「はい、ヒナ様。村の皆を救出しましょう」



 手錠を外したリルとヒビキが気合いを入れた様子を見せる。

 地下のアクアコロシアムに秘密があることは前世の知識で知っている。そこに人を改造していることも、核を使って実験していることも。


 ファンナム村の人がいるとすればそこだろう。

 一応リルに命じて手紙を送ってもらい、念には念を入れておいたしな。



「……あれ、アオイは?」


「あいつなら先に地下の方へ行きましたよ。リルさま」


「はぁっ!? 何やってんだあいつは!?」



 また好奇心でどっかにいったのかよ!!





 スラム街から横道にずれて、研究をするために建てられた実験施設へ侵入してきた碧の集団がいる。


 何処かで響くのは断末魔。

 碧色の布を身につけた血濡れの殺人鬼が兵士を切り刻み、反逆のため動く。


 もちろん一人だけでない。碧の集団はそれぞれが個人で動く暗殺集団と化していた。


 碧色の布を身に付けているのは仲間であるが、それ以外は殺していいとルールを決め、それぞれが殺し回っているのだ。


 兵士や研究者、そして飼い慣らされた魔獣と様々な奴らを。



「ひひっ」


「────!」



 ギザギザの歯をした男。今まさに研究者を一人切り刻んだ碧の集団のボス。


 その足元に、深い青色の蜘蛛がピョンっと飛んだ。



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ゲーム世界から来た前作魔王に殺されたんですけどぉ! かげはし @kageha4

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