第29話 わたしと日常と

 もう、どこに行っても同じ事の繰り返しだった。


 高熱と痛みで起き上がれない日々が、2ヶ月ほど続く。


 精神的にも、限界を感じていた。僕は、治療を諦めた。


 1年の半分を寝たきり状態で過ごす、そんな、僕に瞳はまだ変わらず支えてくれる。


 ある日、瞳が帰ってくると一緒にお客さんを連れていた。


 僕は、発作で寝たきりだったが、手を上げて挨拶を済ますと、男性は「もう一度、病院へ行きませんか?」瞳の連れてきた人は病院のスタッフらしい。


 それから、瞳は精神的に不安定になり、精神科病院で眠剤を出してもらっている事を話してくれた。


 話を聞いて、無理をさせていた事に悔やみ、「ごめんね、分かったよ。もう一度、行くよ。」


「知らなくてごめんね。自分だけが辛いと思いこんでいた。」


「発作で苦しんでいるのは貴方。何もできないけれど、傍にはいるから。」

 まだ、瞳は諦めていなかったのだ、それどころか、また立ち上がれるように考えている。

 適わないな。


 発作が落ち着いてきた頃、約束の精神科の病院へ行くことにした。瞳も付いて来てくれる。


 先生に会うと、

「やっと来たね。奥さんからも相談されてね。内田と言います。じゃ、話を聞かせてもらいたい。」

 と過去の病歴から、最近の状態に全てを話していく。怪しさ全開の様だが、聞き入っていた。取り敢えず、血液検査をして訪問看護で状況を確認して行く。


 次の発作で、担当の看護師さんは、寝たきりの僕を見て、「えっ」という顔をした。バイタルチェックをし、寝返りもできない僕の、手足の炎症部をカメラに撮り、急いで帰っていった。


 2ヶ月ほどで、また通院すると「報告は確認しているから。」と話し始める。「紹介状を持って、このペインクリニックへ行って下さい。」と言われた。先生の知り合いらしい。


 言われた通りに、紹介状を持って行くと、話していたのか、奥田先生はまた、採血とレントゲンを取られたが、何時もより多く血を抜かれた。


 次に通院すると、

「言われていた痛風じゃないね。あと、ロキソニン、ボルタレン、カロナールは効かないのでしたね。」また、聞いたことのない、薬で鎮痛作用があるか処方される。


 発作が始まると、あれやこれやで、いくつ物薬を試されていく。

 トラムセット等々


 半年近くかかって、ステロイド剤が処方された時、始めて効果を確認する。


「奥田先生から、自己免疫疾患で間違いないでしょう。膠原病は聞いたことありますか?良く知られた物で、リウマチ等があります。」


 しかし、なかなかに鎮静しないので、量が多くなる。


 そして、軽度になると減薬で再発する。


 内田先生へ、通院で相談する「ステロイドの治療を、先生にお任せしたい。」

 状況を知っている先生から

「何歳まで生きたいと思う。」「そんな事は・・余り考えていないけど、60とか?」

「僕は、貴方の生活の質を上げたいと思っています。今、ステロイドが有効と分かったならこれを最大限に活用していこうと思う。ただ、平均寿命より早くなると思っていて下さい。60歳までは、私が絶対に守ります。」


「寝たきりでいるより、マシなら何でもいいです。」と頭を下げお願いした。


 瞳は俯いたまま、話を聞いていた。


 痩せ細った腕と脚、時間は巻き戻らない。

 死んだ方がマシだと、ずっと考えていた。


 何処で、どうやって。それが、今になって治療方法が見つかるなんて。(先生に、出会うのがもっと早かったら。)そう思わずには、いられなかった。


「よかっね。」瞳の言葉が、痛い。

 信じてくれていた瞳に、何を返せるのだろうか?


 そう思わずには、いられなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎週 土曜日 00:00 予定は変更される可能性があります

ありのままで moca @moca2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ