第3話

「『犯人はこの人です』……?」


 S〜Gランクの八段階での脅威度ランク、Dランクが突然、四桁近く現れたと対魔物特殊武力組織、通称魔特に知らせが入った。

 Dランクと言えば、戦車一両ほどの戦力である。そんなモンスターが突然千体近く現れた。個体か群れかで脅威度は変わってくるが、今回のこれはAランク災害と判断された。

 深夜に差し掛かっている今、発生した付近で動ける覚醒者は一人の少女しかいなかった。


「これは、どういう…」


 顎に手を当てうんうんと唸っている、この少女は魔法少女メルト。本名鈴原紗奈すずはらさな。綺麗な長い金髪に白い肌、折れてしまいそうな、それでいて出るところは出ている、上品なドレスを纏った、お嬢様のイメージをそのまま表した様な姿をしている。


『聞こえる?何かあったの?』


 少女が身につけている通信機の向こうから、声が聞こえる。相手は松崎水葉まつざきみずは。怪我で引退した元魔法少女、現対魔物特殊武力組織の組織長である。


「松崎さん、今の状況を説明いたしますね?」


 その場の詳細を細かく説明していく。

 大量のDランクの魔物の魔力の残滓、大小様々なナニカが大量に這ったであろう跡、戦闘とも言えない、一方的な蹂躙が繰り広げられたのであろう痕跡、謎の男と、そのそばに置いてある字の書かれた石板。

 詳しく説明をしていく。


「おそらく、《触手の魔法少女》が関わっていると思われます」


『なるほど…とりあえず、その男と石板、あと魔物の魔力のデータを持って帰ってきてくれる?』


「わかりました」


 その後、魔特の本部へ戻り、引き渡しを済ませたメルトはそのまま待機する。現在、様々な要因が噛み合いメルト以外の覚醒者はいない。彼女の夜は、始まったばかりだ。




————————————————————


 翌朝、魔特の本部に、魔力学者の第一人者、相野真司あいのしんじとその妻であり助手、相野恵美あいのめぐみが訪れた。


「ふむ、この板に書いてあるように突然の大発生はこの男性が犯人だね」


「と、言いますと?」


「元気だね君は……うさぎ型の魔物と同じ魔力が検出されたんだ」


 結局、一睡もせず朝9時まで起きていた紗奈は、いつもと変わらぬ様子で真司に質問をした。四十代に入った真司は、苦笑を浮かべる。


「あと、わかりきってるだろうけど、討伐したのは噂の魔法少女だよ」


「やはりそうですか…すみません、お仕事を増やしてしまって」


「大丈夫ですよ松崎さん。この人ってば、優秀なのに使われなさすぎですから」


 水葉が、急遽入れてしまった仕事のことで謝ると、恵美が笑いながら大丈夫だと返す。

 恵美が言うように、真司は超がつくほど優秀な魔力学者であり、通常、一日出てきたら良い方である魔力の解析を、たったの三十分で終わらせられるほどのスペックがある。

 それなのに、仕事の量は普通より少し多いだけなため、暇な時間が多いのだ。


「その分、自分の研究が捗るから良いんだけどね」


「たしか、お子さんのための研究、なんでしたよね」


「ええ。まだ成果は出ていないですが、着実に進歩はしている状態ですよ」


 苗字からわかるように、真司と恵美は、優黄の親である。彼らは、優黄の感覚が戻る方法を探している。触手を隠しながらの生活から出られるように、不自由がないように。


 四人で話しているうちに、気づけばほかの覚醒者が入室し始めた。

 話をやめ、真司と水葉は仕事をはじめる。今回、真司は覚醒者の魔力検査と、研究段階の強化アイテムの試験に来たのだ。


「さあ、仕事は早く終わらせるに限るね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

触手系魔法少女です 不定形 @0557

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る