ダイヤモンド

ダイヤモンド

不壊（ふえ）にして

壊（え）なるもの

得難きにして

得易きもの

透（とお）らかにして

濁りに徹するもの

血液にして

糞尿たるもの

灰燼（かいじん）にして

金剛なり

よろこびにして

かなしみこきまぜしもの

そは

白濁にして

純真なり

怒りにして

篤実なり

夢寐（むび）にして

天狼なり

甘きにして

頑迷なり

我は君が理（ことはり）をいかにせむ

純潔にして

裂帛たるもの

吸血にして

吸材なるもの

反魂（はんごん）にして

ニンゲンなるもの

万物の透露にして

遮断なるもの

明（めい）にして

不明（ふめい）にして

堅固として

柔弱にして

固陋（ころう）にして

あきらめつつ

奪命（だつめい）し

人間（じんかん）にして

つひに桃李たるもの

おもひにして

正体なく

君は我をたぶらかさむ

おもひなき身のおもひもて

我をかみ砕くもの

裁断しつつ

縫合するもの

流れゐづる生き血にして

雷鳴

世に脳漿は飛び散るが

意に介さず

法は清まれど

意に介さず

邪は増すれど

意に介さず

そのみめかたちに

あるひは草木（さふもく）さへうらやみ

天なる父をものろつたとか

李（すもも）はかろきおののきに

彼（か）の酸をのろひ

桃はあつき腕（かひな）組み

彼の甘（かん）をのろつたとか

獣はその放埓（ほうらつ）を諫められ

ふかく恥じ入つたとか

乙女（おとめ）はその貞淑を

差し出したとか

しこうして

またしかりにして

酸はなく甘はなく

呪も理（ことはり）もなく

地上また天の顧慮から果て遠く

また遠く