第12話 大成功(最終話)

「なんで……わざわざ助けに来てくれたの?」

 

 エレーナを救出したあと、義臣は倉庫から出て港の堤防に佇んでいた。

 背後の倉庫では、咲宮の警護隊が遅れて到着して現場に転がる不良たちの後片付けを始めている。

 そんな中、堤防から足を投げ出す形で隣に座っているエレーナがそう問うてきたのである。


「なんでって……それはまぁ、だから……」


 助けに来た理由なんて、エレーナのことが好きだから以外にない。

 しかしそれをいざエレーナに伝えようとすると、言葉が喉から出なくなる。

 とはいえ、いつまでもまごついていたって仕方が無い。


(……伝える覚悟を決めて来たんだろうが)


 自分を叱咤するようにそう考えた義臣は、直後に意を決したように息を吸い上げ、


「お前のことが好きだからだよ」


 ひと息に告げた。

 するとエレーナは「ふぅん、そうなのね」と聞き流したように応じてから「――ふぇっ!?」と二度見でもするようなリアクションを発生させていた。


「な、ななななななんて言ったの今!? なんか変なこと言ってなかった!?」

「だから……お前のことが好きだから助けに来た、って言ったんだよ」


 後ろ頭を掻きながらもう一度告げる。

 なんとも締まらないやり取りである。


「わ、私のことが好き!? ウソおっしゃい!!」

「……こんな場面でウソつくわけないだろ」

「じゃあホントだって言うの!?」

「だからそう言ってるだろ……」

「あひゃああああああああああああああああああ!!」


 エレーナが壊れたように叫んでいた。


「な、なんだよ……」


 エレーナは頭を抱えながらその場に仰向けになっていた。

 悶絶したように若干右に左に身体をゴロゴロさせている。

 海に落ちそうでハラハラするが、そうはならないままやがて――


「わ、私もよ……」

「……え?」

「わ、私も義臣のことが好きだったのよ!!」

「!?」


 思いも寄らぬ告白が来て、義臣は一瞬前までのエレーナのように、


「う、ウソだろ……」

「ウソじゃないわよ! 何よ! あなたも結局私を疑ってるじゃない!」

「だ、だってそれは……」


 なんの前触れもなくそう言われたら驚く。

 しかしながら、ひょっとしたらエレーナもこちらと同じような心境でこれまでを過ごしてきて、最近になって本当の自分と向き合ったのかもしれない。

 そして、義臣のことが好きだという自分に気付いたのかもしれない。


「――うむうむ、善きかな善きかな」


 そんな折、背後から近付いてくる人影があった。

 振り返ってみると――


「……親父」

「パパ……」


 そう、そこには義和と春男の姿があった。

 心配して駆け付けたのだろうか。

 それにしては、駆け付けるのが早過ぎる気もする。


「お前たちはようやく自らの本心と向き合い、互いに想いを伝え合うことが出来たようだな。素晴らしいことだ」

「……わざわざ来たのか?」

「まあな。――

「「……は?」」


 仕掛け人。

 何やら思いも寄らぬ言葉が飛び出してきて義臣とエレーナがポカンとしてしまう一方で、義和と春男はくふふと笑い合っていた。


「行くぞ春男?」

「いいとも義和。――せーの」


 直後に父親2人は声を合わせてこう言った。


「「――ドッキリだいせいこーおおおおおお!!!」」


 ひゅ~~~~。

 ぱんっ、ぱぱんっ。


 どこからか花火が打ち上がる。

 それと同時に倉庫の中から私設警護隊と不良集団が笑顔で拍手しながらぞろぞろと出てきた。

 そんな様子を見て、義臣とエレーナはしてやられたと言わんばかりに揃って顔を覆い隠すことになった。


(……親父たちがテレビ屋なのを忘れてた……!)


 カメラが回っている様子はさすがにない。

 しかしながら、要するにこれは今の言葉通りに――ドッキリ。

 いつまで経ってもくっつかない2人を急接近させるための、いわば茶番だったらしい。


「はーっはっはっはっ! そんなに都合よく誘拐事件なんて起こるものか! すべては俺と春男の仕込みだったのさ!」

「親父……」


 助走を付けてぶん殴りたいレベルだった。

 しかし、


(……まぁ、こうでもされなきゃ、エレーナに想いを伝えるなんていつになったか分からないのも事実だからな……)


 ドッキリ許すまじな気持ちはありつつも、言うなればこのドッキリは必要悪かもしれない。そう考えると怒りはさほどでもなくなり、やれやれと呆れる気持ちの方が強くなった。


「……よくやるよ。こんなことのためにわざわざ不良役のアクターを雇ってるとか。この港も借りたってことかよ」

「まあな。息子の幸せを願えばこそだ。そのためなら金に糸目はつけんさ」


 そう言ってニヒルに笑った義和は、


「それより、早くチューをしなさい」


 と言ってきた。

 義臣とエレーナはぶっ!! と噴き出してしまう。


「へ、変なこと言うな!」

「変なこととはなんだ。好きだと告白し合った2人はチューをするのが古来からの習わしだろう。ほれ、早くチューしろ! きーす! きーす!」

「コールすんな!」


 ところが、義臣の叫びを尻目に周囲の全員が手拍子とコールをし始めている。

 端っこに居る詩乃だけが唯一「私は旦那様を支持しません……」とムッとしていた。どうやら泣く泣くドッキリに付き合っていただけのようである。


「ああああうるせえ!! 行くぞエレーナ! こんな場所からは逃げる!」

「えっ」


 義臣はエレーナの手を掴んで港から駆け出した。

 それもアリだ! と義和がサムズアップしている。

 そんな仕掛け人たちが全員見えなくなったところで、義臣とエレーナは足を止めて息を整え始めた。


「……義臣は……ホントに私のことが好き、なの?」


 そして、確認の言葉が飛んできた。

 だからそれに「……ああ」と頷くと――ちゅ。

 と、唇に柔らかな感触が。

 それはもちろん――


「……じゃあ今のが交際開始の証、だからね?」


 真っ赤な顔をすぐに引いて、エレーナはズンズンと街の方向へと歩き出してしまう。

 義臣は暫時呆気に取られていたが、ほどなくして小さく笑いながら気を取り直し、頷いた。


「分かった……」


 こうして2人の人生は次のステージへと進むことになる。

 詩乃の追撃に苦労する場面も出てきそうだが、それでも2人は輝かしい未来に向けてしっかりと邁進していくことになるはずである。





――――――――――


ご愛読のほどありがとうございました。

ご覧の通り、今作はこれまでとなります。


正直なところ、今連載している作品の中だとこれが一番伸びて欲しかったのですが、現実は厳しかったです。

悔しいですけど、これを糧にまた頑張っていきます。

興味があれば他作品やこれからの新作もチェックしていただけたら嬉しい限りです。


そんなわけで、本当にありがとうございました。

読了のほどお疲れ様でした。

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お見合いに来たのが犬猿の仲の女子だった(タイトル模索中) 新原 @siratakioisii

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